(505) 出世魚 と 人生 -- その2

 (505)  出 世 魚 と 人 生 ―― その 2

前回の{その 1}では、「出世魚」に倣って 女性の一生を =「親」:15歳から、 =「新老人」:65歳までを 順序良く語ってみた。今回は その続編である。

⑦ 平安の “おいひと” 。西暦 800年頃 平安時代の 「続日本紀」 には “おいひと” (老人) という記載がある。その時代は 平均年齢は 30歳 に届かず、社会状況は 前回 「その1」 で述べた “ ② 30歳 = 「祖父母の年齢」 ” に相当するだろう。つまり、人々は 30歳頃 に祖父母になり、「 お爺ちゃん ・ お婆ちゃん 」 と呼ばれていたに違いない。ちなみに、漢字には 訓 (くん) 読み と音 (おん) 読みがあり、平安の初期の老人は 訓読みの “おいひと” であっても、後期には 音読みの “ろうじん” になったかも知れない。なにせ 平安の “おいひと” は 65歳 よりもはるかに若く しかも 稀で、介護の問題は皆無だったことは確かである。

⑧ 鎌倉の “年寄り” 。700年 ほど前の兼好法師の 「徒然草」 (つれづれぐさ) には “年寄り” の言葉が現れた。ここで注意 ! ―― “としより” は日本語の 「訓」 (くん) 読みの言葉であり、言葉自身が社会に溶け込んでいたことが分かる。それは 単に ‘年長者’ の意味だけでなく、政治組織や相撲界などの社会を導く役職の名前でもあり、その習慣は 徳川時代から今日にまで及んできた。「お年寄り」 と 「お」 を付けて言えば、語感の柔らかい言葉として 今なお一番愛されている。

⑨ 平成の “高齢者” ―― その経緯 。日本は長いあいだ 「老人 と 年寄り」 という言葉だけで間に合っていたのである。たとえば、「老人福祉法」 は 1963年 の法律であり、そのほか 老人保険法 ・ 老人医療 ・ 老人ホーム など、「老人」 という言葉になんら偏見はなかった。ところが日本が裕福になった 1970年代 、老人福祉が高揚され、老人医療の無料化につれ、世間は 「齡をとりたくない」 というネガテイブな偏見を持ち始めた ―― 根拠は “ 老化 ・ 早老 ・ 老衰 ・ 老廃 " などのイメージがあったのか?
出世魚と人生
♣ しかし 「老」 には 「 老練 ・ 長老 ・ 老大成 ・ 家老 」 などなどの良いイメージだってあるのだ。ちなみに 中国では 「老」 は尊敬の念をあらわす言葉であって、「とう小平老人 とか 孔子老人」 と呼んで崇拝されている。英語でも、「初老の (elderly) 、齡老いた (aged)」 などは上品な言葉だが、ナゼか日本は 「老」 を嫌い始めた。政府もマスコミも それを察知 して 「老人」 という言葉を毛嫌いして 「高齢者」 という無味無臭の 官製用語 で置き換えた。高齢者という言葉の欠点は、それが 全部 音 (おん) 読みであることだ。まさか “たかとしもの” とは読まないだろうが、日本語として定着するためには、訓 (くん) 読みで 耳に優しい言葉が望ましいと思う。

⑩ 21世紀 の “無病” と “天寿” 。人口に対する老人の比率は 昔 4% → 今 24% → もうすぐ 40% となる時代だから、この幅広い老人人口を言い表すのに たった一つの 「言葉 = 老人」で は 物足りないだろう。新しい用語を発案するために、年齢に沿って老人の身体状況を観察すると、(イ) 50歳 から増える 脳 ・ 心疾患 、(ロ) 75歳 をピーク頻度とする 「ガン」 、が目立つ。これらは 「生活習慣病」 の遠縁に当たる病気であり、‘一波’ (ひとなみ) あったあと 片付く。

♣ その波の後の 75歳 を越えて ピカリと光る疾患が 「認知症」 である。その頻度は年齢とともに増え、85歳 で人口の約5 割 、100歳 で 8割 、110歳 なら10割 、という状況である 1) 。その 頻度分布 を良く見ると ほぼ 正規分布 であるから、認知症は病気ではなく “人間の寿命切れ現象” というほうが適切であり 2) 、このような現象は “白髪の頻度” などの老化現象一般に見られる。そこで 21世紀の老人を二つに分けて 「無病」 と 「天寿」 としてみた。「無病」 とは 「もう新しく病気にかかることは ありません」 (上記の(イ) と (ロ) )の後、という意味であり、「天寿」 は 「病気も命も終わって天に達しました」 ( 80歳 以降) ―― 天寿は変更できない、という認識である。

♣ どんな動物にも常識的な天寿が存在し、ヒトも例外ではない 3) 。” ヒトは例外だ” 、と願いたいからこそ、介護の現場が混乱するのだと私は思う。私たちは ここで 「出世魚」 の例えに倣って、生を受けたあとの 「肉体の流れ」 を、①、②、③ . . . と受け止め、最後は ⑩ の 「無病と天寿」 で完結するのが人生であると納得すれば、心休まるものを覚えるのではないだろうか。  

