(511) 長 幼 の 序 (ちょうよう の じょ)

  (511)  長 幼 の 序 (ちょうよう の じょ)

この言葉を聞かなくなって久しくなるが、これは 「孟子の教え, ”五倫” の中の一つで年少者は年長者を敬うべき」 という意味であると 教えられて来た。自分が子供だった頃は 何の疑いもなく これを受け入れていた…だって 親にせよ学校の先生や兄貴たちは 自分よりも遥かに優れていたからだろう。しかし学校を卒業して就職する頃には、社会の事情が だいぶ 変わってきて、‘年長者の言うことを 必ずしも敬うだけではない’ と生意気になっていた。

♣ あるとき、5年 ほどの先輩が私ら仲間を集めて言う :―― { 君らは ‘上克下’ (じょうこくげ) を知っているか? } ―― < は? 何のことでしょうか?> ―― { それなら教えてやろう…日本の社会は ‘上克下’ で成りっているが、君らの態度は ‘下克上’ だ } ―― < …ということは 私らが 先輩のことを ないがしろにしている、ということですか?> ―― { そうだ ! 俺たちが就職したころにはナ、卒業年次が 一年 下なら ‘奴隷’ 同然の扱い、と習った…煙草を買って来い、とか 俺の仕事の手伝いをせ ! と言われれば、素直に従ったものだ } ―― < エ? そうだったのですか?でも、今の時代に それは はやりませんよ > ―― { そ、それを ’下克上’と言うのだ... 全く 今の若者の教育は なっちょらん ! }

♣ あれから半世紀が経ち、私は ‘長幼の序’ という言葉を すっかり忘れていが ある日、この言葉の意味を解説する一行を知った ―― それは こう述べる :―― 長幼の序とは ‘年長者と年少者の間にある { 一定の秩序である } というものであった。私の目は ‘一定の秩序’ の言葉の上に止まった。‘一定の秩序とは何だろう?’

♣ さらに先週、別な解説を見た…それには こう書いてあった :―― 「長幼の序」とは {年長者に対する戒め} であって, 年長者にふさわしい人間たるべく研鑽し, 年少者を慈しみ、振る舞うこと。―― 私は思わず膝を打った…だってこの一行が私の 「介護保険」 の ある問題を解いてくれたからだ。
長幼の序

♣ 介護保険の主旨は 「尊厳を持って老人の ‘自立’ を支援すること」 1) である。だが、現実の介護には 「要介護 3」 を越えると 「自立」 なんて 夢物語に過ぎない。つまり、一旦 要介護になれば 一生 ‘自立’ とはご縁が切れ、‘依存’ あるのみとなる。

♣ ヒトの寿命 は 健康寿命 と 病気寿命の和であり、健康寿命とは “健康上の問題が無く、日常生活を普通に送れる状態” である。病気寿命の具体的な期間は 「 男 : 9年、女 : 13年 」であり 2)、その間 ヒトは 病気ながらも 延寿を享受できる。しかし この延寿を、立場を変えて眺めれば、国の介護予算を膨張させ、介護保険が始まった 2000年 の予算 3兆円 余りであったものが、2015年 統計では 10兆円 を越えるほどになり、今後の老人の増加によって さらに膨張することが避けられなくなっている。国の歳入は 45兆円 であるから、こと介護だけで 1/4 程を消費していることになる。

♣ しかし 物事はお金の額だけで判断することはできない…すなわち ‘金額と価値’ のバランスが取れていれば問題はなかろう。そこで日本の予算配分を見ると、老人福祉給付に 70 % 、子供福祉に 4 % という割合であり、老人福祉への予算が突出して多く、これは 世界一 と報告されている。私は この給付額の 70 % が老後の幸せに大きく関与していると判断されるのなら、なに、ちっとも不当な パーセンテッジ とは思わない。

♣ だが考えてみよう。戦後 老人の数が増えたことは周知のとおりであり、その人口に対する老人の比率の実態は 戦後で 4 % 、現在で 24 % ( 6倍 )、先行き 44 % ( 11倍 )に膨れ上がると予想されている。上記の ‘病気寿命’ の維持に掛かる予算は、要介護 5 であれば、毎月 35万円 + 雑予算で年間 500万円 ; 女性の病気寿命は 13年 という期間を掛け合わせると お一人様 6,000万円 … これほどの出費が一般家庭で担えるだろうか? 仮に この “増加した老人の数とその単価” をも社会が耐えうるのならば、私は日本の社会主義は世界に冠たる制度であると評価する。

♣ だが もう一度振り返ってみよう :―― 忘れてはいけない…「健全な社会には健全な次世代の確保」が必須条件である。その次世代を表す 「出生数」 は 毎年低下して ピークの年間 270万人 は別としても、近年の定常出生数の 150万人 はおろか、現在は年間 100万人 を割る勢いであり、今後はさらに減ると推計されている。その原因は単一ではないが、その根底にある思想は、日本独自の 「 ”古式な” 長幼の序」 という思想に起因しているのではなかろうか? 為政者は老人を大事にするあまりに 近眼 に陥り、社会にとって 大事な 次世代の育成 という大仕事を忘れ、その予算を わずか 4 % でお茶を濁しているのでは あんまりではないか? 

