(616) ライオンの 3倍も 生きる !

 (616) ライオンの3倍も生きる !

  日本のお年寄り、世界一の長命なのに、もっともっと長生きしたいと切望される。じゃ、どれくらい長く?と尋ねれば “ひ孫の結婚式まで” とおっしゃる。まあ、何と明るく元気なのだろう !

♣ そこで思いを馳せてみる … 我々は 全動物の寿命の中でどれくらいの位置にいるのだろう? 動物は種(しゅ)によって大まかな寿命が決まっている(図 1)。左上のトンボ… ひと夏の寿命で終りだ。案内の青線に沿って トガリネズミ・ モグラ … と進めば寿命 1 年・ 2 年 の小動物が見える。小動物は、捕食されることが多いため早ばやと子孫を残し、自らは短命である。大型の動物は天敵が少なく、ゆっくりと長命だ。

ライオンの 3倍も 生きる !

♣ 狐→ 羊→ 牛 と体が大きくなるにつれ寿命は延び、更に、身体の大きいライオン 30 歳→ 河馬 40 歳→ 象 50 歳のように長命となり、確かに体の大きさと寿命は並行しているし、学説によると 「寿命は体重の立方根に比例する」 と言われる。ところで体重が「羊」並みのヒトの位置はどこか?よくよく図を見ると、ビックリするなかれ、ゾウを遥かに引き離し、ライオンよりも 3 倍 の高い位置にヒトがいるではないか ! つまり寿命の点で ヒトは百獣の王 と言えるのだ !!

♣ これにはキチンとした理由がある。がんらい ヒトも温血動物の一種であるから、学者の計算式によると、体重に見合う寿命はライオンの「30 歳 」近辺のハズという。事実、野生動物と同じような自然環境下の生活をしていた古代の縄文人は 30 歳 前後の寿命であった。

♣ その後、歴史のうつろいと知恵の発達により、平均寿命は江戸時代 35 歳・ 明治 40 歳 ・ 昭和 50 歳 へと延びて来た。更に、戦後の 70 年間 の福祉で寿命は一気に 90 歳 まで延びた。このことから、寿命の延長は人間の 「知恵」 に大きく依存していることが理解される 。逆に言えば、もしヒトにこれという 「知恵」 がなかったのなら、人の寿命はライオン並みの 30 歳 に止まっていただろう。我々が今 過分(かぶん)にして 90 歳 まで生きることができるのは 全く 「知恵」 のお蔭であることをキチンと頭に入れておこう。

♣ さて、図 2 は戦後ヒトの寿命がどんな要因で変わってきたのかを示す。死因には 「三大疾患」 というのがあって、癌・ 心臓病・ 脳卒中 が特筆される。 は年ごとに増え、今では死亡原因の 1/3 を占め、戦前の結核に相当している。 心疾患は図面上は多いけれど、その実態は 「老衰による心不全」 がまざって診断されているから、実際の心疾患はこれほど多くはない。

ライオンの3倍も生きる !

脳卒中 は昔 多かった診断名だが、今、この病気の 慢性経過 の故に、死亡時の診断名としては少数となった。 変わって増えたのが肺炎 である。戦前にも多かった肺炎は 「細菌性」 肺炎で、結核と似たような感染症であるが、今はほとんど無くなった。戦後の肺炎は 老人の摂食困難が理由で、間違って食物を肺に飲み込む「誤嚥性」肺炎であり、同じ「肺炎」とは言うが、両者は全く異なった病気である。

♣ これら 戦前・ 戦後 の死因の特徴を比べると:――戦前には 「感染症で若年層」 が多数死亡 … これに対して戦後では 「変性疾患で老人層」 が世を去ることであり、まことに対比的である。そもそも病因を三つに大分類すれば 「外傷・ 感染症・ 変性症」 であるから、近年の若者が感染症で死ななくなったことは大変に有難いことであり、また老人が使い古した臓器の変性症で世を去る ことも道理に叶っていると言えなくもない。

