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(527) 誤嚥 (ごえん)ーー 咽頭と喉頭の区別

  (527)  誤 嚥 (ごえん) ―― 咽 頭 と 喉 頭 の 区 別

早速、実験をしてみよう。みなさん、ご自分の口の中に唾をため込み、ぐっと飲み込んで見て下さい。そう、飲み込む時に 歯をぐっと噛みしめたことを 覚えていましたか?

♣ 更に 喉仏が コックン と上がったの 覚えている?え? 気が付かなかった?じゃ、今度は 人差し指を喉仏に当てて もう一度 ゴックン ! OK ? 飲み込む時に 喉仏が上がったのは間違いないよね。 では次の実験、今度は口を開いて、歯を噛みしめないで ゴックン !  … どう? 飲めないだろ?歯を噛みしめなければ飲めない のが当たり前なのだ。

♣ 最後のの実験は、歯を噛み締めてもよいから、喉仏に親指と人差し指を しっかり当てて、飲み込む時の喉仏の上昇を押さえつけて ゴックン ! どう?どんなに強く押さえつけても 喉仏は勝手に上がったでしょ? ふだん、こんな様子に気がついていましたか?

♣ このように、自分では気がつかずに 筋肉が勝手に動くことを 「反射」 と呼び、これに関与する筋肉を 「反射筋」 と言う。反射の出発は この場合 「唾」 の飲み込みだったね ; 唾が喉の奥に触れて反射筋を刺激し、その刺激が求心神経を介して脳へ、ついで遠心神経を介して効果筋肉へ伝わり 喉仏が コック ンと動く仕組みなのだ。

♣ 今日の話題は 「誤嚥」 ;嚥 (えん) とは「飲み込む」という意味だ。臙下 (えんげ) は 口の中の物を胃袋へ飲み下ろすこと、誤嚥は口の中の物を胃ではなく肺へ 誤って飲み下ろすことだ。紛らわしい言葉として、「誤飲」 (ごいん) は ‘間違った物 (農薬とか煙草など) を飲み込むことで 子供の事故が多い ―― 他方、餅やステーキを飲みそこねて ‘窒息する’ のは 「気管内異物」 と言い、食物は気管の入口に嵌り込んだ状態である。

誤嚥 (ごえん)

図 1指差し確認して ゆっくり 喉の様子を理解しよう。まず、空気は鼻の穴 (鼻孔、びこう) から入り、鼻腔 (びくう) を通って 舌の後ろの 咽頭 (いんとう) 口部に進む。その直下に 上向きに尖った 「喉頭蓋 (こうとうがい) と呼ばれる 蓋 (ふた) がある。この蓋は上下に開閉し、普段は上方にはね上がっていて、呼吸する空気はその直下を通り 気管の方へ進む。喉頭蓋の下部が喉頭 (こうとう) と呼ばれ、声を出す「声帯」 (せいたい) があり、続いて肺に向かう 「気管」が続く。この 「咽」と「喉」の区別がなくなること、すなわち「誤嚥 なのである。耳鼻咽喉科の耳鼻 (じび) は「耳と鼻」、咽喉 (いんこう) は 「 咽頭 と 喉頭」 を指す ーー これらの場所は 「風邪引き」 の感染症にも密接な関係がある。

♣ もし 口から入った食物が この蓋に触れると、蓋は反射的に 下方へ閉じ、食物は後方の食道へ流れて行く喉頭蓋 反射。今日の問題の 「誤嚥」 ( = 間違って飲み込むこと) とは、喉頭蓋の反応性が鈍化して、食物が触れているにも拘わらず 反射的に閉じてくれないことが原因である。その結果、食物は気管の方へ流れ、肺に異物が流れ込む。

♣ 喉頭蓋反射 を司る神経は 8種類 ・ それに反応する筋肉は 9種類 もあり、主に 「延髄」 (えんずい) が これらを支配している。老衰が進行すると この延髄機能が低下し、その結果 喉頭蓋の反応性が鈍化するのであって、言ってみれば、誤嚥とは 延髄機能の低下 … 身体老衰の極み を示すもの で、効果的な治療法は存在しない。

♣ 人は食べなければ生きて行けないから、食事介助によって だまし だまし 摂食をすることになるが、しばしば 「誤嚥」 を起こす。その後には 誤嚥性肺炎 と特徴的な 体重減少図 2)が続き 、やがて体格指数が 12 を割り込むとご逝去となる 2~3) 。胃瘻で人工的に延命を試みることもあるが、身体の基本が老衰 の極み 1) であるため、予後 (よご) は好転しない。

