FC2ブログ

(603) 認知症は 治るか?

(603) 認知症は 治るか?

これは なかなか大きな問題であって、「治る」という人の意見と「治らない」という人の両方が伯仲(はくちゅう)している。

♣ しかし、人々の心は「治る」という意見の人にすがり付く思いがあろうが、実際は「群盲(ぐんもう)象をなでる」 1) なのである。このことを 机の上で押し問答をしても始まらない … あなたはまず、認知症と診断されている症例(A さんとする)を想い浮かべて 次のを見ながら「一問一答」して頂きたい。
認知症は治るか?
♣ まず絵の中央の丸い部分(中核症状)の記事を上から順番に声を出して読み上げ、A さんの症状に一致するかどうかを答えてみる。たとえば、「記憶障害 → ある ! 」、「見当識障害のうち、時間 → 分からない」、「所 → 分かっていない」、「人 → 間違える」 …などのように自問自答してみよう。全部で 7 項目 を自問自答すれば、A さんに中核症状があるかどうかが判明する。認知症の基本には「必ず中核症状が存在」し、これがなければ 認知症は否定されるのである。不思議なことに、認知症の本人は 普通 この症状に気付いていない。

♣ 次に図の外側に記載されている「周辺症状」についても同様な自問自答をしてみよう。手始めに左回りで読み上げれば、まず、「不眠」があるか?次に「妄想」があるか?「幻覚」があるか? … と進んで 9 項目 を一巡りして頂きたい。これによって、A さんの周辺症状の輪郭が見えて来るだろう。これらの周辺症状は 第三者にとっては大打撃であって悩ましくも迷惑な所見であるが、意外なことに、本人はこれを意識 していず、認知症の診断には必須ではなく、また、経過によって出没する傾向もある。

♣ 診断のダメ押しをする 三番目 の項目は (イ) 年齢と (ロ) 鑑別診断である。(イ) の年齢については A さんが介護保険の対象年齢であるかどうか? これはすぐ分かる。 (ロ) の鑑別は種類の多い「認知症の同定」であって、普通 病院の検査で確認する。老人性の認知症の約 6 割 は「アルツハイマー型」、次に「脳梗塞後」、「レビー型」「前頭側頭葉型」などと続く。

♣ ここで認知症は治るのか、治らないのか?の問題に移ろう。「問題の根っこは認知症という名称」にあるようだ ! 現在の認知症は 昔、主に「老人性痴呆(ちほう)症」、つまり「老人ボケ」のことであり、差別的な匂いを避けるために 2004 年、上品な言葉 = “認知症” に改名された。

♣ その結果、認知障害を来す疾患およそ 14 種類 もこの中に含まれてしまった(正常圧水頭症・ 慢性硬膜下血腫・ 甲状腺機能低下症などに続発する認知症など)。これらを 十把一からげ に一つの「認知症」という言葉で代表すると、「群盲(ぐんもう)象をなでる」ような誤解が発生してくる 1 ) ――つまり、ある人は「認知症は治る」、別な人は「治らない」などの意見が出てきて、普通の人は何を信じてよいのか迷ってしまう。

♣ さて、ここで 決定的に大事なことは、認知症の症状には上述の「中核」と「周辺」の 2 成分 があることだ。このうち、中核症状は認知症の診断には必須であり、これは大脳細胞の脱落による症状であって、大脳細胞は再生しないから 治ることは まず期待薄である。ところが周辺症状のほうは機能的な失調であり、たとえば「徘徊」は認知症の診断に必須ではなく、仮にあっても治療によって治って行く。つまり、認知症の周辺症状は治療によって対応が可能である。

♣ 認知症が「治らない」という人の意見は 認知症の中核症状が「治らない」と言う意味であり、「治る」という人の意見は 周辺症状ならば「治る」と主張している訳だ 1)

