(611) 超高齢に たまげない !

 (611) 超高齢に たまげない !

高齢はみんなの願い、超高齢は更なる誉(ほまれ)。

♣ 百歳寿の全国記録数は 1963 年 (昭和 38 年)に始まって、150 人 ほどの少数でスタートし、その後もたいして増える気配がなかった。ところがその 10 年 後の 1973 年 (昭和 48 年)に、厚労省が 「福祉元年」 を提唱して老人の医療費を無料にしたことをきっかけに、百歳寿はゆっくり増え始めた。「痴呆」 (ちほう、認知症)を患う人々は、従来 「精神疾患」 とみなされ、生活の場は 「自宅または精神病院」 に限られていたが、1982 年 の「老人保健法」の政策によって「特養」に入所できるようになった。

超高齢に たまげるな !

♣ そのお蔭で、図 1 をご覧あれ …百寿者の数は年々 “指数関数” 的に著しく増え始め、現時点では初期数の 600 倍 にも達するアッパレな勢いとなった。この現象を 「心の建て前」 から描写すれば “お目出度いこと 限りなし ! ” であろうが、明日の社会を考えると、「心の本音」 では不安になるのではなかろうか?ナゼって、多くの百歳寿は 尊厳に満ちながらも 心身共に 「自立」 からほど遠い要介護者だからである。

♣ その昔、「金さん・ 銀さん」 という一卵性双子のお婆さんたちが百寿のお祝いでテレビに出演、愛嬌をふりまき 「百歳寿のお祝い金は “老後の為に貯蓄するつもりです” と語って全国の人々の笑いを誘い、祝福を受けた。このお二人は 107 歳 までご生存の後、肺炎で亡くなったが、百歳寿の少なかった当時の心温まるエピソードであった。

♣ 特養パールでも 「敬老の日」 には一人(または二人)の百寿者が渋谷区・区長の祝辞と金一封を受け、施設からもお祝いの大きな花束を贈られるのが常である。見ていると 「返礼の辞」 がきつい … ある人は返す言葉もなく無言の笑みを示すだけ、別の人は “何が起こったのか” すら飲み込めていない有様 … それが特養の百歳祝いのプロフィルなのであった。
超高齢に たまげるな !

♣ さて、図 1 のような巨大な百歳寿の繁栄を「実人数の変化」の立場から眺めるとどうなるか、それを 図 2 に示す。この図は通常の人口ピラミッドの左半分(男)を切り取り 90 度 右方向へ回転したもので、横軸が年齢・ 縦軸 は人口である。齢ごとの人口は 0 歳 から 30 歳 まではおよそ 60 万人 レベル、40 歳 と 70 歳 あたりで 100 万人 レベルの人口の増えた峰があり、右方の峰は 「団塊の世代」 を、左方の峰は 「その子供世代」 を表す。

♣ 人口は 70 歳 を越えたあたりから 100 歳 に向かってほぼ “直線的に 減衰” するが、この減衰開始年齢のことを 「屈折年齢」 と言う 。この現象はどの国の人口ピラミッドにも見られるが、屈折年齢の位置年齢は民族ごとに異なり、それぞれの国の福祉状況が良く反映されている 。これを見ると、70 歳 から 100 歳 の 30 年間 に人口が直線的に減衰し、実質ゼロになる … つまり毎年の死亡率が 3.3% であることも暗算され、スエーデン等の北欧国 とよく似ている。

♣ その更に右端が百寿の超高齢域であって、それは目を凝らしてよく見ても見えないほど細く、冒頭の 図 1 を見て受けた巨大な勢いの百寿者の印象とはまるで逆である。確かに、百歳寿の人口は 1960 年 の 600 倍 を越えると報告されているが、日本の総人口 1.2 億人 に比べれば 0.05 % にも満たない微小規模だったのだ !

超高齢に たまげるな !

