(608) 理想の長寿 と 問題点

   (608) 理想の長寿 と 問題点

理想とは追うものであって、実現するものではない … そりゃそうだろう。

♣ だが、やみくもに理想を追っていると疲れてくる。追い求める目標を 理想の 3 割 程度引き下げたレベルで手打ちをしたらどうだろうか?

♣ ご存知、「元気で長生き」という標語は介護の世界では必須である。そこで「理想の元気」を考えてみよう。子供の頃から 50 歳 の更年期までは誰しもほぼ元気で理想的と思えるが、子孫を確保した後の更年期以後、人の老化は目立ってくる。

♣ 具体的な 「元気」を脅かすモノとして 老眼・ 難聴・ 白髪、歯の残存数 や筋力の低下、骨粗鬆症、更には認知症 などがある。これらは主に高年齢が原因なのであって、もし同じ年齢で比較すれば、元気さは昔の人も今の人も たいして変わってはいない。

♣ 例えば、女性の更年期は 50 歳 で、変動していないし、60 歳 になれば 還暦 を迎え、古希 (70歳) には白髪か禿。個人差はあるが 85歳 の半数弱は昔も今も 認知症 、90 歳代 には 骨頭骨折 が頻発 ―― つまり年齢を指定すれば事件の内容はおよそ類似。つまり「元気さ」は年齢によっておおまかに決まっており、今後とも大幅な変更は 「ナイ」 だろう 1)   。

♣ これに比べて「長生き」のほうはかなり違う。歴史的に見て、平均寿命は昔にさかのぼるほど低く、千年前は 25 歳・ 500 年前は 30歳・ 明治 40歳・ 昭和 50歳 などと記載されているが、これらの数値を額面通りに受けてはいけない。その主な理由は 古い昔には「統計」などなく「推定」があるのみ; 新生児・小児の死亡が過大であって、平均値は不当に低く見積もられている点である。

理想の長寿 と 問題点

♣ 終戦時(昭和 20 年)の平均寿命は 50 歳、そしてその 70 年 後の現在は 87 歳 である。計算上、もしこの傾向が続くなら、この先 70 年 の平均寿命は 120 歳 を越えるハズだが、絶対にそんなことは起こらない。その理由は日本の人口ピラミッドの図で説明される。

♣ 1930 年 (昭和 5 年) には典型的な三角形のピラミッドで(上左の)、人の死は生後すぐに始まった。しかし、75 年 後の 2005 年(平成 17年 上中央の)は提灯型で、「屈折年齢」は 70 歳 … つまり、70 歳 まで人はあまり死んでいない。類似点として、両者とも「最大年齢」は 100 歳 あたりであまり違っていず、昔も今も、最高齢人口は少ない。現在は70 歳 を過ぎてようやく減り始めて 100 歳 近くでゼロ近づく。このような所見は世界の先進国の間で普遍的に見られている 2 )

♣ では 「将来の長寿」 の人口図はどうなるであろうか? 40 年後 2055 年 の予想図を上右ので示す。人々はますます長生きをし「凧(たこ)型」の人口図となるようだ。見れば分かるように、平均寿命は増えているが「100 歳 越え」はそんなに増えていない。40 年 後に「屈折年齢」は 70 歳から 85 歳 へと上昇; つまり 平均寿命は延びるが、85 歳 まで生きれば、その後100 歳 に至るまでの 15 年間 で人々は急いで世を去っている。ここで屈折年齢こそ 15 歳 ほど伸びたが、最大年齢は あまり変わっていないことに注目しよう。

♣ 以上の三つの図で、屈折年齢を越えた後の一年当たりの死亡率を計算すれば、1930 年(1%)、2005 年(3.3%)、2055年 (6.7%)になる。すなわち  今後 長生き時代になれば 85 歳 を越える高齢者は増えるだろうが、いったん 85 歳 の屈折年齢に達すると 毎年 6.7 % の速い勢いで 100 歳 に向かって世を去るのである --つまり、平均寿命は延びるが、最大年齢は頭打ちなのである。

