(600) 遺伝子 の 新しい 指令

   (600) 遺 伝 子 の 新 しい 指 令   
  
私たちは世界一長寿の国民であるのに、その生い立ちに無関心で、また長寿に感謝することを忘れがちである。ここで命の始まりから行く末までを概観してみよう。

♣ 38 億年 まえ、地上に生命が発生し それは 「遺伝子」 そのものであった。 生命継承の基礎は すべて「遺伝子の指令」に基づき、生命の表現形式は ただ一つ―― 『 生まれ 育ち 増え 逝く』 であって、どんな生命体もこの指令に従い、古今とも例外は無かった。

♣ ところが近年 人間は、増えた後、すぐに逝かないで「老いる」ことを許されたのだ 1) ―― つまり上記の ③ = “増える” の後に ③’「老いる」 を 50 年分 ほど付け加えた後、やっと ④ “逝く” に移って行くのである 。これは「戦前」には無かった現象であり、今の私らには あまりにも当然の事だから誰も そのことに気付いていない。(参考 ーー ヒト以外の野生動物は 子を産み終わったら 世代交代だ......少数の例外を除いて、ヒトも戦前はそうだった)。

♣ 現在、パール特養の入居者は半数近くが 90 歳代 である。昔から “不老長寿” という願望はあったが、その実現は困難で、近年になって やっとそれが可能となったが その理由、それを あなたはご自分の祖父母を頭にイメージして考えてみよう。

♣ ふつう、第一に挙げられる理由は「医療の発達」であろうが、パールの特養を見ていると、救命医療のお蔭で 90 歳 になれた人は 少数である。 第二の理由は「平和」とか「介護」とかであろうが、本当の答えは 意外にも 「インフラ」なのである ! (インフラとは ‘下部構造’ と言う意味) 。いったい あなたの祖父母はどんな病気で亡くなったのか 覚えているか?癌や脳卒中もあるが、多くの場合はインフラ不足で、夏の 熱中症・ 冬の肺炎 であっただろう。そんな病名もはっきりしない内に、老人は コロっと 亡くなったのである。では 近年の「インフラ」はどうして老人の命を延ばすことができたのか?
遺伝子の指令

♣ ここで言う 「インフラ」を目に見えるような姿で見直せば、それは 「衣・ 食・ 住」であり、加えて 「電気・ 水道・ ガス」である。昔のインフラは極めて限られていた。まず、衣食住の「」から話す。あなたの衣料収納庫を思い出し、昔の様子を想像して比べて欲しい。あなたは桁違いに多様な衣服で環境から守られている。昔の老人は木綿の衣服だけで 暑さ・ 寒さ を凌いでいたのである。

♣ 「」の違いは想像できまい … 昔は「一汁一菜」で()肉食は 少なかった。しかも「貧乏人、3 杯目 は そっと出し」という粗食が当たり前で、“老人栄養食” なんて、そんな甘えた言葉はなかった。「」の違いは タマゲル ほどであり、なかんずく「冷暖房の概念」は天地を分けるほどだ。昔は夏、熱中症で老人はふるい落とされ、冬は凍るような寒さで間引かれた。

♣ 次の項目に入ると、「電気」――私の子供の頃は部屋に 40 ワット の裸電球がぶら下がっているだけで、電気の活用はそれだけだった。今、もし電気が止まったら、老人は 1 週間 も生きて行けないだろう … 夜のトイレは真っ暗闇、冷暖房は止まり、冷蔵庫・ 洗濯機・ テレビはなく、たちまち “無人島へ漂流” した生活となる。「水道」は都市では普及していたが、私の田舎の家では「井戸水」に頼っていた――手押しポンプで風呂桶 一杯 の水を汲むのは 老人にはムリである。大人のオムツは布製であるが、誰がどこで水を汲み、冬場に それを 誰が 洗い、どこで干したと思うか? 2)

♣ 「ガス」は「燃料」と読み替えよう。米を炊くのは “薪” (まき) ―― 細かな「火」は値段の高い “炭” (すみ) 、つまり料理の幅は現在の 1/50 にも及ばず、老人栄養食なんてムリのムリ。風呂を炊くのは過大な燃料消費に過ぎず、ましてお湯で髪を洗うのは 二人 懸り の贅沢であって、介助入浴なんて誰も知らなかった。