♣ そこで、この部分を拡大した 図 3 を見てみよう。横軸は 100 歳 から横に 1 歳 刻み、縦軸は生存者の実人数。まず、最下段の線(男)を見ると、100 歳 で 2,000 人 足らずの人口があったのに 105 歳 で実質的にゼロとなる。また下から 2 番目 の線(女)でさえ、100 歳 で 1 万人 もいたのに、107 歳 ではゼロに近づいている。ウーム、百歳寿とは言うものの、百歳をちょっと越えただけの年齢で 「アウト」 ではないか !! 私は思わず 「羊頭狗肉」 (ようとうくにく)という言葉を思い浮かべた。

♣ 古代中国の料理屋では、高級な羊の頭部を店頭に展示して客を集め、実際には安価な犬の肉を食べさせた、という言い伝えがあり、日本で言う 「上げ底」 のようなものだ。つまり、物事を 実物や実態以上に もの凄い事のように錯覚させられることである。

♣ 冒頭で挙げた 図 1 は、100 歳寿 が近年になって巨大に膨張したことを示し、感覚的には 「建て前のお祝いムード」 から 「本音の不安感」 が導かれたのだった。しかし、それは 「早とちり」 に過ぎず、羊頭狗肉のようにも思えたのだが、実は何のインチキもなかった … ただ 図 1 の巨大な百寿者増加のグラフに不安の錯覚を覚えたのも事実であった。

♣ 私たちの個人的なお付き合いの中では、最高年齢の方は男 101 歳 ・ 女 107 歳 であり、畏怖(いふ)の念こそ覚え、決して恐ろしげな印象を受けることはなかった。統計とは異(い)なものであり、すべて真実を反映するハズなのであるが、受け取りようによっては錯覚を導くこともある。注意すべき反省点であった。1962字

  要約:   近年、百寿者の数はうなぎ登りに増えた … アッパレと思う反面、“これで良いのか?” と不安が誘われる。 ヒトは屈折年齢 に達した後 100 歳 に向かって ほぼ直線的に世を去っているので、この効果により、百寿者の総人口に対する比率は 0.05 % に過ぎず、その実態は 「膨大多数」 というイメージからはほど遠い。 100 歳 を越えた男女の実数を観察すると、100 歳 を僅かに越えたところで 激減しているので、百寿者という巨大なイメージは錯覚 に過ぎず、たまげる必要はないのであった。

参考:  新谷:「屈折年齢と福祉」; 福祉における安全管理 # 579, 2016.

職員の声

声1: 今どき 100歳 と聞いても驚かないが、110 歳 となると大きな壁を感じる(答: なるほど 100 歳寿 は 6 万 人余あるが、110 歳 以上となると数人だけになる … 経験上、108 歳 あたりが人類寿命の壁だろう)。

声2: 日本の人口は 70 歳 まであまり減らず死亡者は少ないが、70 歳 を越えると 100 歳 に向かってコンスタントに 3.3 % ずつ減って行く、とは初めて知った(答: この場合の 70 歳 のことを 「屈折年齢」 と言う … 各国ごとに年齢数値は異なるが、日本の屈折年齢はスエーデン並みで世界最高、反面 イタリアは 50 歳 ・アフリカは 0 歳 のようにバラついている)。

声3: 日本では 100 歳 を越える人は総人口の 0.05 % に過ぎない(答: 100 歳 越えの人口は 6.6 万人 で、統計を取り始めて 600 倍 に増えたが、やはり 絶対数でいえば少ない)。

声4: パールのご利用者は、90 歳 後半の人は多数あるけれど、案外に 100 歳寿 になれる人は少ない(答: 通り抜けにくい壁の一つが 「100歳」 、次の壁が 「108歳」 … 人間の天寿の定説はないが、“金さん・ 銀さん” の108 歳 が無難なように思える)。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

最新記事
全ての記事一覧
月別アーカイブ
カテゴリ
リンク
QRコード
QR