(551) 看取り と 手抜きについて

 (551) 看取り と 手抜きについて 

  看取りとは、病人のそばにいて 世話をし、死期まで見守ることである。英語の場合、習慣上の違いによるものか、「死に行く者のベットの傍に侍る」 という意味が強調されるようだ。{ 例:父の最期を看取った. ( I was present at my father's deathbed.)} 日本で 介護保険が始まって以来 16年、介護の分野では 「お看取り」 という言葉は自然の成り行きとなっているが、まだ一般世間での理解は十分ではないようだ。

♣ “ヘタに” 「お看取りになるのだろうか?」 、などと言えば、「治療の手抜きをするつもりか ! 」 となじられかねない。特に日本では、認知症の末期にある高齢者であっても、死に行く人に対しては 「 最大の手当 ・ 治療行為をすること 」 が誉とされて来た経緯がある。それが当人にとって “塗炭の苦しみ” を追加するものであっても、家族はしばしば 点滴・胃瘻・気管切開 などの 延命医療 を期待する。末期状態の説明を受けてさえ、本人の余分な苦しみよりも 「家族の面子」 の方を優先されることも少なくない。
看取りと手抜きについて

♣ なるほど 目の前の父や母が 「お看取りの状態」 だと告げられれば、 家族は受け入れ兼ねるのであろう。だから 私たちは なんとかして、事態の打開を図らなければならない。そのための工夫を幾つか考えてみよう。

♣ ① 誠意の発露 : 何と言っても これほど大切なものはないであろう。年余にわたる普段の介護で “良い人間関係” が保たれていれば、忌憚 (きたん) のない情報の交換ができるのではないか。

♣ ② ご家族の十分な介護への参加 : 言い古されていることだが、めったに来ることのない ご家族は ‘要注意’ である。それは 「薄れた愛情」 や 「情報伝達の不足」 ・ 「無関心」 を示唆するのだ。入院が必要になった場合でも、積極的に役割を発揮してもらおう。だから ご家族は忙しい。

♣ ③ 「説明と同意の書」 (Informed consent) :入所時および状態の変化の度に、これをキチンと取っておくこ。

♣ ④ 「四男(よんなん) 現象」を警戒する: 熱心なご家族に安堵していると、思わぬ罠 (わな) に気づかないことがある… それが 「四男現象」 である。この用語は私たちの造語であるが、多数のご家族の中で ポツンと 孤立 ・ 無視 された人が有り得る。いざ 意見を求められると、こことぞ とばかり 彼は せっかく合意された 親の処遇事項を打ち壊しにかかり、一同は難儀な目に会う ―― 何も四男に限らないが、お看取りに関する合意事項を決めるときは、相談する家族範囲を見計らっておくことが大切だ。

♣ ⑤ 客観的な説明 : 「状態が悪い」 や 「寝てばかり」 などの主観的な説明も大事ではあるが、何と言っても分かりやすいのは 客観的な 「B.M.I.の経過図」 である(図) 1~2)  。 B.M.I. = 体格指数 は、体重 (キログラム) を身長 (メートル) で2回割った数値である : : 60Kgで160cmの人なら 60÷1.6÷1.6 = 23.4、電卓ですぐ求められる。世界中がこの方法で “健康な体格” を判定していて、正常値は 男女を問わず、18.5~25 であり、肥満と羸痩 (るいそう) を判別する。私たちは 入浴時のB.M.I.を毎月1回強調文測定してその経過図をパソコンで描き、B.M.I.が 12 前後になると死亡する という経験則を発見した。その例を図に示す。

看取りと手抜きについて

図の上段K氏 (94歳女子 認知症 要介護 4~5) 。日常生活の自立は全くできなかったが、安定した 正常なB.M.I.が 6年間 も続いて、安堵していた時点で 「誤嚥 ! 」、途端に B.M.I. が急降下しはじめ、1年後 には 12 に接近。図のパターンから見て 「ご他界」 を予見、その事情はご家族も納得され、余計な延命処置の苦しみを避けることができた。

図の下段L氏 (96歳女子 認知症 要介護 5)で、上記の K氏とは“対照的”な経過を示す。入所時の B.M.I.はすでに正常の下端にあった。この方は入所とともに、誤嚥もなく、B.M.I. は ただひたすら ゆっくりと 浅い角度で 慢性的に 下降を続け、5年目で 12 に近づき、危篤の状況ながら さらに 4年 を経過したあと、9年目 に他界された。ご家族は 十分に納得・感謝され、氏の最期を看取られた。