♣ そこで私は冒頭に述べた 「長幼の序」 の を主張したい:――つまり、“長幼の序” とは { 年長者に対する戒め } であって,年長者にふさわしい人間たるべく研鑽し ,年少者を慈しみ、振る舞うこと  ――すなわち、逆説的だが、老人世代は 次世代を担う 年少者 を 社会的に いたわって欲しい のだ。生命現象とは、「 生まれ ・ 育ち ・ 成熟と繁殖 のあと 次世代に バトンを 無事に 授け渡すこと 」 であって、“これを忘れ、自分のことしか考えなかった地上生命” は すべて “淘汰され絶滅” した 3) 。 ヒトも例外ではない。このことを社会人、とくに 為政者 と 年長者 に熟慮して頂きたいと念願するのである。 2200字    

結論:  ① 「長幼の序」という言葉の意味を三つほど述べた。② 現在の社会福祉費の 70 % は老人向けであり、子供には 4 % しかない。 老人の数は 6倍 に増え、多々老・少子 の傾向は加速されている。生命の原理は 「 生まれ ・ 成長 ・ 成熟 ・ 繁殖 」を基礎とする ―― つまり、次世代の子孫を 正しく確保できない場合は 「種の絶滅」 しかないことを念頭に置くべきであろう。

  参考: 1)  新谷冨士雄・弘子、「健康寿命の帰趨」;福祉における安全管理、#510, 2015. 2)  「福祉は”ジワコロ”を優先か?」、ibido, # 507, 2015. 3) 「身体と習性の異常進化」、ibido, # 508. 2015.

職員の声

声1: 「長幼の序」 とは 初めて聞く言葉だった、リベラル・アーツ を聞いていると とても勉強になる(係り: この言葉を ’初めて聞く’ という人は 聴衆の 1割 ほどいた:介護保険を 立案 ・ 運営 している人たちは ‘先輩を敬うべき’① を教えられた時代の人だ ; 他方、‘年長者は年少者を慈しみ、年長者にふさわしい人間たるべく研鑽し振舞うこと’③ に賛同する人は ‘老人だけでなく 子供の福祉と 持続性のある社会のバランスを見極められる人だと思う ―― ① と ③ は似て非なるものであり、介護保険に対する影響力はまったく逆である)。

声2: 私が就職した 20 年前、目上の男子が 「灰皿をも持ってこい ! 」 と言ったので 私は腹を立て 「仕事と関係ないでしょ」 と答えたら、周りの人達が失笑した ―― 年長者は尊敬される言動をしなければダメよ ! (係り: 本文の ‘煙草を買ってこい’ と同質なイ ヤな先輩、でも今時 そんな人は消え失せた)。

声3: 長幼の序 ③ を実行すれば 年少者も自然に年長者を敬う気分になるだろう ―― 介護に当たって 私はそんな年長者になりたい(係り: 「古参兵の空威張り と言って、変な先輩は 「フケ飯」 を食わされるのがオチだ ! )。

声4: 生命の循環は 親から子へ伝えられる、社会もそうあるべきと考える : 老人は奉仕されると同時に 次世代を育成することを考えて欲しい(係り: 認知症ならば 考えることができなくなるが、その場合、介護保険の立案者が 介護者を納得させるような制度 を工夫してこそ 長幼の序が活きてくるのだ)。

声5: 母は私に ‘年長者を敬え ① ’ と教えてくれた; だが私は今回 ③ の意見に賛同 し、また自分自身が老境に入ったときの目標にしたい(係り: 単に ‘古参兵’ の老人になるだけでは 若者の 「下克上」 でやられかねない ; 10年 選手なら 10年 の風格が欲しいね)。

声6: 基本は年長者を敬うのに賛成だが、今の介護保険では老人が過剰に優遇され 子供に関する配慮が乏しい(係り: 外国に比べ、老人が過剰保護されているのは 古風な ‘長幼の序’ ① を信奉している 老人の指導者 の考えであり、また 政治家は選挙で当選するための良い口実としてそれを利用するから、と言われる)。

声7: 福祉予算の配分が 老人向け 70 % ・ 子供向け 4 % では、今後増えていく老人にあげる予算がなくなるでしょう?(係り: 欧州では消費税を 30 % などに上げて対処している由; それでは 長幼の序 ③ がますます崩れてしまう)。

声8: 「老人は楽をしたい ! もっとお金が欲しい ! 」 と言うが、今の制度で それを実現すれば 子供たちは死に絶えてしまう。

声9: 為政者は老人を大事にするあまりに近視眼に陥り、社会にとって大事な次世代の育成という大事業を忘れて、その予算をわずか 4 % で お茶を濁している ! …… これはすばらしい 名言だ ! これだけズ バッと 的確に発言するのは凄いことだ … 全国に発信してはどうか?(係り: 為政者の世代が若く代われば、自ずと修正されてくるだろう)。
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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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