♣ 食事の時の誤嚥に限らず、老人は ご自分の唾を無意識に誤嚥する。実験的には有名な例があり、アイソトープ (放射性元素)を含む溶液で寝る前の歯磨きをしたあと、翌日に 胸部 シンチグラム を撮ってみると、見事にアイソトープが肺に検出される。経験的には 唾 1ml は 1億個 の細菌」 を含む。つまり、ご本人が誤嚥を経験しなくても、老人の場合、睡眠中の誤嚥によって ご自分の唾で 「肺の感染」 を起こすものであり、食事介助の失敗だけでなく、普遍的に誤嚥のチャンスがあるのである。
誤嚥ーー咽頭と喉頭の区別
図 2 誤嚥から死亡への進行状況を描写する 2~3 ) 。図の上段は H氏 (96歳 女子、認知症)で、最初の 5年間 は BM I = 25 で安定した経過を示していたが、6年目 の頭で誤嚥を経験、BM I は 2年 かけて 25 から 20 にまで直線的に低下、そのあと BM I は回復したが その度に誤嚥を繰り返し、合わせて 5度目 の誤嚥の後、BM I が 12 に達して他界された。下段に示す I 氏 ・ J氏 も誤嚥の後 BM I が 12 に達した後 他界された。いずれの例も、誤嚥の後 (このスケールの図で)BM I が 45度 近い角度で低下」 する”共通な性質”が見られた。

♣ 我々でも 稀に 「むせる」 ことはあるが、身体強健であれば、何事もなく回復する。つまり、認知症を持つ後期高齢者の場合に限って、「 誤嚥は命取りの始まり 」 の 深い意味を持つものであり、それだけに 「誤嚥」 の危険性を十分に認識して介護に取り組まねばならないのであろう。1898字 

結論: ① 人体における 「嚥下反射」 の例を自己体験してもらった。 ② 気管の入口に蓋をする 「口頭蓋」 の解剖的位置、その働きと誤嚥の関係を理解した。 ③ 後期高齢者では 一般的に元気であっても、一回の誤嚥が複数の誤嚥を招き、さらに B.M. I. の継続的低下に結びつき、B.M. I. = 12 に至って ご逝去となる経過を説明した。

参考 : 1) 新谷冨士雄・弘子: 体格指数 (BM I ) から見る生と死の狭間: 老人ケア研究、33: 13 ~ 23、2010. (ネットで引く場合は「 安全管理 ふじひろのページ」 をご入力下さい)。 2) 新谷; 天寿の指標は B.M. I. = 12 : 福祉における安全管理 # 34, 2010. 3) 新谷; 体格指数 (B.M. I.)= 12は天寿の指標:ibido # 489, 2015.  
 
職員の声

声1: 大きめの解剖説明図を見て、咽頭と喉頭の区別がよく分かった;その区別が消失する状態が「誤嚥だ」と よく飲み込めた (係り: 咽頭も喉頭も 日常的には どうでもよいけれど、一旦「誤嚥」が始まると その区別が命を支配するようになる)。

声2: 人は超高齢になっても不死身ではなく、多くの方の最期は「誤嚥」だ…その発生機序がよく理解できた (係り: 老人の最終診断名は「老衰・心不全」が多いけれど、その一歩手前の原因は「誤嚥性肺炎」が大部分である)。

声3: 睡眠中に唾 (つば) を誤嚥して肺炎に至るとはオドロキだ――口腔ケアの重要性をしみじみ感じる( 係り:食物の誤嚥なら予防もできるけれど、唾の誤嚥は老衰の極みであって、手の打ち様がない ! )。

声4: 食事のうち、誤嚥しやすいのは 「水分」 だ… トロミをつけることで予防するが、ご自分の唾液で誤嚥するとなれば 万事窮す、となる。

声5: 提示された B.M.I.の経過図 は とても分かりやすく、誤嚥を 5回 も繰り返しながら B.M.I. が下降して = 12 の臨終に至る流れが よく理解できた――もっと多くの介護職員が この経過図を勉強して参考にして欲しい (係り: 体重の下降は年余に亘ってゆっくり進むので、毎日接する利用者の 「進行性の痩せ」 に気づきにくいのが実状だ――パールの定期事例検討会では 提示の頭に B.M.I.の経過図 がスライド投射され、誤嚥の体調への影響が 一番先に認識されている)。

声6: ご家族への説明の時、Dr. は 必ず B.M.I.の経過図 を示す――家族は誤嚥を含め 目に見えない生命の流れをキチンと理解される (係り: 状態が下方に向いている場合の 「説明と同意の書」 (Informed consent) の時、B.M.I. が 12 に近づく有様ほど説得力のあるものはない)。

声7: 唾の中には雑菌が 1cc 当たり 1億匹 、老人の口腔は かなり汚れている――そんな誤嚥を繰り返しているうちに ムセ始め、坂道を転がり落ちるように肺炎が進み、そしてこの世を去る… B.M.I. の研究が進み、その機序が明らかにされた (係り: 誤嚥をせず、単純な老衰によって B.M.I. が 12 に達した後 逝かれた特殊な例は 350例 のうち たった 1例 ほどあった ! 4 ) )。

声8: 超高齢者の嚥下 (えんげ) 機能の低下は 自律神経の老衰によるものであって 治療は困難、天寿と心得よう (係り: 若い人や手術後の嚥下困難の場合は リハビリ法があるけれどね)。

声9: 在宅ケアの事例であっても、この B.M.I.法 が応用できるだろうか? (係り: もちろん できる―― 「 ポータブル体重計 と 巻尺 」で 体重 ・ 身長 を測ってみよう … 厳密でなくても「 およそ」 が分かればいいのだ … B.M.I.が 18 以上 の人は 「当分 死にません ! 」 )。

参考: 4 ) 新谷冨士雄・弘子: 看取りと手抜きについて、 福祉における安全管理 # 551, 2015.
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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