♣ 以上 私らの 350例 に及ぶ経験の中で、B.M.I. が 常に 徐々に 浅い角度で低下した例は この L氏 が 唯一の例外 であり、誤嚥性の死亡ではなく、「手抜き」 することは何も無く、むしろ ’自然老衰 ’ による ご他界の特徴と見られた。他方、多くの死亡例は 上段 K氏 のパターンのように、安定していた ’B.M.I. が 誤嚥をキッカケとして 45度を越える 急角度で減衰する特徴を持ち、その値は危険域の 12 に近づいた。これは 誤嚥天寿であることが理解された。 2090字 

 結論:   ① 看取りを決意するとき、 “手抜きではないか?” との疑念に悩むことがある。 ② その際に心得る項目を 5っ 列記した。 ③ 客観的な看取りの決定版は B.M.I.の経過図で容易に得られた。その 2例 を取り上げ 解説した。
  
  参考:  1) 新谷冨士雄・弘子、: 格指数(BM I )から見る生と死の狭間: 老人ケア研究、33: 13 ~ 23、2010. (文献が見つからない場合は ” 社会福祉法人 パール 法人理念 安全管理” と入力すれば 当たります)。 2) 新谷: 体格指数 (BM I)≒ 12 は 「天寿の指標」 :福祉における安全管理  #489, 2015.

  職員の声 

声1: “お看取り” を “手抜き” と思うのは間違いだ; タイミングをはずして だらだらと延命虐待をすることなく、人間らしいお見送りをすることは大切なことである(係り: 「老衰死」 を “病気” とみなすのであれば、病気を治す場所、すなわち “病院” で死を看取るのが適切であろうが、誰も 「老衰死を病気」 と思っていないのだから、素直な気持ちで 施設の‘お看取り’ ができる)。

声2: 少しでも長生きして貰いたいし、延命虐待は避けたいし… その矛盾に悩むご家族は少なくない(係り: 美味しいものを食べたいが、お金を払うのはイヤだ… その矛盾と同じこと; 今の制度では実費支払いがないも同然だから ラクチンな悩みをおっしゃる方が多い)。

声3: 人が最期を迎える時、病院で 最新・最大 の治療を受けるよりも、在宅で または施設で看取られるのが 「一番の幸せだ」 と思う(係り: 手抜きはなし、不要な延命処置もなし ―― これが入院なら 当然 「無処置 ! 」 というわけには行かぬよ)。

声4: 親の処遇に関して 「家族のメンツ」 とか 「四男現象」 で騒がしくなるのは 悲しいことだ(係り: 世の中、「建前と本音」 が輻輳(ふくそう)しているものね… やむを得ない)。

声5: 「四男現象」 とは的(まと)を得た用語である ! B.M.I.の説明をしても 我儘を通すのか?(係り: 四男はウップンを晴らしているのだから、「理」 が通るハズはない ! )。

声6: コロッと死ぬ のは怖いけれど、年月をかけて ジワリジワリ 苦しむのもイヤだなー ! (係り: 図 の症例 K氏 は 要介護 5で 9年 の後 誤嚥天寿 で 亡くなられた; 他方 L氏 は 同じ要介護 5 だが、慢性的に ジワジワと 自然老衰 を迎えられた ―― お二人に共通することは 「死に様は “選べなかった” 」 ということだ ―― ‘選びなさい’ と言われても、こればかりはね)。

声7: 図のK氏 は 安定した9年 経過後、誤嚥を契機として死の転帰を迎えられ { = 誤嚥死} 、このパターンが老衰死の大部分だと聞き、意外に思った: 他方 L氏 は ダラダラ衰弱 であり、{老衰死} とは “ダラダラ死” のことだ、と思っていたのだが(係り: B.M.I.の経過図 で観察すると、誤嚥が契機で 3年 以内の死が圧倒的に多い(誤嚥死);それだけに 「食事介助」が重要となる ―― ダラダラ死は案外と少ない)。

声8: B.M.I. 12 が寿命の終わりであることが よく分かった… にも拘わらず 家族は延命を望むのだろうか?(係り: キチンと説明すれば 皆 納得される… もちろん、「理」 の通用しないご家族も 稀にあるけど)。

声9: パールでは 「B.M.I. 12」 の経過図の説明が一番 効果的 であり、ご家族は穏やかな気持ちでお看取りをなさる(係り: 親の他界に 「後ろ髪を引かれる想いがない」 という納得感があるようで、私たちも安堵の気持ちとなる)。

プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

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