(588) 子 供 返 り

  (588) 子 供 返 り   

  近年、老人の人口比は 戦後 4 % から出発、毎年のように増加し続け、ついに 26 % に達した。

♣ つまり、日本人の 4 人 に一人は老人(65 歳 以上)と言うことだ。人間の基本的願望は 「元気で長生き」 であるから、老人の数が昔の 7 倍 に増えたということは、誠に喜ばしいことである。だが、ちょっと待て ! 数の増加は OK としても 「元気」 のほうも喜ばしいのか?

♣ 事実を簡単に述べれば、65 歳 に達した老人はやがて 85 歳 になり、その 85 歳 の半数弱は 「認知症」 になる。100 歳 になればその比率は 80 % に増える … つまり 「’元気’ ではなく、’病気’ で長生き」 が現実に得られる状態なのである ! 医療・ 看護・ 介護に優れた日本が こんな成績で我慢できるハズはない。目標はやはり 「元気で長生き」 であるべきなのだ。そこで現実の老人の病気とは、いったい どんな代物なのか?今日はその 一つ である 「子供返り」 について振り返ってみよう。

♣ 似た言葉に ① 「赤ちゃん返り」 というのがある。これは、家庭の主婦に 新しく赤ちゃんが産まれた場合、その兄または姉の幼児が母親の関心を引くために俄かに手を取り始める現象である ―― お乳を求めたり、‘おねしょ’ をしたりする。更に似た言葉に ② 「幼児返り」 と言うのもある。これは、同じく赤ちゃんが産まれた場合、夫 (おっと)が、あろうことか、俄かに妻の手を取り始め、衣服や靴下を履かせてもらったり、かまって貰いたがるなど、あたかも赤ちゃんと張り合うように妻を困らせる現象である。人間とは、‘このような振る舞いをする心理を持つ存在’ のようだ。いずれの場合も 「脳の病気ではない」 ことは明らかであり、時間とともに元に戻る。

♣ ところが、今日の 「. . . 返り」 の話題は、① の 「赤ちゃん返り」、② の夫(おっと)の 「幼児返り」 に加えて 老人に見られる 「子供返り」である。ずっと一緒に暮らしている家族にとって、それが単なる 「老化」 なのか 「子供返り」か? ひょっとして 「病気」 ?など不審に思う現象であるが、例 を示そう: ―― 食べ方が雑になる (こぼす) ;面倒くさがる (オーイ、お茶 ! ) ;周囲への配慮がなくなる (自分勝手、我が儘) ;テレビを見ていて内容が理解できていない (頼りない) ;何につけ言い訳 (自己弁護) ;他人の意見に聞く耳を持たない (まずは 否定、ついで 拒否) などなど。

♣ これらの症状は 普通の人でも “気分が落ち込んだり”、 “不機嫌” だったり、するとき 観察されるものである。だが、これが愛する 「我が親」 にみられ、更に、進行して行くようなら、「年寄りボケ」 の始まりなのかを心配する。昔の 「年寄りボケ」 は今では 「認知症」 と呼ばれ、その人の 「年齢」 が大きく参考になる ―― 65 歳 までは少なく、齢とともに増え、85 歳 で人口の半数程度が認知症になる。その 一歩 手前の状態は 「軽度認知障害」 (MCI) と呼ばれ、たいへん “紛らわしい” 状態であり、その一つが 「子供返り」 なのである。このように “変な症状” が出るのは 必ずしも本人の責任ではなく、寄る年波 の “せい” なのである。

♣ 人間の 「脳」 は赤ちゃんの時 小さく、成長するにつれ大きくなり、機能も高度に発達する。更年期を過ぎ、老人(> 65 歳 )になると、いったん大きくなった身体が、今度は小さくなり、これは老人性萎縮 (いしゅく) と呼ばれる。皮膚は萎縮して皺 (しわ) が増え、毛根も萎縮して白髪になる … これは健全な老化であって、病気ではない !

♣ 問題は 「大脳も萎縮」 して小さくなることだ。これは大脳の細胞数の減少の結果起こるもので、当然 「脳機能の低下」 を招き、それは “態度・ 振る舞い” の変化・「精神機能の希薄化」 として認識される。

子供返り

で見られるように、人の 「認知機能」 は正常であっても 年齢 とともに落ちてくるが、人によっては、脳萎縮が高度に陥り、「自立した生活が困難」 になる … これが 認知症 である。初期には 正常の老化と認知症の鑑別が困難な時期があって、「軽度認知障害」 または 「子供返り」 と呼ばれる状態もある。

♣ 知っての通り、認知症の症状は 「中核症状」 と 「周辺症状」 に別かれる。前者で有名なのは “短期記憶と見当識の喪失” があり、これは脳細胞の脱落そのものの症状であるから、認知症のすべての人にみられる。後者の周辺症状は 人ごとに多彩であり、上記の “子供返り” の症状から始まり、“幻覚・ 妄想、徘徊、人格変化、暴力” など いろいろであって、これらは治療の対象となる。

♣ 「子供返り」 は、単に 甘え なのかも知れず、また 経度認知症障害 (MCI) を示すものなのかも知れない。よく観察して ノートに記録 し、症状が 多彩 になればなるほど 本物の 「認知症」 の可能性が高い。もし 「記憶喪失」 と 「見当識喪失」 も合併していれば 、確実に 本物の 「認知症」 の始まりであろう。1980字 

要約:  老人の数が増え、「子供返り」 の症状か? と思うケースが増えて来た。 その症状と 「軽度認知障害」 について述べた。 認知症の 「周辺症状」 を ‘おさらい’ し、頻度の増えた認知症への注意を喚起した。

参考:  新谷: 「中核症状・ 周辺症状」 の おさらい;福祉の安全管理 #563, 2016.

職員の声

声1: 長生きすれば ほとんどの老人が認知症になるのを改善できないものか?(係り: 認知症の最大要因は “長生き” である ―― つまり この質問への回答は、“長生きして白髪を防ぐ方法”、あるいは “長生きして齢を取らない方法” を求めることであり、この矛盾は解ける日が来ない)。

声2: 私がケアしている方、着服・ トイレ を面倒がり、入浴も拒否、その激しい 子供返りの症状で困惑している(係り: 年齢にもよるが、たぶん 「軽度認知障害」 の始まりで、いずれ もっと進展していくかも)。

声3: 「子供返り」 の症状は 一緒に暮らしていては なかなか気付きにくい(係り: 老人はデイ活動などの外に出て 初めて病気の有無に気付かれることが多い)。

声4: 認知症の中核症状 (記憶・ 時・ 所・人の喪失) は大変だが、子供返りのような周辺症状 (人格のゆがみ) も悲しい(係り: 人生 50 年 の時代には こんな悲しみはなかった … 長生きが当たり前の時代になってくると、予想もせず 誰も避けることの出来ない この運命に、人々は ただひたすら戸惑うのみだ)。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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