♣ ちなみに、私は全世界 242 国 の人口ピラミッドを総覧してみたが、屈折年齢の最大値は 70 歳 であり、それは福祉先進国の 「日本・ 北欧 4 国・ フランス」 のみであって、他の国々は 60 ~ 0 歳 と低値であった。上記で紹介した 3 枚 の図のうち右図は、日本の 40 年 後を想像して描かれたものである。その図は屈折年齢が 85 歳 として描かれているが、現実の世界 242 ヵ国 の中に 屈折年齢 = 85 歳 なんてピラミッドは存在していなかった(下図参照 2 ) 。 つまり、スエーデンでさえ 「屈折年齢 = 70歳」 程度のピラミッドなのである ... それこそが人類の得られる「屈折年齢の最大値」なのではないだろうか? (各図の下部の数値は 屈折年齢)。

理想の長寿と問題点
♣ 人は 「元気で長生き」を求めるし、今年の社会風潮は 「老人の定義」 を現在の 65 歳 から 75 歳 へ昇格したいように見える 3) 。その際の問題点は、仕事の定年も、特養の入所資格も、更には年金の支払い始めまで 「65 歳 → 75 歳」に後延ばしになることだ。でも、それで良いのではないか。だって、各年齢ごとの健康状況は変わっていない ―― 更年期・ 還暦・ 認知症 さらに骨頭骨折など 年齢に関しては何も変わっていない ! 老齢状態の臨界を決めているのは もはや 「社会環境ではなく、ヒトの遺伝子」 なのである。

100 歳 の人の健康状態を思い浮かべてみよ--視力・聴力・残歯の数・ 歩行状態・ 認知度などを知れば、肉体は もはや過分に使い切られているではないか。むしろ、理想とされる100 歳 の 3 割引き( = 「屈折年齢 70 歳」)で、日本や スエーデンなどの最適状態を 「満足レベル」 とみなしたら如何なものだろうか? つまり、日本では すでに 「理想的な長寿」 が達成された状態なのだから、あとの問題点は 加齢ではなく 「心の幸せ」 を求める事だけに専念すれば良いのだろう。このことは「介護保険の運営」に重要な参考となると思われる。1912字

要約: 人の元気さを年齢ごとに追ってみると、年齢を指定すれば元気さはほとんど変わっていない。 ところが、長生きの年月はほぼ 2 倍 に増え、「屈折年齢」 2 ) は 0 歳 から 70 歳 までに上昇した。 人の死亡年齢は 100 歳 越えあたりで一服、つまり人は 70 歳 までは元気に過ごせ、その後は死亡速度 年間 3.3 % で穏やかに世を去っている。 我々は今、理想の長寿形態に達していると思われる。

参考: 1) 新谷:「70 歳 の壁」;福祉の安全管理、 # 573, 2016. 2) 新谷:「屈折年齢と福祉」、ibido #577, 2016. 3) 新谷:「新老人は 75 歳から」;ibido # 609, 2017.  PopulationPyramid, net

職員の声

声1: みんなが長生きしたい気持ちは分かるが、でもそれを叶えるって大変なことだよ(答: 老人に尋ねると “長生きしたい” とはおっしゃらない … それを求めるのはご家族であって、介護保険の開始以来の安直な現象なのである)。

声2: 本文の図 = 40 年後 のピラミッドがこんなに老人過剰を示すのなら、世の中のバランスはすべて崩れ、若者が苦しむだけだ(答: 老人は認知症に罹っているから、若者の苦しみなどは理解できない … それの是正は世論に訴える道しかないだろう)。

声3: 本文では、日本の人口現状を “理想的” と判断しているが、老人の長い病気(依存)期間をも含めてそう言うのか?(答: Yes ! 世界の福祉国家はすべて、老人が ポックリ 逝く無策を回避し、ジワリジワリ 長患いする人道を推奨している)。

声4: ヒトは長生きするようになったが、100 歳 を越える人たちはナゼ少ないのか(答: 人の長寿化の実態は誤解されている … 80 歳 の人は 容易に 90 歳 になれるが、100 歳 の人は 110 歳 にはなれない ! ヒトの遺伝子寿命は 100 歳余 で頭打ちになるのだ)。

図の出典:
 1. http://32479392.at.webry.info/201504/article_9.htm
2. http://fujihiropearl.blog135.fc2.com/blog-entry-68


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