(516) 寿命 の 延長は どこまで 続く ?

 (516) 寿命の延長 は どこまで 続く ?

  前回、平均寿命は‘健康寿命+依存寿命’である事を述べた。

♣ 同じ長寿と言っても、近年は 多くの人達が 「平均寿命の延長だけではイヤだ、健康寿命でなければ生きる価値はない」 と主張する時代である。だが、残念ながら 現実の健康寿命は、平均寿命に比べて 女性で平均 13年 も、男性なら 9年間 も少ない。 ところが マスコミは 「平均寿命 100歳 の時代は やがて必ず やって来る」 という論調で、人の心を揺さぶる。今日はそのような意見の代表を 二つ 取り上げ、介護の現場から見た私たちの見解を示す事にしよう。

♣ 第一のサンプルは、今年 1月 に発表された NHK スペシャル の “Next World ( 予測する未来 ) ” である。そこでは、 「先進国の寿命は 過去 1日 5時間 というスピードで延び続けたので、2045年 には平均寿命が 100歳 に到達し、若くて健康なままの老後時代が来る」 という 夢とも幻 ともつかぬ “大ホラ ” であった。今 日本男性の平均寿命は 80歳 だから、2045年 まで あと 30年 で年齢が 20歳 ほど増える訳であり、毎年 8.5ヶ月 ずつ 長生きせねば これを達成できない。現場で老人介護に当たっている人たちは びっくり仰天である。

寿命の延長は どもまで 続く?

♣ 第二のサンプルはアメリカ のもので、「みんなが 100歳 まで生きられたら どんな世界になるかが?」 というものだ 1 ) 図 1 ) 。根拠として1880年 から現在に至るまでの平均寿命の延長は 「毎年 3ヶ月 であるから、100歳 に届 く年月は “2080年” だ、と言う ( そのためには 毎年 3.4ヶ月 ずつ長生きする計算) 。これは NHK の主張 ( 毎年 8.5ヶ月 ずつ長生き ) というのに比べれば 穏やかに見えるが、人の寿命は 「机の上の計算通り」 には行かない。多くのの 福祉家 ・ 統計家 は 「増加率 × 年月 = 増加分」 という公式を当て嵌めるが、これは大きな間違いだ。ナゼなら、人の細胞は 「老化」 するからである。

♣ ここで 皆さん方が見慣れた 「人口ピラミッド」 をお見せしよう ( 図 2 ) 。この図は 2013年 の日本のピラミッド(通常は縦型の図で 男性は左に ・ 女性は右に 対称的に配置されている )の左部分の男性のみを切り取り、180度 右に回転したものであり、横軸は 1歳 から 100歳 以上の全男性の年齢を、縦軸の数字の単位は 「万人」 を示す。その下にある “横向き” の数値は “実年齢” を、一番下の数値は 「実年齢に NHK の主張する 30歳 を加えた年齢」 である ―― たとえば、実年齢 70歳 の下の数は 30 を加えて100歳 等になる。
寿命の延長は どこまで 続く?
♣ 図に示す全面積は男の人口 約6千万人 に相当し、現 70歳 以上の面積は その 1/6 程度、つまり 一千万人 に相当する。この人口が 30年後には、病気などで 2割 減ったと仮定しても 800万人が残る ;(現 100歳 以上の人たちは 図で見る面積こそ小さいが、5.5万人 である)。NHK の試算によると、30年後 には、 現在 70歳 以上の面積( 800万人 )が 右の100歳の場所に並行移動して 100歳以上の人口を構成する訳だ。つまり 100歳 以上の人口は 5.5万人 から 約800万人 に増えることになり、その増加率は 150倍 に及ぶ。これが大ホラでなくて何であろう ! 老人たちの長生き願望に おもねった マスコミ操作に呆れてしまう。

♣ ここで、人々が長寿を追い求める激しい熱情はナゼなのかを考えよう。今の日本は 所得 ・ 長寿 ・ 医療 ・ 安全 ・ 水 ・ 気候 など どれをとってもほぼ 世界一 だと思う。なのに 我々は 欲張りで 幸福感が薄く “有難う” の言葉が少ない ―― ナゼだろう?私は以前 「死期猶予 (ゆうよ) 30年」 3 ) および 「 延寿の一服論 」 4 ) という考えを述べたことがある。

♣ その中で、戦後 日本は人生 55歳 から 85歳 の延寿寿を達成し、死期が 30年 ほど猶予された幸福を紹介した。だが老人たちはその有り難さを忘れ、“85歳では まだ足らない ! ” と 不平 ・ 不満 … そこで政府は介護保険の幸せを配給したが、15年 程度の死期猶予では まだ 不足 ・ 不満 であり、もっと魅力ある 平均寿命 100年 のマスコミの 「おもねり」 に飛びついた。平均寿命 100年 と言えば、偏差値を 15年 としても それがカバーする上限は 115歳 に及び、現実の日本には該当者が たった 「2人」 しかいない無茶な仮定である。

