(614) 長命を四つの道で支える?

    (614) 長命を四つの道で支える?

   人間、黙っていれば「長生き願望」である。だが、その願望は戦前の話、今では肉体が老衰の極限いっぱいになるまで 「その願望を達成している」 時代になった。そこで「四つの道」を振り返ってみる。

その長命の基礎は高齢時の 栄養の確保 である。自分の手で食べることが長命のコツであるが、高齢になって手が動かない、または空腹の意識が弱くなると、それが出来なくなる。生き物は食べられなくなったらこの世を去る運命にあるが、人間だけがこの自然摂理に反しても生きられるようになった。理由? それは、人間は 「食事介助」 の知恵を持っているからだ。動物は 猿でさえ、親の口元に餌を運ぶ知恵を持っていない 1 )

♣ 生き残るためには、まず「嚥下訓練」と「食事介助」を十分に行なう。それでも自己摂食が駄目なら医療に繋いで 「高カロリー点滴・ 胃瘻」 などへと進む。このレベルになると、「自力で生きている」という人間らしい段階を越え、本人はベットの上で天井を向いて無言のまま呼吸をして過ごす「準・ 植物人間」になる。

♣ 西欧ではこれを「非人間的な拷問」と評して受容しないが、日本なら「親はどんなに哀れな姿であっても生きていて欲しい」というご家族の希望によって案外に胃瘻人気がある。その希望を満たすためには、年間 500 万円 ~ 900 万円 の経費が必要だが、介護保険がそれを肩代わりしてくれるから、昔には有り得なかった 「延命生存」 が可能になった。
長命を支える三つの道

生存を支える第二の道は 老後の確保 である。老後の定義はいろいろあるが、男女に共通な定義は 「子育て終了後」が 適切な定義であろうか() 。この図 2) をよく指さして納得して欲しい。男性で見ると、1947 年 (昭和 22年 )以前には “老後というものは存在しなかった ! ” 彼らの一生は動物と同じで、「生まれ・ 育ち・ 増える」、それだけで終わっていた。定年 55 歳 までに届かない人生は哀れだが、このように、昔は 老後が無かった男女が多数だったのである。

♣ 男性の老後は近年になってかなり延びてきたものの、せっかく延びた年月を どうして暮らしたら良いのか当惑している人も少なくない。女性の場合も同様であるが、男性に比べて老後の長さはまた格別であり、多くの女性は 「求めて与えられた老後の長さ」 にほとほと戸惑うばかりである。

♣ 人間以外の動物は繁殖期を過ぎると、存在意義がなくなり、すぐ死ぬ。人間も戦前までは「老後」などの期間はなく、すぐ逝ったものだ。近年になってやっと「老後」が獲得されたのであるが、その老後を有難く消化するのは困難 、むしろ 「持て余している」 人が多いのではなかろうか?

♣ 人間の「老後」は嬉しいことだが、辛いことでもある。その原因は老後の遺伝子が人間の肉体を本気で守らないように見えるからだ。たとえば、遺伝子は子を産まなくなった人の骨の強さを守らない(→ 骨粗鬆症)。視力・ 聴力・ 残歯の保守をしない。また生活習慣病や癌発生への抵抗力を弱める。挙句の果てに、加齢に比例して 「骨折・ 認知症」 を増やす3 ) 。ところが一般動物の遺伝子は、そもそも子を産む御用がなくなったら「老後の命そのもの」を召し上げる … 後者のほうこそが進化の摂理であろうか?

