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(596) 認知症 と スモーキン・ガン

(596) 認知症 と スモーキン・ ガン 

“私 この頃 物忘れが多く、「認知」になったのかしら?” とおっしゃる中年の方々によく出会う。

♣ それは ‘100 % 認知症ではありませんよ’ と私は答える … ナゼなら、本当の認知症なら、「忘れたことを認知できない」からである … ‘あなたは忘れたことを覚えているじゃないですか ―― そんな認知症って一人もいませんよ’。

♣ こんな会話もよく聞く:―― “認知症は早期発見して予防しなくっちゃね … だって予防すれば 掛かりにくくなる病気なんでしょ? 1) ” 。なるほど その通りらしいけれど、予防に気が回ることは 認知症とは ほど遠い健康状態であることも確かだ。

♣ さてさて ここで大事なことを申し上げておきたい。病気には大きく分けて 「三種類」 あって、① 感染症 (結核など)、 ② 腫瘍 ( 癌など) 、③ 退行変性 (老眼など) がある。「怪我や交通事故」は手当てを要するが、病気ではない。では、認知症はどれに属するか? ① や ② でないことは歴然、すなわち ③ である

♣ なぜって、認知症は ほぼ 65 歳 を越えて発症し、5 歳 ごとに “倍々ゲーム” でその頻度を増す 2) ―― そんな感染症や腫瘍なんて存在しない。“え? 認知症って、脳の中に アミロイド・ ベータ という物質が溜まるのが原因で起こるんじゃないの?” と尋ね返されることもある。

♣ きっとそうなのだろう、だがここで もう一つ 付け加えておくべき注意点がある ―― それは 相 関 関 係因 果 関 係 の「混同」である。たとえば「夏になってアイスクリーム販売が増えると、小児麻痺も増える ―― 相関関係はバッチリだ … だからアイスクリームは 小児麻痺の原因 となる … これは統計の本に良く出てくる 相関関係 の “早とちり・ サンプル” であって、結論が間違っていることは説明するまでもなかろう ―― 小児麻痺は夏場に多いが、アイスクリームを食べても食べなくても発生するからである。
認知症とスモーキン・ガン

♣ では 因果関係 とはどんなものか? これは言葉通りに「原因があればこそ その結果が出る」という意味で、たとえば「血圧の薬を飲んだから血圧が下がる」のようなものだ。

♣ でもあなたは質問する ―― “認知症の脳の中に アミロイド・ ベータ が存在するから それは 因果関係 を示すものではないか?”、と。きっと その通りなのだろう … だが、高度のアミロイド病変があっても認知症の無い老人も発見されているので、今 研究者たちは とても困っているのだ 2 )

♣ 因果関係 の証明は案外に難しい。上記の「血圧の薬」テストでも こんな結果が出てくる ―― 薬を飲んだのに、(a) 血圧は下がらない、(b) 血圧はむしろ上がった、 (c) 血圧は上がったり下がったりする … 人間は “情動の応物” だから、一筋縄にはいかないのである。

♣ こんな場合に備えて 薬の効果を確かめるために 「二重盲検テスト」 (ダブル・ブラインド) が考案されたが、認知症の薬物試験では、効いたが 160 人、効かなかったが 140 人、どちらとも言えないが 100 人 … のような成績が普通なのだ。その上、服薬を続けても、やがて薬効は消えて行く。こんな成績で 「因果関係が確立された薬物」 と断定してよいであろうか?

♣ 今日の講話の表題は 「スモーキン・ガン」 (smoking gun)であるが、これは「煙の出ている鉄砲」と言う意味である。発砲事件があったとき、何丁かの鉄砲を検査して、警察は「煙の出た 新しい痕跡」があるものを原因鉄砲とみなす … つまり 因果関係 の確立である。

♣ 認知症の スモーキン・ ガン 探求とは何か? それは、認知症の説明が今のところ 曖昧 (あいまい) であって、「相関関係」 (上記のアイスクリームと小児麻痺) によるものなのか、「因果関係」 (発砲事件とスモーキン・ ガン) によるものなのかが、混乱していることを物語る。

