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  (555) 「誤嚥」・B.M.I. と ご逝去

   (555) 「誤 嚥」・B.M.I. と ご 逝 去

  誤嚥の発症を契機とし、その後 「体格指数」 (B.M.I.) が どんどん低下し続け B.M.I. が 12 に至ってご逝去となった症例を 先月の安全管理で説明した 1 )  。今回は さらに一歩踏み込んで、「誤嚥」 そのものには 気付けなかったが、「B.M.I.の経過図の観察で それを検知できた 3 事例」 を ご披露する。

♣ 私たちは 入浴の時、B.M.I. を毎月 1回 測定してその経過図をパソコンで描き、“B.M.I.が 12 前後に低下すると他界される” という経験則 をすでに発見している 2 ) 。下図 は16年間 に及ぶサンプルを示した(参考: 図のスケールは、横軸が 1年 ごと、縦軸が 2-B.M.I. ごとの正方形である....角度の言及にご注意 ! )。

♣ 説明を C → B → A の順とする。下段 事例 C は 94歳 女性 (脳梗塞+認知症、要介護5)、入所時の B.M.I. はすでに 16 (典型的な痩せた老人) であった。しかし臨床経過は、ご高齢であったにも拘わらず、かなり順調で 7年 の間、ほとんどトラブルもなく過ごされた ―― パールの平均入所期間は 3年 5ヶ月 であるから、7年間 ほど平穏であったことは、平均値の 2倍 も安泰であった訳であり 特筆に値する。とろが 7年目 の終わりに 「誤嚥」 事件があり、それを契機として B.M.I. は 60度 の急角度で下降し、1年後 に B.M.I.= 12 に達し、他界された。経過が 「安定 → 誤嚥 → B.M.I.が急角度で下降 → BM.I ≒ 12 で死亡」 というパターンは ほとんどの例で見られる 典型的なパターンであった 3 )
「誤嚥」・B.M.I. と ご逝去
中段 事例 B は 90歳 の 女性 (老人性認知症、要介護 4 → 5 ) 。B.M.I. は 9年 の間 揺れながらも正常域 (22~23) を保っていたが、よく見ると、5年目 で 2-B.M.I. ほど下降しているのに気づく ―― カルテをたどると 「気道吸引」 と記録されていたが、その時には 「誤嚥」 とは “気付けなかった”。その後 9年目 に ひどい 誤嚥 をされ、この時の B.M.I. は回復することなく 60度 の急角度で下降し、2年後 に 脳梗塞 によって亡くなられた。 B.M.I. = 12 までに あと 3~4年 あるはずであったが、残念な経過であった。この例は、一度目 の誤嚥に気付くべきであったが、二度目 の誤嚥による B.M.I. 60度 の急下降は 上記事例 C と ほぼ同程度であったことに注目する。

上段 事例 A は教訓的である(89歳 の女性、右視床部の出血、要介護 4~5)。この方は 介護保険の始まる1年前 の 1999年 に入所され、その後 16年 を経た 今なお 継続入所中である。当初は B.M.I. = 32 に達する ‘お相撲さんタイプ’ であり、オヤツ・大食 を片付けるのに 3年 ほどかかったあと、B.M.I. = 27 近辺で妥協、そこで安定していた。ところが、図 を見られる通り、B.M.I. は 12年目 に急下降 (マイナス5-B.M.I.)、典型的な誤嚥の経過であったが、当時には “気付かれず”、記録には単に 「ムセ、気道吸引」 としか記載されていた。その後、14年目 に再び 60度 の急下降 (マイナス6-B.M.I.) があったが、基礎 B.M.I. のレベルが 十分高かったゆえに、事例 C のように B.M.I.=12 に達することは なく、死亡を免れた。現在は回復傾向にあるが、B.M.I. の経過図のおかげで 誤嚥防止の臨床意義を 改めて強く認識できた。

♣ これら 3症例 の “誤嚥によるB.M.I.の特徴” は、次の 三つ に要約される:―― ① B.M.I.は 角度にして 約45 ~ 60度 の急下降; ② その持続は 1 ~ 3年 を越えて続き、回復には時間がかかる; ③ B.M.I. の基礎レベルが十分高ければ、B.M.I.=12 の死亡域に達せず、死亡を免れることができる。

♣ つまり、B.M.I. が高い位置にあることは 介護ケアにおいて 「余命の貯金」 とも呼べる ‘しろもの’ と言えるかも知れない。さらに敷衍(ふえん)すれば、臨床で誤嚥に “気付けない場合” であっても、B.M.I. の経過図を描いておけば、確実に 誤嚥の発生を検知でき、その下降脚の延長線と B.M.I.=12 の交差点を計測すれば、かなりの精度で 予後が判定できる。なお、誤嚥によるB.M.I. 下降・ 回復 のパターンには 複数因子の関与が推定されるが、それについては別の報告に譲る。1769字  

