(512) 老 後 の 半 世 紀

 (512) 老 後 の 半 世 紀     

 双子の姉妹 ( キンさん ・ ギンさん ) は 満100歳 の 1991年 (平成 3年) 、テレビで初デビューされた。

♣ そのときの司会者の質問 : 「記念品のお金をどのように 使われますか?」 に対して、二人のお答えは 「老後のために蓄えておきます」 。これを聞いていた全国のテレビの視聴者たちは ドッと 笑って 拍手したそうだ。今の 100歳寿 は 6万人 に近い数に増えたが、当時はまだ 3千人 レベルで 100歳寿 の双子は珍しかったのだ。特に、100歳 であっても “老後” のために貯蓄する、という ‘日本的な習性’ に対して拍手喝采があったと思う。私も同感であったし、“100歳 であっても 自分たちは まだ ‘老後’ではないよ” と思う その気迫に私は感心した。

♣ さて 100歳 が ‘老後でない’ のならば、何歳からが “老後” なのか? 選挙があれば、立候補者の叫びの中には ‘必ず’ 次の声がある : 「皆様方の 幸せな老後の後押しするために 私は尽力するものであります ! 」 。聴衆は老人ばかりではないが、きっと ‘老後の後押し’ という言葉は 聴衆の心を和ませるものがあるのだろう。彼らも当選して 幸せになるのだ。

♣ 経済辞典を見ると、こう書いてある : 「老後とは、老齢 age のみを理由に労働市場から永久に引退すること」 ―― なるほど、鍵は 「労働市場」 にあるのであって、「私は もう歳だから 働かない」 と決めた人の生活が 「老後」 なのであろう。家庭の主婦の場合、定年 なんてないのだから、いつまでも ‘現役’ であるし、「 キンさん ・ ギンさん」 にとっても ‘まだ老後ではない’ のであり、その鼻息たるや 見習うべきでないか。

老後の半世紀

♣ 皆さん方はテレビ漫画の 「サザエさん」 をご存知だろう。この漫画は終戦の 2年 後の 1947年 に始まったロングランの少女漫画であり、初期設定のまま、登場人物の年齢は変わっていない : サザエさん は 24歳 、父の波平はサラリーマンで 54歳 、母のフネは家庭の主婦で 50歳 ( 図 1)。浪平を見て、この姿が 54歳 とは とても思えず、その昔の人は ’老けていたのだろう’ と想像する。

♣ 事実その通りであって、1947年 と言えば 昭和22年 で終戦後 2年目 、男の平均寿命は 50.1歳 で仕事の定年は 55歳 の時代だったのだ(図 2) 1 ) 。 彼はもう平均年齢を 4年 ほど過ぎているし、あと 1年 で定年が訪れる。現代の状況に翻訳すれば、彼を定年で評価すると 64歳 ・ 平均年齢 でみれば 84歳 となる (今の定年は 65歳 、平均年齢は 80歳 )。換言すれば、70年 前の男は こんなに老けており、平均年齢を越えても こんなに働いていたのだ ! ―― 時代の変遷をしみじみ感じる。
老後の半世紀

図 2 で説明すると、1947年 の平均的男性は、定年の 4年 前の 50.1歳 で逝ってしまうので、「老後」 と呼ばれる時期は存在しないことが判明する。歴史的にみれば、これ以前の 大正 ・ 明治 ・ 江戸時代 などにも 「男には老後なんて なかった」 と言えるだろう。ところが、バブル真っ盛りの 1980年 (昭和55年) の老後は 25年間、2012年 ( 平成24年) の老後は 30年間に及ぶ !  ゼロ だったものが ’30年間’の長き になったのだ ! だから、 現代の男は 日本の社会に向かい ‘泣いて感謝’ すべきではないか?

図 2 の下半分は女性についての有様であり、“子育て後の期間” の延長は 35年 の長き に及ぶ。ところで、近年の女性たちは これを 本当に ”泣いて喜んで” いるだろうか? 皆さん方は 高齢女性の現実 を知っているから、その答えはここに書くまでもなかろう。

♣ つまるところ、「老後というものは 1950年頃 に現れた」 のであり、それ以前の歴史時代の男には “老後はなかった” 、しかし 女には 10年 程はあった、と言えるだろう。 私らは 昔の物語や絵画などで ‘老後の人物’ をよく見るが、その実態は物語ほどに多くはなかった、ことも分かる。

♣ このことを “裕福な階層” を代表する 「天皇」 の年齢で検討して見る : 神武天皇などの古代天皇の没年齢は 300歳 を越える 神様年齢 であるから除いて考え、300年前 の 1702年 以後現在まで、10代 の天皇の内、55歳 以上の方は 「後小町、光格、明治、昭和」 のご四かたのみであった。実社会は平均値でなく 実数で検討すべきであるが、「老後」 に恵まれた男性なら 1割 にも満たなかったではあるまいか? 