♣ 人間も更年期までの若さなら “無人島へ漂流” したような インフラ無しの環境でも生きられる ―― だって遺伝子は子孫繁栄のために人間を頑丈に作っているのである。だが子を産まない老後の体となれば、遺伝子はかなり 「手を抜いた 新しい指令」に変わる 。その手始めは “骨粗鬆症” だ (骨からカルシウムが抜ける) ――だって、遺伝子は子を産まなくなった親の体の骨の世話を しなくなるのだ。進化をつかさどる遺伝子の主力は もう子の世代に 無事 引っ越し済みなのである。

♣ 次に 老後遺伝子の新しい指令は細胞の 補充・ 繁殖 の監督から手を抜くから “ガン細胞” の発生を抑えきれず、また血管の内皮 (ないひ) 細胞の世話をしなくなるので 動脈硬化 → 心筋梗塞・ 脳梗塞 が起こる。息もつかず、大脳細胞の保守点検をさぼるから “認知症” をもたらす。

♣ つまり更年期以後の 50 年 は「不老長寿」ではなくて、その実態は 「有老長寿」 になるのであって、目と耳は薄くなり歯は抜け落ち、記憶は呆けて 手引き歩行に骨折の多発、やがては逝くだけの運命になる 3, 4 ) 。こうなれば、「医療もインフラも」 老い先の 50 年には無力となり、ここで 遺伝子は本来の役目のうち 最後の仕事 = 上述の 逝く」 を実行するのみとなる。

♣ しかし考えてみれば、命を司る遺伝子は一つだけ現代人に “有難い妥協” をしてくれたのだ ―― すなわち、③ = “増える” の後に ③’= “老いる” の挿入を許 してくれたのだ。 50 年間 の長きにわたって 子を産まずに ”老いていられること” ほかの野生動物には 決して存在しない「特典」 なのである ! 私らは「老いることができる喜び」に深い感謝を表明し、生命の古いモットー = 「もっと長生きを」、を 新しいモットー = 「幸せな老いの ひと時を」、へ変更することが出来たのである。1978字 

要約:   動物は遺伝子の働きによって命を授かり、その流れは 「生まれ・ 育ち・ 増え・ 逝く」 である。 人は‘増え’~‘逝く’の間に、‘老いる’ 期間を挿入することを許された――その主原動力は「医」のほかに、 「衣・ 食・ 住」と 「電・ 水・ 熱」の活用である。 遺伝子は 50 年 ほど‘逝く’ ことの実行を待ってくれたが、その間にヒトは 「幸せな有老長寿」 を満喫し、いまや ‘いさぎよく’ 「逝くべき運命」を受け入れる ことができるのである。

参考: 1) 新谷:「老後の半世紀」、福祉の安全管理 # 512, 2015. 2) 新谷:「オムツと心の構え」; ibido #407, 2016. 3) 新谷:「ヒトはなぜ死ぬのか?」; ibido # 99, 2016. 4) 新谷:「長寿願望」; ibido # 589, 2016.

図の出典:食ラボ » 『和食の初期化』? http://www.hisatomi-labo.com/2893
 
職員の声

声1: 遺伝子の新しい指令は「③ 増える~~④ 逝く」の間に「③’老いる50年」の期間を挿入したことであり、人はこの 50 年間 を幸せに享受した後「世代交代」を納得すると思う(係り: 他の野生動物には「老いるステージ」はなく、人はそれを 50 年 も貰っている … 感謝の上にも感謝だ)。

声2: 発展途上国では「増えた」あとにすぐ「世代交代する」傾向が強く、日本の戦後みたいだ――インフラ環境と寿命は確かに密接な関係がある(係り: 遺伝子は「老いる 50 年間 」を許してくれたが、たぶん これが限度一杯だろうね)。

声3: 特養の入所者の顔ぶれを見ると、古参の 90 歳代 のご利用者たちは一般に「病院受診の頻度」が少ない … 特養の同じ環境にありながら「自力で生きる力」が旺盛であるのに感心する(係り: 70 ~ 80 歳代 の人たちは「病院受診」が多く、死亡数も多い――どこの施設でもそうなのだろうか?)。

声4 : 特養はこんなに良い環境なのに、70代・80代が案外に病弱なのはナゼだろう?(係り: 90 歳代になれる人たちは がんらい遺伝子が頑丈なのかな?と感じてしまう)。
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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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