結論:  ① 多くの高齢者は 「誤嚥」 のあと B.M.I. が 45~60度 の急角度で下降する。 臨床で “誤嚥に気付けない場合でも” 、B.M.I .の経過図を描いておけば 誤嚥の発生を検知することができる。 誤嚥後の下降脚の延長線と B.M.I.=12 の交差点を計測すれば、「予後判定」 の良い参考になる。 もし B.M.I. の基礎レベルが低くければ、短時日で B.M.I.=12 レベルに達し、ご逝去となる。

  参考: 1) 新谷冨士雄・弘子: 看取りと手抜きについて、福祉における安全管理 # 551, 2015. 2 ) 新谷:体格指数 (B.M.I.) からみる 生と死のはざま; 老人ケア研究(#23)、13~23, 2010.  { 文献がみつからない場合は、次を入力して下さい: 社会福祉法人 パール|法人理念(ふじひろのページ)}、 3 ) 新谷: 誤嚥 ーー 喉頭と咽頭の区別;福祉における安全管理 # 527、2015.。 4) 新谷:ピンピンコロリの現実;安全管理 #481, 2015.  5 ) 新谷:寝たきり老人を無くす?;安全管理 #564, 2015.

職員の声

声1: デイサービス では えんげ体操・口腔訓練を行っているが 有効か? (係り: もちろん有効であるが、耳鼻科の Dr. は 内視鏡で覗くと、嚥下不可能な喉を すぐ 見抜くことができる … 老化 ・ 白髪 ・ 禿 と同じで 元には戻らない)。

声2: 誤嚥をきっかけに BMI は 45度 の急角度で下降し、放置すると BMI = 12 に下がって逝去となる ―― 早めに気付いて対応すれば、死なずにすむ …. すごい所見だ ! (係り: 誤嚥は その時苦しむだけでなく、大きな体力消耗を伴うものなのだ)。

声3: BMI の挙動が予後判定の参考になるって、分かり易くて良い … 私自身の BMI は ゆっくり下がって欲しいものだ(係り: その経過は 「じわコロ」 と呼ばれ、9年 掛かってじわりじわりと亡くなった症例を、先回ご提示した 1 ) ―― たいていの人は 「ピンコロ」 を好むけれど 4 ) )。

声4: BMI は事例 Aさん のように、一度下がっても回復することがあるので、誤嚥予防を徹底したい (係り: A さん の BMI 基礎レベル は 26 であったから、誤嚥死 = 12 までには 14-BMI の余裕があったのだ ! )。

声5: 命の終りは人様々だが、BMI の低下で予後判定が参考になるとよく分かった ―― BMI のレベルが高ければ 「余命の貯蓄」 が出来るらしいが、「寝たきり寿命」 が長いのは ‘辛い’ だろう(係り: おっしゃる通りだ ; 欧州では 「要介護 4、5 」 をつくらない ―― つまり 「寝たきりは存在禁止」 である 5 ) ).

声6: 人によって BMI レベル の高低はあるが、安定していれば老人の体重に干渉しない方がよい(係り: 仮にムセや軽い誤嚥があっても、BMI に変化がなければ神経質になるな ! )。

声7: BMI の観点では 「太っている方が有利」 となるけれど、肥満は様々な悪影響があるハズ ; どの程度の BMI が最適なのか?(係り: 中年のデブなら 95歳 までは生き辛いだろうが、この事例は その欠陥を卒業している――図の 事例 C さん は BMI レベルが もう少し高かったら 死なずにすんだであろうに … そこで 「BMI は余命の貯蓄」 と言うニックネームが出て来たのだーーちなみに 正常 BMI は 22 ± 3 である)。

声8: 高齢者の誤嚥は これ以上 「もう食べる力がありません」 という 体のメッセージ と受け止めたい(係り: まさに「 金言である ! 」 ; 走らない自動車にガソリンを入れて 走れるだろうか?)。

声9: 16年間 の多数例で、BMI は 12 近くになると他界されることが分かったが、要点は、多くの高齢者は誤嚥のあと BMI が 45度の急角度で下降 ; BMIの経過図を作成しておけば、臨床的に誤嚥に気付かなくても その発生を検知できる、 その BMI 下降線の延長と BMI = 12 の交差点を計測すれば ご逝去の推定の参考になる; BMI の基礎レベルが高ければ BMI = 12 に達する年月が遅くなり 「余命の貯蓄」 効果がある。

プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

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