♣ なるほど、年老いた自分の身体を 新品 ( = 孫 ) に取り替える事は 「順調な世代交代」 に見えるが、当の老人にとってみれば 自分が孫に置き換えられることは “ほろ苦く 悲しい現実” であって 受け入れ難いのであろう。そんな ‘底抜け’ の願望に 我々はどこまで 付き合えば済むのか?もし政治家が本気で老人を過剰優遇するならば、教育費は削られ 子供は 今 以上に不幸になる。

♣ 以上を概観すると、老人の希望に沿った 「延寿希望」 は マスコミの話題提供に資するのみで、何の役にたつのだろうか?私らは 現実的な 「延寿の限度」 を模索し、関係者の納得を得られるような結論を得たいと思う。1931字 

結論: 日本女性の平均寿命は 86歳 で世界一であるが、今回発表の マスコミの論調では 平均寿命は 30年 後に 100歳 に達するという。 それを検討してみると、100歳 に達するためには、 NHK 案では毎年 8.5ヶ月、アメリカ案では 3.4ヶ月 の延寿がなければ達成できず、明らかにムリである。 日本人は戦後 死期猶予 30年 に恵まれ、介護保険により さらに 15年 の延寿が期待された;つまり 計45年 の延寿のチャンスがあったのに なお満足せず、 老人たちは更なる延寿を期待する。あなたなら どう考えて対応するか?

  参考;">: 1 ) “What happens when we all live to 100? ” : Gigazine.net/news/20140922-live-to-100/ 2 ) 新谷冨士雄・弘子、気迫で生きる; 福祉における安全管理、#462, 2014. 3 ) 新谷;死期猶予の30年、ibido, 2014. 4 ) 新谷;延寿の一服論;ibido, #451, 2014.

職員の声

声1: 平均寿命のうち、病気寿命ではなく、健康寿命の部分だけを延ばしたい(係り: 女性の健康寿命は わずか 73歳 、以後の 13年間 ‘病気寿命で体が弱って行き’ 86歳 になって逝く… これは受け入れ難い経過であるが 事実である ―― 介護保険・認定審査会に出席すれば、逝って当たり前の老衰老人たちが 病気のままで 長生きの手当を求めている ! これぞ 人生なるかな ! と感じてしまう。

声2: 100歳 老人が ごく普通な社会とは、どんな世界だろうか?(係り: 平均値 ± で表せば、100歳 ± 15歳 となり、多数の115歳 老人が街を歩くということだ… 元気な幽霊の社会だろう)。

声3: 100歳 は結構なことだが、100歳 全期間が健康でなければ 意味がない(係り: 今の平均年齢の 86歳 でさえ、最後の 13年間 は病気寿命である ―― もし 100歳 を達成した暁 (あかつき) ならば、病気寿命の 30年 程度は避けられまい… つまり 人は 70歳 まで健康、以後 100歳 まで 進行する病気と共存し、そのあと逝く ことになる)。

声4: 延寿は結構、だがそれを支える 「 税金 ・ 年金 ・ 医療 ・ 少子化 …」などを どう片付けるの?(係り: 若い納税者が負担するに決まっているが、マスコミは無い袖を振って見せる商売をする)。

声5: 今の平均年齢 86歳 のお婆さん方から、 “私は 長生きして 幸せ ! ” と言う声は稀だ ―― まして 100歳 を達成したら ほとんど全員が “私は 体が不自由で 不幸せ ! ” と嘆くだろう(係り: 数字合わせの 100歳 でなく、幸せの立場で 100歳 を評価すべきだね)。

声6: 老いて自立できなくなった高齢者は それでも延寿を希望するものなのか?(係り: 私らのモットーは 「健康寿命は長く、病気寿命は短く ! 」 であるが、いざ病気になると 人間は 「病気寿命だって 長 く して欲しい ! 」 と祈る動物なのだ… 病院の繁栄を見れば分かるだろう?)。

声7: 今の寿命 86歳 でさえ 介護保険はアップアップ、それが 100歳 になれば 老人の面倒を誰が看るのか?今の若者は 将来 年金も貰えない見透しなのに、その上 100歳 老人の世話までおっつけるのは言語道断である ! (係り: お怒りは ごもっともだ… でもご心配なく… 人の天寿は この数年 86歳代 で頭打ちになっている… それが人間遺伝子の限界なのだよ ―― パールの特養の平均寿命は 88歳 … この値は 17年前 から少しも増えていない ! )。

声8: 健康な 100歳 を達成するために どれだけの予算が必要か? もし予算をかけたとして その 100歳 は社会の活力の足かせになるだけではないか?(係り: 国が 介護予算 3兆円 → 10兆円 をかけても平均年齢は 86歳 で頭打ち、予算を倍額にしても 86歳 は不変だろう ―― ヒトの生命は、医療・介護の太鼓を どんなに叩こうとも、すでに寿命いっぱいに達していると思われる。たかが100歳ほどで 社会の足かせになってしまう なんて... 不老長寿のモットーが泣いちゃうね。

声9: 私はパールで働いて 1ヶ月 、感じることは 「有難う」 という言葉が頻繁であることで、私も思わず 笑顔になる。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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