♣ 以上により、老後という言葉が社会的に意味深くなったのは せいぜい 戦後半世紀 ほどの歴史なのである。現在の私たちは この老後のインパクトが巨大になるにつれ、老人保険法 ・ 介護保険法 などを創り出したのだ。だから、私たちの老人に対する認識は 「生理学 ・ 心理学 ・ 社会学等 」 について やっと 半世紀 ほどの経験しか有していないから、到底 完全なものではない。

♣ また老人問題は それ自身だけを孤独に取り上げても意味は少ない ―― 人口全体、社会全部の中で取り扱うべきものであろう。私たちは日々観察する老人たちを通して 「老後、特に ‘無為徒食’ の老後 とは何なのか?」 を考え続けようではないか。 だって 人間以外 2)の動物には 「老後」 なんて期間は 存在しないのだから 1956字   

結論:  ① 「老後」 は頻繁に用いられる言葉であるが、その実態は 「半世紀前」 に出現した 若い現象であることを説明した。② 老後が長いことは 有難いハズであるが、それを 泣いて喜ぶ人 や 幸福感を述べる人は少数である。③ 私たちは「老後」について、そのメリット・デメリットを率直に考察し、建設的な「新しい老後」を構築しようではないか !

参考: 1)  神山晃男 : 「浪平の年齢と老後の誕生」、こころみ、2013.11.20. 2)  松澤哲郎 : 「想像するちから ーー チンパンジーが教えてくれた 人間の心 ーー」、学士会報 No.913, July 2015.

  職員の声

声1: キンさん・ギンさん、あれから もう 20余年 、自分も歳を重ねたが、私は 「もう歳だから働かない」 という気持ちはない: 健康で元気なまま 限界一杯働くつもりだ(係り: 現在の超高齢者は ‘働かなくて当然 ! ’ という古風な時代に育った …. 介護をする現代人は 社会の仕組みがよく理解でき、協力的になれる)。

声2: 波平さんの年齢が 54歳 とは驚き、僕は子供の頃から 70歳位 と思っていた ―― 戦後、平均年齢が高くなったことを つくづく実感する(係り: 昔の 54歳 が みんな ツルッパゲ とは言わないが、とにかく威厳に満ちた老人であった)。

声3: 確かに波平の顔は 54歳 とは思えない、他方 テレビで見るジャパネットの タカタさん は 65歳 で現役のパリパリ、やっぱり働ける限り 働こうよ(係り: 髭モジャの ‘伊藤博文’ (初代の総理大臣)の 有名な肖像が 65歳 ! まったく昔の男は老人風だったね ! )。

声4: 戦前の男には 「老後」 がほとんど無かった ―― これに対して 近年の女性は 35年 もの長い「老後」がある ! その上 労働市場から隠退して、多くは ‘無為徒食’ なのだ … 社会問題が発生しないほうが おかしいのではないか?(係り: 彼女らの多くは 「働く場がない」 と言う … そうではなく、「働く気がない」 のだろう)。

声5: 男の寿命が 50歳 から 80歳 に延びたのだから、定年は 85歳 でも良いのではないか?(係り: 健康と意欲がありさえすれば 当然のことだ ―― そうすれば、年金支給も8 5歳 からとなり、社会の財政は健全化するだろう -- もっとも、85歳 の半数は 認知症 になっているけれどーー 数字通りに うまく行かないね)。

声6: 人生 50年 の時代なら “生涯現役” だし、男の平均年齢が 80歳 なら その年まで “現役労働” となるのか? それは イヤだな、考えてしまう(係り: それは 需要 ・ 供給 の関係できまるのだろう … もし認知症になってしまえば人生の落伍者となるが、需要が盛んなら 90~100歳 でも働きたくなるのでは?)。

声7: 「老後」 とは もう確定した言葉と思っていたが、まだ半世紀だけの経験しかないことが分かった … 私が老いる半世紀先には完璧な 「老後」 になって欲しい(係り: 老後の メリット ・ デメリット をよく観察して、老若が仲良く暮らせる社会にしたいね、今のように老人が若者に寄生してはいけない)。

声8: 社会保障がなければ 老人は生きて行けない時代になったのはナゼ?(係り: 昔は 親の面倒は子が看る、のが原則であった … ところがバブルと共に核家族になって親が遊離してしまった … 諸外国でも同じ現象だ … 子が国に税を払い、親の面倒を 国が看ざるを得ないのだ)。

声9: 昔の男には 「老後」 が無かった、とは信じがたい … 働いていれば ‘老後ではない’の なら、老後は長いのが良いのか 短いのが良いのか 分からなくなる … 今の時代なら ‘死ぬ日まで働け’ というのなら、長生きの希望者は減ると思う(係り: もっともなご意見だ ! 問題の中心は ‘無為徒食’ であって、働けるのに 「楽」 を決め込んでいる場合である ―― 昔なら “おじいちゃん、「楽」 してください” と言いたいところ、老人の数が 6 ~ 10倍 に増えて、若者から税の取り立てが限界に来たからでもある ―― ‘老人の数’ が昔に戻れば 問題は すぐ解決する)。
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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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