♣ 老年期疾患の ピーク年齢 は 個人差があるものの 脳卒中でおよそ 65 歳 、癌 で 70 歳 であり、以後、その頻度は減少する。ところが認知症は 65 歳 から出発 し、以後 5 年 ごとに倍増 、85 歳 で人口の約半数が、100 歳 で 8 割 が、110 歳 で全員が認知症になる 3 ) 。つまり 高齢者のうち 老齢度と密接に関係ある症状 ... こんな頻度分布を示す認知症は 「スモーキン・ガン (因果関係) を有する 病気」 とは言えまい !

♣ 話を元に戻すと、認知症の臨床は あたかも確立された アミロイドの因果関係 の中で語られ過ぎている。ところが 認知症は 2004 年 まで「年寄りボケ」、つまり高齢性の「退行変性」と見做されていた。退行変性であれば、因果関係 なんてナイ ! あるのは 廃用性混沌 (こんとん) だけであって4 ) 一丁のスモーキン・ ガン を特定することはできない。これに似た所見を示すものは、毛髪の希薄化・ 白髪・ 禿、皮膚の老人斑 などの例が挙げられ、単に ’老化変性’ と見られている。

♣ 私たちは恣意 (しい) 的に “早とちり” して、廃用性混沌 を スモーキン・ ガン と取り違えないように気を付けるべきではないか? 1947字  

要約:  病気の三分類でいえば、認知症は 炎症・ 腫瘍ではなく、「変性」である。 物事の相互関係は「相関関係 と 因果関係」に分けられるが、認知症の実態は不明なところが多い。 認知症は 脳内の アミロイド・ ベータ が原因とされるが、それは スモーキン・ ガン ではなく、強いて原因を求めるとすれば、今のところ 「老化変性」 としか言えないだろう。

参考:  1) 新谷: 「認知症を早くみつける」、福祉の安全管理 # 563, 2016. 2 )  柳沢勝彦:「認知症最新研究」;学士会会報 No.920(9月): 76~85, 2016. 3 ) Robert Epstein: “ Brutal Truths About the Aging Brain, Discover October 48, 2012. 4) 新谷:「幻の認知症」;ibido #594, 2016. 5) 新谷:「不老長寿」; ibido # 492, 2016. 6) 新谷:「不老不死」; ibido # 495 2016..

図の出典: Smoking Gun Stock Photo - Imag... https://www.dreamstime.com/stock-photo-smoking-gun...

職員の声

声1: ある老人、認知症予防のために ヨガや習字 などのあらゆることを試みたが 結局 アルツハイマー になり、しかも死因は直腸癌だった(係り: 「人間万事 塞翁 (さいおう) が馬」なのであろう)。

声2: 最終的に 110 歳 になれば全員が認知症に陥る … だったら認知症の解決はお手あげだ(係り: 日本では 110 歳 を越える男性は ただ お一人 のみ … 普遍性のある結論はまだ出ていない)。

声3: 認知症の発生原因を追究して欲しい… 単に「高齢」だけが原因ではなさそうに感じる(係り: 「認知症」という 「紛らわしい」病名 が混乱を解く鍵であろう ―― 諸外国では「年寄りボケ」と呼んでいるし、日本も 2004 年 までは「老人性痴呆」だった … 高齢でない認知症は社会問題からほど遠い)。

声4: 齢を取ればとるほど認知症は増える … つまり認知症の症状は「老化」と同じか?(係り: 社会では 認知症の精神症状が誇張されるが、同じ人が同時に 目や耳・ 髪は薄くなり 歯が抜け落ち、両手引き歩行 に骨折の多発 … 根っこは「病気」というよりも「老化」ですよ)。

声5: 仮に治らなくても 認知症の原因追及と症状の緩和を達成するのが研究の目的であろう(係り: 認知症の研究は 「ヒトはなぜ老いるか?」 を研究するのと同じであり 5, 6) 、たぶん ‘宗教・ 歴史・ 哲学’ も動員せねば納得できる答えは得られないだろう)。
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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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