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(615) エホバ と ペグ を考える

    (615) エホバ と ペグ を考える    
                               
 エホバ とは 「エホバの証人」 というキリスト教の一宗派である。ふだんは知られることも少ない宗派であるが、こと医療に関係すると、問題が発生する。特に、交通事故や緊急のお産の手術で輸血の場合、救急初心者の天地はひっくり返る。

♣ それは、エホバが教義として 輸血 を許さない宗派だからだ。もし医師が、言われるまま輸血をせずにエホバの信者を死なすと、刑事事件に問われる。輸血を敢行して命を取り留めると、助かった患者は仲間から 村八分 にされるので、患者側は医師を起訴、最高裁ではその医師の方を有罪にするとの判例が出ている。

♣ これへの対応として ある病院は、「輸血拒否の方は当院の診療をご遠慮ください」と張り紙を出したら 医師法違反 でやられてしまった。難儀なことながら、エホバに出くわすと、八方塞がり である。パールは輸血をする場所ではないけれど、もし、あなたがこんな場面に出会ったら、どうするだろうか?

♣ 次に 「ペグ」 の話をしよう 1) 。ペグとは 「胃瘻」 (いろう) = 「経皮 内視鏡的 胃吻合術 (Percutaneous Endoscopic Gastrostomy) の頭文字を取った略語である。元来は外傷などで「一時的」に食道をバイパスする目的で工夫された「開腹手術」だった。ところが 1980 年 頃、内視鏡の発達とともに、胃と腹壁を繋ぐ手技が、外来で簡単にできるようになり、欧米で高齢者の延命に利用され、爆発的人気を得た()。しかし、すぐ 反省の波 で人気は収まってしまった; なぜならペグは 「人の生と死の境目を不明瞭にする手技」 であることが判明したからである。
エホバとペグを考える

♣ 超高齢者は “死” が近づいたから食べなくなるのであり、食べないから死が近づくのではない。しかし、この手技が日本に紹介されると、「食べない老人の強制延命」に応用され、人気は持続的になった。口や喉を使わずに栄養が取れる限り、老人の栄養問題は緩和される。しかし、口から食事を取れないほど 病気が進行すると、意思の疎通はとれず、高度の 「寝たきり」 になることが多い。

♣ パールの特養では、今、3 人 ほどペグの方がおられ、一番長い方は 8 年間 もこの状態が続いている。3 人 とも 要介護 5 で、会話はほとんど成り立たず、一人静かに終日天井をみつめて静かに過ごしておられる。この状態を 「呼吸する屍 (しかばね) 」 (breathing cadaver)と言うそうで、欧米では一種の 「尊厳無視だ」と 考えられている。

♣ 病院によってはペグを強力に勧めるところもある。ペグで栄養状態を安定させて 「退院」 の見通しをつける、と判断するからであろう。ある例でご家族がペグに難色を示されたところ、総婦長どのが折伏(しゃくぶく)に来られた … 「ご家族はお母さまを餓死させるおつもりですか?」 と … 家族はとうとう折伏に負けてしまった。

♣ 気分で拒食した例: 88 歳 の女性、要介護 4 ――腎不全で入院、なにせ食べないので受け持ち医は簡単にペグにしましょう、と判断。実は BM I = 26.5 の肥満体型の患者であり、それは お相撲取りにペグ をするようなもので、軽率な判断であったから回避された。

♣ ペグは素敵な一時 しのぎの治療法であるが、原因療法ではない; 世の中では 「老人の意思を尊重する」 と言いながら、実は「家族の判断を押しつける」ことが少なくない。今、日本のペグは 30 万人 にも達し、「透析」 の数の多さと肩を並べる人気だ。その理由は日本独特である … 我が親は 「どんなに哀れな姿になろうとも、生きていて欲しい」 とおっしゃる家族が多いからだ。パールは、施設としてペグの可否はご家族の判断にまかせている。

♣ 一つだけご家族にお伝えすること: ぺグの造設は簡単であるが、状態は 「要介護 5 」 となり、一年の維持経費は 500 万円~ 900 万円 、延命の平均期間は 1.9ヶ月 である 2) 。一日 2 ~ 3 回 の栄養補給は、がんらいペグを希望した 「ご家族」 の仕事であり、かなりの重労働となる (介護職員は法的にできない)。

♣ 介護施設では看護師がその任にあたるが、寂しい毎日を過ごすご本人を慰める役目はご家族の面会意外にはない。また、長期にわたる胃瘻延命には、褥創や低酸素症などの合併症も避けられないし、体格指数(BM I)から観察すると、胃瘻は病気の進行や痩せは避けられず、意外なことに誤嚥性肺炎も頻回に発生する。

♣ そこで皆さんにお尋ねする: あなたの祖父母・ 父母・ 血縁 の方がペグを必要とされた場合、あなたはどんな意見で臨むか? それは血液透析の場合よりももっと深刻である。エホバは 「人為延命」 を禁じ、逆に「ペグ」は 「人為延命」 を求める。

♣ 人の命の終わりを、ご家族の一念と恣意(しい)で、こんなにも変更してよいものか、私は、生き方の不思議に感嘆せずにはいられない。1951字 

要約: エホバという宗教は、治療について胃瘻どころか「輸血」さえも否定するが、日本では 「節操もないほど」 人の体を操作して観血延命を許容する。 20 年 まえまで、“食べない老人” はすなおに世を去ったが、今では胃瘻設置で一人寂しい寝たきり延命が増えてきた。 延命胃瘻の倫理的是非は 生命の尊厳の点で、日本と欧米でかなり異なっている。

参考:  1 ) 新谷:「胃瘻と尊厳生」;福祉における安全管理 # 17、 2010. 2) 鈴木裕:「PEGの適応――嚥下障害と経管栄養、日本内科学会誌 138 (9号)、page 1767, 2009.

職員の声

声1: 怪我で出血多量なら、私はすなおに輸血を受ける … でも親を餓死させるつもりか?と詰問されれば「ペグなら一生死なないのか?」と問い返す(答: とても素直です ! )。

声2: 私が前に勤めていた病院では、食べられなくなったら必ず胃瘻、それさえ困難になったら 「高カロリー点滴」 に移る… 点滴前に 「ご飯ですよー」 と一斉に掛け声 … 見るも聞くもむなしかった(答: 複数の胃瘻患者さんがズラリと並び、静寂の中で ただ点滴の音だけが ポタリポタリ … 見学者には決して見せられない光景だ)。

声3: ペグは、回復の見込みがない人にはやらない、と聞いたけれど?(答: 紹介されてパールに入所した方 … 8 年 にわたって “ペグで寝たきり延命” を続けておられる … ご家族はめったにおいでにならない)。

声4: 若者の第一死因は 「自殺」 で命を粗末に中断、なのに老人には 「胃瘻」 をつけて 「寝たきり延命」… 死生観の訳が分からないのが日本の文化だ(答: 「延命胃瘻」 を、外国のように有料にすれば ご家族の判断もきっと変わるだろう)。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

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