♣ ここで「治る」の意味を考えよう。たとえば、通常の「風邪」なら “完全治癒” が期待される。しかし「骨折」の場合は、元の形とは少し変形して治るからこれを “変形治癒” という。「心筋梗塞」なら、心臓の血管が詰まった後治る病気だから、これを “欠損治癒” という。「脳梗塞」も心筋梗塞に準じて理解できるが、脳の場合は 2 種類 の “後遺症治癒” がある―― ひとつは “麻痺” 、他は “認知症” だ。つまり、「病気が治る」と言う実態は疾患ごとにいろいろなのである。

♣ AD (アルツハイマー)の場合を考えると、その発生頻度は、65 歳頃 からぼつぼつ症例が増え始め、それは直線的に増えて 90 歳 で人口の約半数が、110 歳 でほぼ全員が認知症になって行く 2) 。つまり「年齢増加 + 大脳細胞の進行性脱落」という主原因があり、前者は日々進むし、後者も今のところ齢と共に進むので 3) 、「治る・ 治癒」という表現は不適当というべきではないか。

♣ 今後、「齢はとるが老化は しないという矛盾」の治療が叶えられる日が来れば、「AD は治る」と言う見解も普遍的となるかも知れない。 1928字

要約: 世間では、認知症は「治る」という意見と「治らない」という意見が伯仲していてしばしば混乱する。 認知症にはおよそ 14 種類 があるし、一つの認知症の症状には「中核」と「周辺」の2成分があって、「治る・ 治らない」の議論は一概にまとめられない。 一般的には「中核症状は治らない」、その他は「治せる」とみてよく、具体的には AD と 脳梗塞後の中核症状 の予後は厳しいものである。

参考: 1) 群盲(ぐんもう)象をなでる = 多くの盲人が象を撫でて、それぞれ自分の手に触れた部分だけで巨大な象を評するように、凡人が大事業や大人物を批評しても、単にその一部分にとどまって全体を見渡すことができないことである (出典:教えてGoo) 2) 新谷:「木を見て森も見よう」;福祉における安全管理、 # 598, 2016. 3)  大脳の細胞は、誰でも成人後 毎日減少し、その数は一日10万個に及ぶとされている ... でも心配ご無用、100 歳 まで生きていても、健全な大脳細胞は 8 割 以上残っている。なお、「細胞数」の減少は「脳」に限らず、体のすべての細胞において観察されるものであり、それが 「老化」 という一般現象なのである。筋肉に至っては正常な人で、25 歳 の筋肉は 75 歳 で半分に、100 歳 で 4分 の 1 にまで減る !  --これを 「治る」 という目で見るのか?

職員の声

声1: 私は介護保険以前からの経験で、認知症が治ったのを見たことがなく、それを “治る” という人がいるのが不思議でならない(答: きっと治療のサジを投げないで、奮励努力を奨める善意で言うのであろう … 人って、日々歳をとって行くものなのにね)。

声 2 : 認知症は治らない… でも長生きします、では困っちゃうよ(答: 半世紀前まで 人は「早死に 50 歳 」で困っていた、今は「長生き 100 歳 」で困っている … 人間は勝手なもので、丁度良いのは少なくて、常に困ることを追い求めているかの如くだ)。

声 3: 認知症で大声をあげたり、暴力をふるう理由が分からない … ナゼさっきの事を忘れるの?(答: 大脳細胞が老化・ 消滅するのが認知症の本態 … もし人間の大脳が壊れれば、抑制が利かず、蛇のよう・ 蛙のようになって、本能の欲求のままの人間に化けてしまう)。

声 4: 治らないと分かったのなら「予防」すれば良いのではないか?(答: 認知症は病気というよりも 「老化が主体」 の状態であり、「老化」を予防できた人は一人もいない … もし仮にそれが予防できたとしたら、世の中は自立できない 100 歳越えの老人で溢れ返ってしまう、というこの矛盾 ! )。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

最新記事
全ての記事一覧
月別アーカイブ
カテゴリ
リンク
QRコード
QR