そこで人間の知恵は 第三の道: 医療の確保 に頼ろうとする。近代医療は 19 世紀 の半ばに端を発し、20 世紀 にはほぼ爛熟期 (らんじゅくき)を迎えた。その恩恵は著 しくて、更年期 50 歳 の後に老後寿命の 50 年 までを追加 したほどである。それなのに、20 世紀 の後半から 「医療に対する批判」 が続出 し始めた。

♣ 有名な インゲルフィンガー の調査結果によると、医療により(イ) 好転または治癒 = 9 %、(ロ) 効果がなかった = 80 %、そして(ハ) 予後がかえって悪化したもの = 9 % であり、つづめて言えば、医療による有益は 1 割 、副作用が 9 割 だと言う。また欧州で時々起る病院ストライキでは医療費も死亡率も半減することが報告されている。このことはわが国でも北海道の 夕張市 で病院破産が起こったあと、市民はかえって健康になったという報告もあるほどだ。そんな批判とは裏腹に、国民の医療に対する要望 は勢いづき、「不老長寿」 を求める声も大きい。更には近年、「認知症 = 老衰」に対する医療の無力さを叱責する声も高まり、「医の権威」は失墜するばかりである。

そもそも医療の目的は病気を治すことではなかったか? 然り、乳幼児・ 若年者への医療は目を見張るほどの功績を果たした。だが難病への対応はまだ今後の宿題である。それなのに 、医療は手を広げ過ぎ、人類進化に対して ご縁のない 「老後の心身故障」 までを治そうとしている … 換言すれば 「齢を治して欲 しい」 と願う人々の声に包まれている。「老後現象 はよぶんに獲得された近年の恩恵」であって病気ではない ... 加齢を治すことは原理的にムリだ … とは言え、人は歳をとれば取るほど医療に依存的になる現実を 何とかしなければなるまい。

♣ 人類はごく最近、人生 50年 から人生 100 年 に進化 したばかりなのだ。その長命を支える三つの道を越えて、人々は更に欲張り、もっと長生き 「第四の道」を模索している。どうしたら、お気に召す答が出るだろうか? 1968字 

要約 :  長命を支える道を四つ検討してみたが、老衰時の「栄養確保」は、欧米先進国では 「食介なし・ 点滴も胃瘻もなし」 という方法で納得されている 。 老後の確保」は戦前には得難かったものであるが、それを獲得した近年のお年寄りの多くは「幸せ」とおっしゃらない … 老後って不要なものなのか? 日本の「医療確保」は世界一徹底しているけれど、有益 1 割・ 無効 9 割 という “さんざんな批判” もある。 その原因は …. 「年齢を治すことを医療に求めるから」ではないだろうか。

参考: 1 ) 松澤哲郎: 「想像するちから―― チンパンジーが教えてくれた 人間の心――」、学士会報 No.913, July 2015. 2 ) 神山晃男: 「浪平の年齢と老後の誕生」、こころみ、2013.11.20。 3 ) 新谷: 「幻の認知症」;福祉における安全管理 # 594, 2016.

職員の声

声1: 本文の図を見て驚いた … 子育て期間よりも老後期間のほうが長いではないか ! (答: 特に女子の場合、2倍近くも長い ! … 人間の老後は進化の道から著しく外れるね)。

声2: 子育てを済ませた「老いの無駄」を解消する唯一の方法は老人に「働いて貰う」こと、そうしない限り老人の重荷はすべて若者の肩にのしかかる(答: 賛成 ! … でも 85 歳 人口の約半数は認知症だという現実を考えると、どうすれば老人を尊重 し、その上 活用できるだろうか?)。

声3: 昭和 22 年 の図を見ると、男は子育てを終えた 51 歳 で死んでいる … 定年前だし、老後期間もなかったし … でも、それが人間の本来の寿命のような気がする(答: 豊臣秀吉 62 歳 ・ 徳川家康 74 歳 などは生きる富を持っていたし、特例中の特例だった ... みんなが 90 歳の現代 なんて、それは「種の進化」と一致するのか?)。

声4: 医療は老人を無理に 「生かす」 のではなく、「健康寿命」を延ばすものだけに特定したらどうか?(答: 日本が繁栄を目指すのなら、そうすべきだね … ただし政治家は多数の依存老人の票田を失うから 折衷案を要する)。

声5: 老人を医療保険だけで対応すると国は滅びる;だが介護保険でさえ「本当に正しい事をしているのか?」と迷うこともある(答: 長生願望はみんなの願い ... でも長生きすると心身は弱り果てる ... どうすれば良いのかは 「知恵者のあなた」 が工夫すべきだろう)。
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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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