結論:  「出世魚」 の例に倣って、人生の後期を ⑦ ~ ⑩ に分け、その意味を検討した。還暦後の人生は 「おいひと」 であり、その前期を 「無病」 と、後期を 「天寿」 と名付けることを提案した。無病期は “掛かる病気は ‘もうおしまい’ という意味、天寿期は “これぞ天寿 ! ” の意味である。「出世魚」 の分類はヒトの肉体分類に過ぎない : ヒトは後半期に入ると 肉体の上に 「知恵と経験」 を加えて生きるものであるから、 「心の健やかさ」 を学び それを維持して行くことが 天命の筋道であろう。
 
   参考: 1) Robert Epstein: Brutal Truth About the Aging Brain. Discover 10:48, 2012. 2) 新谷冨士雄・弘子、「平均寿命と統計応用」、福祉における安全管理 #498, 2015. 3) 新谷、「あなたは 親が何歳で逝けば 満足か?」、ibido #480, 2015.

  職員の声

声1: “老人” という言葉は 別に悪いイメージでもないのに、代理語として ‘高齢者’ という新語が作られた理由は何なのか? ‘老人ホーム’ は 今でも違和感なく使われている言葉ではないか?(係り: 官製用語 = 高齢者 には “権威と威圧感” があり、人々はそれを好むからだろう)。

声2: 歳を重ねれば 肉体は 年々 衰弱するが、「心の健やかさ」 は常に維持できないものか?(係り: 更年期を過ぎれば 遺伝子は肉体を十分に守ってくれない;その代わりをしてくれるのが 「人間の知恵と経験」 であり、それが老人を保護してくれる ーー 老人で一番 大事なもの . . . それは 「心」 だ)。

声3: 昔 ‘老人’ は尊敬されていたのに、人が長生きし始めた 1970年代 から 老人は 嫌われ始めたのですね:身体は衰えても精神は向上できる、その差を埋めるのが 介護の楽しさ かと思う(係り: 人間は生物だから、更年期までは 遺伝子が身体を守る ; それ以後は 「人間性 = 心」 が 体の衰えを補ってくれる ―― 今の老人は ‘人生50年 ’を 2倍 に亙って生存するから、従来 特に必要でなかった 「老人の優しさ」 が備わっていなければ 尊敬の手掛かりを失ってしまう)。

声4: 「無病」 や 「天寿」 という新しい発想による命名に驚きを感じる(係り: 命の基本を再掲すると:ーー更年期 (50歳) までは 遺伝子が病気を防いでくれる : WHO の老人 (65歳) まで生きる人は 病気が無かったからこそ そこまで生きら れたのだ . . . もし病気があれば その多くは生活習慣病として自分が好んで招いた病気である : さらに長生きすれば、人間の種 (しゅ) としての天寿まで生きられる)。

声5: 私のご利用者 (89歳 女性) にお尋ねしたところ、「いろんな病気は全部 卒業しました」 とのお返事 . . . この状態を 「無病」 と言うのですか?(係り: その通り : 更年期までの病気は病院で治る ; 65歳老人の病気は生活習慣病の自業自得だ : それを乗り越えたら 病気の無い時期が訪れる ―― それが 「無病」 である : さらにその後まで生きれば 「天寿」 に達する訳だ)。

声6: 年齢だけで名称をつける時代ではないと思うけれど(係り: 事実を見よ ! 歴史的 ・ 遺伝子的には 40歳 で ‘老人’ になるのに、人は 65歳 になっても 「老人」 と呼ばれるのを嫌がる . . . もし 80歳 になっても 「無病」 な人なら 自分の過去の人生に感謝するだろうし、そこで 「天寿」 を自覚すれば、なにも若者から税金をかすめ取って 延命を画策することもないだろう)。

声7: 後期老人に 「無病」 = 「新しく掛かる病気はない」 との命名 は、聞いただけで幾つかの意味が取れそうで 面白い命名だ(係り: 80歳 になれば 病気のない人はいない、と人は思うだろうが、それは 「磨り減り」 ( = wear and tear) と 「病気」 ( = malady) を混同しているからに過ぎない . . . 永く使った車のタイヤが ボーズになったのを病気と言う人はいないだろう : 認知症も長命現象の一つであり、若い時には決して見られない)。

声8: 私は 20歳代 だが、将来 歳をとり 「老人」 と言われれば ”老いている” と感じ 嫌な気分になると思う ーー 「高齢者」 と言われるのなら 嫌な気分にはならないが、どこか “他人事” と感じる . . . 「老人」 と言う言葉には 「病気・衰弱 . . .」 の意味が付いて回る . . . 「無病」 や 「天寿」 だと、経験も積み 人生を学び終えたという 穏やかな安心感がある . . . ‘良い言葉’ だと思う)。

プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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