図2 で表されていなかった大事な疾患 = 認知症の意義 も強調したいと思う。これは私の提案であるが、人間が病気と接触するのは次の順である:――若年の「感染症」→ 中年の「生活習慣病」→ 初老の「癌」→ これらを皆パスして生き残った幸運者が → 老年期の「認知症」… こういう順だ。 これ以後は もう無い ! だって、もしこの先 寿命に恵まれても、肉体はついて来ないだろう。

♣ 感染症は 「悪」 が体の外から持ち込まれた訳であり、それへの対処法は確立されている。生活習慣病は文明病でもあり、「自業自得」 の要素が大きい――糖尿病・ 高血圧・ 脳卒中 など、対応は四苦八苦だ。「癌」?これは半分 「自業自得」 であり、半分は老人病だ … 癌が撲滅される夢はいずれきっと叶えられるだろう。

♣ で、最後の老年期の認知症は?――ヒトがこれに罹る年齢はライオンの寿命のおよそ 3 倍 も多い。 ところで、野生動物は決して認知症に罹らない、ナゼって、彼らは 「上記の絵」 で定められた天寿の範囲でしか生きられないし、よぶんな負担を脳に掛けてもいない。

♣ ところが ヒトは大脳の発達によって 「子を産まない 50年 もの老年期」 を開発し1) 、野生動物の 3 倍 も長生きをする自由を獲得した。つまり ヒトの天寿 30 歳 が 90 歳 に延びた訳である。この寿命延長は半端でないから、何らかの 「ムリ」 が大脳に溜まってしまったとしても不思議ではないだろう?

♣ 皆さん方は、戦後 寿命がムリ無く延びたと思っているけれど、実際にはこの 「ムリ」 こそが認知症の根源になったのではないか?… つまり ヒトは寿命の点で 「百獣の王」 となったが、その半端ではない寿命延長こそが認知症を招き寄せたのではなかろうか?ナゼって、認知症は加齢と共に ”倍々ゲーム” で増え、一向に収まる気配がないからである2)

♣ この考えは悲観ではなく、私は老人介護に従事する人々の楽観として役立たせて貰いたいと思う。 2005字 

要約:   ヒトの天寿は緒動物の中で不相応に長く、これはヒトで特に発達した 「知恵」 のお蔭である。 近年の死因の流れは 「感染症→ 生活習慣病→ 癌→ 認知症」 と進化し、ライオンの 3 倍 も長生きするようになったが、ついに年貢の納め時が来たようだ。 ヒトには大きな「知恵」 があるけれど、 「心身の寿命」 には天井があることを自覚せねばなるまい … この思考は悲観ではなく楽観として受け止められる。

参考: 1)  新谷:「遺伝子の新しい指令」; 福祉における安全管理、 # 600, 2016. 2) 新谷:「木を見て森も見よう」;ibido # 598, 2016.

職員の声

声1:  ヒトは「知恵」のお蔭で 90 歳 を越えて長生きできるようになったが、「幸せ」 を手に入れたか?(答: 一般に老人は「幸福感」に乏しくて、ご本人の口から出る言葉は 「辛い ! 」 が多く、介護の世界で 長生きの身を 「幸せ」 と言う人は 少ない)。

声2: 私には生活習慣病があって それは自業自得と承知しているが、後は認知症で一生を終わるのか?(答: 高齢で認知症になって、他人のお世話をたっぷり受けて世を去る … これ以上の幸せがあるだろうか?)。

声3: 本文の絵を見てすぐ理解されること、つまりヒトはこれ以上長命になるハズはない … 他の動物と同じような関係で百年後も今のままだろう(答: NHKスペシャル の放送では、ヒトの平均年齢は過去の延びから計算すると 30 年後 には 短絡的に 86 歳 → 100 歳 に延びる、としていた … この絵を見せてあげたいね)。

声4: つまり、ヒトの寿命は脳の寿命と言えるか?(答: まさにその通りであって、脳の退化が認知症を導くから、苦しみのない終焉(しゅうえん)の工夫が期待されている … 認知症の後に なおまだ未知の病気があリ得るとしても、ヒトの肉体は もうそこまでは付き合えない)。


プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

最新記事
全ての記事一覧
月別アーカイブ
カテゴリ
リンク
QRコード
QR