(572) 養老本能 と 育児本能  あれこれ

(572) 養 老 本 能 と 育 児 本 能  あれこれ

‘養老本能’ なんて 項目はネットで探しても 一つ以外はみつからない 1 ) …よほど 珍しい “名付け” なのだろう。

♣ これに対して ‘育児本能’ のほうは ネットでたくさん論じられている。‘育児’ はヒトまたは獣(けもの)の哺乳を連想させるので、ここでは 対象を 虫や魚にも広げて ‘養育本能’ と思えば良い … つまり、親が子孫を残すための行為一式の本能 であって、なかんずく 鳥類 のそれは まことに目を引く。

養老本能と育児本能 あれこれ

♣ 思い出せば、家の軒先で見られる ツバメの熱心な子育て ()、… 片道 10キロ もある氷原を よちよち歩いて子供に餌を運ぶ ペンギン … 見ていて信じがたいほどの ‘子育て没頭’ である。さりとて、子育てのあと “子別れ” が済すめば、もう “子は子、親は親” で お互いに “知らん顔” ! 人間の目から見れば、これまた 信じがたい無関心ではないか !

♣ 人間は違う ―― 第一 に子別れをしない、第二 に 子が育ったあとも 家族としての共同生活を続ける。第三 に 年月を経た後、子は親の養老をする。単なる育児行為なら たぶん遺伝子の中に組み込まれた行動、つまり “本能” によるのであろうけれど、養老行為は 本能ではない。なぜって、親の面倒をみる動物は 人間以外にいないからだ … 人間に近い サル でさえ、年老いた 「親」 に餌を運ぶような子の行動を見聞きすることは無い 2 )
養老本能と育児本能 あれこれ
♣ では、人間は いつごろから 「本能ではない養老」 を始めたのだろうか? 直接の証拠はないけれど、6万年 以上も昔の ネアンデルタール人() は 「歯を失った老人の顎骨」 と 「お墓に飾った花」 の形跡を残している 3 ) ―― つまり 敬老精神の曙 を持っていた。1万年 前には農耕の知恵とともに 家族同士の共同生活 が始まり、3千年 前には 大陸で 孔子(こうし)が 「忠 ・ 孝 ・ 仁 ・ 義 ・ 礼」の儒教(じゅきょう)思想を表した。つまり、人間が一般動物とは異なって 「孝」 を覚えたのは その頃だったと思われる。

♣ 「孝」 とは「親孝行」 のこと、親を尊敬し 親に尽くすこと である … こんな高級な大脳機能の発揮 を要する行為が 他の動物にあろうハズはない ! でも 「孝」 は本能ではないのだから、誰かが教えなければ 行われる事はないだろうし、仮に教えても 行わない人だってあるだろう … ここが問題なのだ。

♣ 人生 50年 の時代の親孝行は、年老いた親が せいぜい還暦(60歳)前後までの短い期間の孝行だったから、子供も 30歳 程度で、知恵もまだ少ない。その結果  「親孝行、したい時には 親はなし」 という川柳(せんりゅう)が示すように、子供にとって 親孝行の負担は 大きいものではなかった。ところが 長生き時代の今はどうだ ! 還暦後 100歳 に至るまで 孝行の期間が延び、「親孝行、しても しても まだ親がいる」 という別世界の時代になり、子は負担の大きさに息切れしてしまう。

♣ 動物一般が親孝行をしない理由は、明確な世代交代 ――つまり子が生まれ育った頃には 孝行の対象である親は もういない、 教師の欠如 ――仮に 親がいても、遺伝子に組み込まれていない孝行を、教えてくれる先輩がいない。つまり 動物と親孝行は無縁 なのが当たり前である。

♣ 他方、人間の親孝行が 近年 下火 になったのはナゼか? まず 親孝行期間が著しく延びて 親孝行どころか 自分が孝行を受けるほど 親子ともども 高齢になったこと、血の繋がった息子や娘でさえ息切れする 舅(しゅうと)(しゅうとめ)の介護を嫁に託する考えは、生命進化の流れから見て まったく 時代錯誤 になったこと、であろう。
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         孔子
♣ 全部を振り返ってみれば、やはり  「著しく延びた老齢期間が主因」 ではないだろうか?もしそうなら、その解決法は “老齢期間を短縮すること” となり、それは親の長生き現在と矛盾する考えである。「介護保険」 は 家庭内での この矛盾を取り除くかに見えたが、新たな問題 も発生している ―― それは、国家的な親孝行 には 国家的な予算 が必要なこと、多々老・少子化の現在では 金に飽かした 1970年代 の解決法 4 ) は通用しなくなったからである。

