(602) 入浴 と 洗浄 と 知恵

(602) 入浴と 洗浄と 知恵

パールが始まって以来 17 年 目になり、初期の混乱は もう嘘のように遠くなった。新しく入社された若い職員も増え、先輩からの「語り継ぎ」で仕事をこなしているのが大部分だが、ここで 入浴の「おさらい」をしてみよう。

♣ お年寄りや 病気の人の入浴問題は よく機関誌に取り上げられているが 1) 、 次の3点 は新しい話題になろうかと思う 2~4)

入浴といえば「体をきれいにする」ことだが、洗い過ぎは危険である; 不注意に洗えば むしろ 「汚くなる」 のだ。正常な しっとり した肌は、皮膚の表面に皮膚常在ブドウ球菌というバイ菌が住んでいて、これが皮膚の脂肪を餌にして、脂肪酸の酸性膜をつくり、アレルゲンや悪いバイ菌を跳ね除けている。脂肪酸があると、水分は抜けない ので、しっとりした肌となる。不用意に洗うと皮膚常在菌が流されて、角質がバラバラになるし、アレルゲンが入って来てアトピーになりやすく、水分が抜けるからドライスキンだ。日本人でドライスキンが非常に多いのは、洗い過ぎ による ! そして乾燥肌用クリームを塗りこむ二重の手間 !
入浴と洗浄と知恵
♣ 藤田絋一郎 先生は 4) 、お風呂に入るのは 毎日でも構わないけれど、石鹸で洗うのは 三日に一度とか、ずっと石鹸を使わないとか、このほうが皮膚には優しい、とおっしゃっている。シャンプーで洗うなんてトンデモナイのだ ! 皮膚常在菌が洗い流されないような方法を考えよう。

♣ ゴシゴシ擦って垢を剥き取る人もあるが、皮膚細胞は一生に 50 回 程度しか補給されない 5) 。若いうちに剥きすぎると、歳をとって 新しい皮膚細胞の補給は断たれ、皮膚はテカテカに光り、わずかなムリで 皮膚はすり切れ出血してしまう。

今、お風呂の回数は 毎日であっても「当たり前」の時代であるが、エネルギー事情を考えれば、考えものだ ! 日本が豊かになる前には せいぜい 週に一度の入浴だった。だって、お風呂を一回沸かすためには、直径 30 cm の薪束が 2~3 束 必要である。江戸の人口 100 万人 なら、ひと風呂につき 5万 本 くらいの木が山から消える。つまり入浴 = 山禿げ を覚悟しなければならなかった。今の日本は 石油や天然ガスを利用するので空中の炭酸ガスを増やしても、山禿げは防がれているが、全世界的に見て 毎日の入浴が いつまで許される訳はない。 毎日入浴は決して「当たり前」ではなく、資源的に見て 大変な贅沢であることを自覚しよう !

ケチな気分が昂じると、昔の人たちはどうしていたのかが問われる。千年前の「清少納言」(= 枕草子)時代には「たらい行水」だった。五百年まえの フランス王・ ルイ1 4 世 は 7 歳 のとき初めて入浴したとの記録がある。つまり 風呂に入らないとバッチイけれど 「死にゃせん! 」のだ。習慣とは恐ろしいものである。

♣ 30 年 まえ(1985 年)、日本のバブルが真っ盛りの頃、女の子たちに「朝シャン」という流行があって、学校や職場に行くまえ、彼女たちはシャンプーで髪の毛を洗い、「肩のフケ もうナシね ! 」と言って 清潔さを誇った。つまり、それ以前の女の子の肩には「フケが落ちているのは当たり前」だったのだ。それも これも「流行」だったのである。髪を洗い過ぎると、毛根に含まれる大事な物質 (残存脂肪・ 白血球・ 免疫物質など)が流失し、それこそ皮膚と毛髪の寿命が縮んでしまう。男性の匂いを消すために、頭髪の毛根まで徹底的に洗浄しよう、という広告 もあるが、トンデモナイのだ !

♣ 業者はシャンプーを売りつけて儲ける。ご家族は “親孝行” と信じて 石鹸でなく シャンプーでお年寄りをピカピカに磨く。肝心のお年寄りは ドライスキンで、皮膚脂肪も枯渇して 弱り果てる。こんなことがないように、ご家族も 職員も 賢くなろうではないか。だって、「昔は人生 50 年」、皮膚細胞も 50 年 もてば OK だった;「今は人生 90 年」だ、昔風に ゴシゴシ擦ったら皮膚は 90 年 も持つハズがない !! 

♣ 入浴は高級な遊びである。「楽しく 賢く 洗う」 ことは、高齢者の入浴に欠くことのできない知識である。よーく 反芻 (はんすう)して身を振り返ってみよう。

参考: 1) 新谷 et al.:「和式入浴における 血圧・ 心拍数 の推移とその臨床的意義」; ICUとCCU 6:759~765, 1982. 2) 新谷:「入浴時の洗い方」; 福祉の安全管理 # 11, 2010.  3) 新谷:「カーボン・ニュートラル」; ibido # 51, 2010. 4) 藤田絋一郎:「きれい社会の落とし穴」、学士会会報 851: 94~113, 2005. 5) 中川恵一:「がんのひみつ」、学士会会報 880:106~118, 2010 (Jan.)
 
職員の声 

声1: お年寄りの皮膚を洗い過ぎると、大事な皮膚脂肪は洗い流され、薄くてテカテカに光るドライスキンになってしまう(答: 皮膚細胞の再生回数は一生で 50 回 程度と有限である … 若いうちに皮膚をゴシゴシ擦り取ると年とった後 皮膚の再生は困難になる)。

声2: 私はお風呂で自分の肌を力の限り擦っていたが、それは有限の皮膚細胞を失うことだと気が付いた(: 歳を取って肌が薄くテカテカ光るようになる)。

声3: 私はご利用者の体をゴシゴシ力いっぱい洗っている(答: そうしないと「手抜き」のように受けとられるものね … 「良く洗え ! 」という社会常識は間違っているが、本人~家族~職員の間で正しい洗い方を語り合う必要がある)。

声4: 入浴は高級な遊びと捉え、楽しく・ 賢く洗って 高齢者を正しく清潔にしたい(答:それが本筋なのである)。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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