(334) 筋トレ と 脳トレ

(334) 筋トレ と 脳トレ    
    
 「鍛える」 という漢字は難しく、使用歴史は浅い。

♣ ① 「鍛 (たん)とは、金属を熱し叩いて鍛錬することから来た文字である(例:鉄を鍛える)。英語では “forge”、鍛冶屋の フォージ。

♣ ② この言葉は 「人間の心身」 にも応用されるようになり、練習・ 修練 を繰り返し、技術や身体・ 精神 をしっかりしたものにする」となる(例: 選手を鍛える)。英語では マラソン・ トレーニングの “train”)。① と ② は 日本語では同じ “鍛える” だが、英語では、ぜんぜん違う言葉だ。鉄は鍛えられるが、精神は “叩き延ばせる” ものではない、それを 「鍛える」 と呼ぶ 精神主義 …そこに 東洋思想 の鍵があるように思える。

♣ さて、人間の体で 「鍛えられるもの」 とは何があるか? 厚労省の言い分では、まず思い浮かぶのは 「筋トレ」 の 「筋肉」 、次には 「脳トレ」 の「脳」。三番目には? もう思い浮かばない —— 腸ト レ、肝ト レ、腎トレ . . . そんなもの、無意味だ。

筋 トレ と 脳 トレ

♣ 「筋トレ」 の意味を覗いてみよう 1) 。筋肉は 「糸」 のような細い筋繊維 (きん・せんい) より成り、その一本一本には神経が繋がっている()。筋肉は神経の命令によって動く。筋繊維の 「数」 は、生まれたときに決まっており、増えることはない。「ムキムキの筋肉マン」、あれは トレーニング により 一本一本の筋細胞が肥大したもので、トレーニングをやめると、やがて元にもどる。

♣ 歳とともに、神経細胞が減ることはご存知だろうが、それに繋がった筋肉細胞も 歩調を合わせて減っていく。 —— 運動を命令する “親分”( = 神経 )が減れば “子分”(= 筋肉 )も減っていく … 25 歳 の筋肉は 75 歳 で半分に減る。運動は筋肉でするものだから、運動選手には おのずと 「選手寿命」 があるのは避けられず、高齢者一般についても ムリな運動 は禁物 となる —— これは理屈通りである。

♣ 次に 「脳トレ」 の意味 を見よう 2) 。脳細胞の数も生まれたときに決まっており、それどころか 成人以後、毎日 10 万 個ずつ減っていく。 心細い限りだ ! でも計算すると 150 億 個の脳細胞が 100 億 個に減るのに 200 年 以上かかるから 大丈夫 ! インターネットでみると、「脳トレ」 の関連記事は無数にある。それだけ世の関心が高いのだろう。

筋トレと脳トレ

♣ 脳細胞一個 は連絡足を何本か出して隣の細胞とつながり、またつながり、網目状の連絡を形成している()。木綿の 糸くず にたとえてみよう: 糸くずは縒(よ)られて糸になり、その糸は布に織られ、重ねられ、タオルになる。タオルも新しいうちは フンワリ としてボリュームがあるが、洗濯を重ね、古くなると、痩せてくる。でも、まだチャンと使える。ただし、古いタオルは多くの水を吸収できなくなる。脳の働きとよく似ている。脳細胞が 何万個 減っても、網目状になった脳の働きは 目立って低下しない。しかし、そんな 痩せたタオルを叩いて布地を鍛えられるか? 鍛えたらどうなるか? 腸、肝、腎 . . に至っては、鍛える方法さえ 思いつかないだろう?

ルー (Roux) の法則 3) をご存知か?: ルーは述べる:- 一番悪いことは「やり過ぎ」、 次に悪いのは「やらな過ぎ」、 一番良いのは「ちょうど良くする」。 「筋トレ」 も「脳トレ」 も、放置しておくと、お年寄りは ② ( = やらな過ぎ)に陥る。それは避けたい。つまり、「廃用萎縮」を避けること、これがお 年寄りの 「正しい鍛え方」 である。減った細胞には「それに見合った ちょうど良い負荷」 だけを掛けるように心掛けょう。

♣ 古いタオルと同じで、古い脳や筋肉は、叩いて ‘ふっくら’ することはないのである。

参考: 1) 新谷: 「介護予防」;福祉の安全管理 # 172, 2011. 2)  新谷: 「脳細胞のひみつ」;ibido # 88, 2010. 3) 新谷: 「ルー (Roux)と知恵」; ibido # 45, 2010.

職員の声

声1: 脳細胞の働きを 「タオルのしなやかさ」 にたとえたのが、とても分かりやすかった。

声2: 毎日 10 万 個ずつ減る脳細胞、でも 50 億 個減るのに 200 年 もかかる と聞き、安心した(係り: お金なら減ると不安かもしれないが、脳細胞は年齢相応の減り方で、気にすることはない――認知症の場合は ビックリするほど大量に減っていくけれど)。

声3: デイサービスで行う 筋肉鍛錬 は高齢者にちょうど良いレベルであり、廃用萎縮を防ぐ目的であること、納得する(係り: 日本の男性老人は これを 「チーチーパッパ」 と称して嫌がる人がある;そんな人は 結局 落ちこぼれて行く)。

声4: 昔には 「筋トレ」 も 「脳トレ」 もなかった(係り: それは介護保険とともに、厚労省がはやらせた言葉。昔は “人生50年” で、その必要はまったくなかった —— 近年、寿命は 倍増 したので、暇な老人に ハッパ を掛けているのが、実状だ … 体の遺伝子寿命は 50 年 であって 4, 5) 、何も変わっていない )。

参考: 4) 新谷:「クオ・ワディス」;福祉の安全管理 # 108, 2011.  5) 新谷:「ご利用者の生きる意欲」; ibido # 174, 2011.
      
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Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

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