♣ 欧米ではこの問題をどう解決しているか?それは 「寝たきり老人のいない社会」 の招致 5 ) に尽きる。ところが 日本は 「寝たきり老人を抱える社会」 であり、姿勢は ま反対 である。我々は 孝行とか養老とかに固執するけれど、何が一番大切か、に思い至るとき、「生命は子孫繁栄 以外の道はない」 という 進化の原理 に衝き当たる。つまり 「無い袖を振り続ける 超高齢の ‘養老’ では 共倒れになる」 という現実である。

♣ 言いにくいことであるが、養老本能 というものは やっぱり存在しない … 人間は大脳で 「人類の繁栄と淘汰の将来像」 をしっかり考えることが必須だ、という教訓ではないかと思う。1937字    

要約:  育児をするのは 動物一般にみられるが、養老をするのは人間だけである。 親孝行の歴史は 何万年か前に遡(さかのぼ)るようだが、近年 ‘孝行の負担’ が苦しくなってきた。その 主な理由は ヒトの高齢化が進み、「親にする孝行」 と 「子にされる孝行」 の年代が重複するからである。養老は、“本能” としてではなく、“大脳の理性” として、“子孫繁栄と共存できる範囲” で行うべきものであろう。

参考: 1) 新谷: 養老本能とは ;福祉の安全管理 # 409, 2013. 2) 松沢 哲郎: 想像するちから、学士会報 No. 913, p54, 2015. 3) Rachel Caspari: The Evolution of Grandparents, Scientific American August: 24, 2011. 4 )  新谷:1973年は福祉元年; 福祉の安全管理 # 569, 2016. 5) 新谷:「寝たきり老人」を無くす?;福祉の安全管理 #554, 2015.


職員の声

声1: 人は育ててもらった恩を親に返すという考えから 「本能とは言えない養老」 を始めた(係り: 親が 「子を産む」 のは 自分の老後の世話をして貰うためだ、という思想が古代中国にはあった ―― 子を産むのは 健全な本能によるものなのに、古代人は怪しげな解釈をする)。

声2: お金と時間があれば、誰でも親孝行をするだろうが、現実には “他に係わる用事” がいっぱいある(係り: でも心の中では 親子は 相思相愛 なのが普通だ)。

声3: 養老は “知恵” でするものなのか? また 人間には養老が必要なのか?(係り: 生命の前期 50年 は子孫繁栄のために重要 … だが、後期 50年 は “進化” に無関係で、「食っちゃ寝」の 「馬齢 (ばれい) 」に過ぎず、ひと昔前なら 養老すべき親は もう この世を去っていた ―― つまり養老は 近年 組織的に発達した倫理事情であり、国によって様子は異なる)。

声4: 昔の親は還暦(60歳)前後で世を去ったから、養老期間は せいぜい数年以下 だった … これに対し、今の養老期間は親が 100歳 頃になるまで続くし、子供だって自分自身の還暦を迎え、重いストレスである。

声5: 昔話にでてくる 「姥(うば)捨て山」 は実存の話だった ―― 「養老」 は生活に 「余裕」 があればこそる出来る仕事だと思う(係り: 仮に子供のほうに 余裕があっても、老人の社会的な数が問題となる … 昔は老人の比率は 4 %、今は 6倍 に増えて 26 %、やがて10倍 の 42 %にまで増える ―― 多々老・少子の時代では お世話する若者の首は回らなくなる)。

声6: 老人が “健康的” であれば 子の苦労は少ないだろう(係り: 老人が健康なら 100歳 であっても手間がかかるまいが、“超高齢” と聞けば イソップ物語の 「キリギリス」 の寓話(ぐうわ)に相当する気苦労は続く )。

声7: 孝行の期間を節約する 一番 良い方法は 「晩婚」 ではないか? ―― つまり、子が親の 50歳 で生まれれば 子が 50歳 になるとき 親は もう 100歳 で、孝行の期間は 少なくて済むだろう(係り: 算数遊びではないよ、高齢の精子と卵子では 奇形児 が多発だ ! )。

声8: 親が長生きなら 親孝行の期間が増えて問題だ、との話だが、元気な親なら 「子供孝行」 をしてくれて有難いだろう(係り: 100歳 の親が 60歳 の子に どんな ”逆さ孝行” ができるか? 何か良いことが起こるとは思えない)。

声9: 人類が亡びないように、良い子孫 が育つような 親子の養老関係が望ましい(係り: トリアージュの精神に倣(なら)えば、黒い旗印 が付いていて、人生が もう終わっているような老人に 生命の高い優先順位 と 社会予算 を付けている 今の福祉の在り方は再検討を要する --若者たちは きちんと投票所に行って 自分の意見を述べるべきだろう)。

   参考:  トリアージュとは、患者の重症度に基づいて、治療の優先度を決定して選別を行うこと。語源は「選別」を意味するフランス語の「triage」である。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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