(598) 木を見て 森も見よう

   (598) 木を見て 森も見よう     

  あなたは (A):「頭痛・ 胸痛・ 腰痛」を病気と思うか? では (B):「老眼・ 老人性難聴・ 認知症」をどう思うか?

♣ (A) は文句なく「症状」であって病気ではないが、(B) に関しては意見が割れる所だ … だってみんな老人病のように思えるからだろう。ここで気になるのは「認知症」が病気かどうかの判定が明らかでないことではないか?

♣ ところで、あなたは「物忘れ」を病気と思うか?では「年寄りボケ」は? それは程度問題だろうけど、病名ではないよね。ところが「認知症」は「症」という文字が付いているし、「健康保険」が効くから 立派な病気だとして 疑いも置かないだろう。だが、認知症は 2004 年までは 正式に「老人痴呆」と呼ばれていたのであり、外国では今でも「年寄りボケ」である。「ボケ」 = (症状) が日本では 2004 年に 「症」 = (病気)へ “正式昇格” したのであった。

♣ それは「ボケ」という差別感を解消するための善意で厚労省が決めたことであり、世間では 好意的に受け止められたが、認知症を “病気” と考えれば 由々しい問題が 今 発生しているのである。

木を見て 森も見よう

♣ それはナゼ?:―― 病気であれば、その原因がいずれ解明されるハズであるが、認知症の現実には その展望が見えて来ないこと; 病気であれば おのずと発症のピーク年齢があるハズであるが、認知症は年齢が進めば進むほど罹病患者数が増え、110 歳 には全員が罹患する という “特異な罹患分布” を示すこと()―― そんな分布を示す病気は他にはナイ ! ; 正しく診断された認知症の中核症状が 治療によって治ったという例は まずないという事実。 参考: 認知症を 「老化現象」 と考えれば、①②③のすべてが納得される)。

♣ 日本は現在でも老人の人口比率が 27 % 、やがて50 % に近づいて行くと言われる … もし認知症が「病気」であるのなら、将来の日本は国民の半数が「認知症候補の国」、つまり「病人の国」に近づく訳であり、「介護保険の予算で衰退する国」を暗示する事態になってしまう。

♣ どの教科書を見ても、どの講義を聞いても、お話は 「認知症 = とは ……」 のように 認知症を「木」と見立てた “症状” から始まって “治療・ 介護” へと話が進むが、よく目を醒まして欲しい … 「木」 のほかに 「森」 = (老人の全身症状) の話を 同時に教育された覚えがあるか?

♣ 「木」 と 「森」 の例 を挙げてみよう:―― 人口の約半数が 認知症 (木) になる年齢は 85 歳とされ、その時の 代表的身体症状 = 「森」 は … 皮膚は皺と老人斑が多数、髪は 銀髪 または禿、目は 老眼・ 白内障 、耳も鼻も遠くなり、歯は入れ歯、骨粗鬆症で大腿骨骨頭骨折がボツボツ?、筋力は落ちて 高血圧や糖尿もしばしば、食事時の ムセ もみられ、「誤嚥性肺炎」の疑いを受けることもある… つまり「老化現象」は 否めなくなる。

♣ これだけの老化症状がある人に、「脳」だけが若くて無傷という訳にはいくまい … 事実 全身の老化に あい並んで 大脳にも所見があって、それが 「認知症」 なのである。前掲のをご覧になれば想像がつくと思われるが、齢と共に増えるもの、それは 「全身の老化」 であり、もちろん「脳」も 負けず劣らず 老化して行く。

♣ 人間は「大脳の動物」であるから、もし大脳に老化所見が発生すれば “その人にとっては受け入れ難い所見” となり、その典型が 中核症状の「ボケ」である。さらに 周辺症状に至っては「ボケ」を通り越して “悪魔が乗り移った” とみられる「徘徊 や 嫁盗り妄想・ 暴力」などが現れ、周りの人々はあわてふためく。これらの精神症状は、打撃が大きいけれど 身体所見で言えば「白内障や入れ歯・転倒骨折」などのような 単なる老化所見と同格のものなのである。

♣ 40 年前 まで 老人の数は少なかったし (4 % 程度)、仮にそんな老人がいても「座敷」に閉じ込められ、「家の恥」として隔離されることが多かったので 大きな社会問題にはならなかった。今は老人人口が社会の 30 % 弱を占め、認知症の数は全国で 400 万人 … やがて 800 万人 に増えると予想され、社会の大問題となっている。そこで認知症の予防・ 治療・ 介護の方法がクローズアップされているが、私はここで言いたい ―― 認知症 = (木) だけを取り出して騒いでも 全身 = (森) の老いを見なければ、正しい対応は出来ないのではないか?

♣ 重ねて述べるが、認知症という言葉は「脳」のみの所見を語るだけである … 肉体の老化所見は表沙汰になっていない。ところが、現実の認知症の人は 「脳所見」 = (木) の他に前述のような 「老化した全身の肉体」 (= 森)があり、むしろ ‘後者’ の悩みこそが主体ではないか? 介護保険の手間の点数も’後者’によって 著しく増幅されている。

♣ ご理解の通り、認知症は「大脳細胞の 老化・脱落」に原因があるから、「薬」でそれを代替することは困難だろう。つまり 認知症 = (木) を治そうとしても治すべき脳細胞が もう そこにないのに、何を治そうとするのか? だから 認知症のケアと言うものは、脳に対するケアはほとんど無く、従来 表沙汰になっていなかった 「身体老化」 = (森) のケアを重点的に行うことになるのだ。

♣ “木を見るより 森を見よう” というモットーの意味はここにあるのである。

要約:  認知症は病気と言うよりも、むしろ 脳の老化進行を示す「症状」である … このことは 本文のをみれば容易に納得できる。 認知症の症状は 主に「中核・ 周辺症状」に分けて理解されるが、それらは体の他の部分の症状(目・ 耳・ 歯・ 骨・ 筋肉など全身)と同格の老化症状であって、両者を分け隔てて理解することは出来ない。 認知症の理解とケアは、「木」 (= 精神症状)を見るよりも むしろ 「森」 ( = 身体の老化症状) を見る心構えが大切となる。

参考 Robert Epstein: "Brutal Truths About the Aging Brain"; Discover October: 48, 2012.

図の出典: 認知症を診断する簡単な方法、http://www.gohongi-beauty.jp/blog/?p=8237

職員の声

声1 木を見て森も見る、とは「ミクロとマクロ」の観察が重要だということと同じだ、あらゆる人間関係に通用する哲学だ(答:酒や煙草の効用分析にも通用するね)。

声2 私は認知症を「脳だけの病気」と思っていたが、なるほどそれは「全身性の老化」であることを納得した … こんな単純なことに気付かなかった自分に驚いている(答: 医療・ 介護教育の際にも必ず必要な要点でもある)。

声3 私は、病気は治ることがあるけれど、認知症に関しては治ることがない病気と思っていた、だけれど、もしこれを「老化の症状」だと考えれば、人の老化は治るハズもないし、なるほど頭がすっきりした(答: 別に認知症を突き放す訳でもないが、真実を ごまかさない姿勢こそ大事である)。

声4 認知症がもし病気であるのなら、ご家族はその治癒を期待するが、もしそれが「老衰の一形態」であるのなら、我々はご家族にそのことを伝えなくてはならない(答: ご家族は薄々そのことを感じていらっしゃるだろう)。

声5 認知症の進行を遅らせる「薬」はどれほどの効果があるのか?(答: その実態は、「鳥無き里の蝙蝠(こうもり)」である)。

 
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「ふじ」=新谷冨士雄
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