(623 ) 釦 の 掛 け 違 い

(623) 釦 の 掛 け 違 い

カーディガンやワイシャツの釦を掛けている時、最後になって釦の掛け違いに気付くことがある―― 最初からのやり直ししかない。

♣ しかし、相手のある場合のやり直しは、一呼吸を入れないと面子に関わるだろう。この場合、対処法を一つでも間違えれば険悪な結果に陥ることもある。たとえば、「言った・ 言っていない」 の水掛け論、「頼んだ・ 頼まれていない」 などの些細なことから、会社の業務に差し障る重大な釦の掛け違いも有り得ることだ。

♣ この際、一番 目立つことは 「釦の掛け違いをした 最初の時には一切 “悪意” はなかった」 ハズである … それだけに、もしそれを “悪意があった” と解釈されれば 憤然とした対立が起こり、物事はややこしくなる。誰でもこんな現象が起こり得ることを知っているのに、人はその場に遭遇すると案外に ヘマ をやらかす。パールでは 「安全管理」 を徹底しているので、釦のかけ違いはめったに起こらないが、それでも 「善意」 の混乱が時に起こる。近年 起こった そんな三つの例をお示ししよう 。

① H.S.様86歳男性、アルツハイマー型認知症、要介護 3 。歩行障害と会話能力の低下があり、長女と二人暮し。ある日、デイサービスから帰宅すると脇腹に 青あざ が数か所あったが、何の報告もない。以前にも同様なことがあり、訳を聞いたが情報はなく、ケアマネにクレームを提出した。

♣ 問題は医師の診断まで未解決となったが、長女の勘で 何らかの虐待、 偶然の青あざ のいずれかをはっきりさせたい訳だ。さて、関係者の報告を確認して問題点を洗い出さねばならないが、その際、真実が分かりさえすれば良いのではない。釦 の掛け違いが無いように十分な配慮が望まれるのである。あなたならどうするか?
釦の掛け違い

② F.S.様、91歳女性、脳血管性認知症、要介護 4。早朝に起き出して、人のいない食堂へまぎれこみ、そこで転倒、鼻出血状態 を発見される。その通報を受けたご家族は、憤然として するどい一声:― “ナゼこれを防げなかったのですか?” これを受けて、 職員は “おねぎらい” の言葉を先にかけるべきだったのに、「徘徊・転倒」 の経過を説明したところ、ご家族は烈火のように激怒: “私は街に出て このことを言いふらします” とおっしゃる。

♣ この場合も 「釦の掛け違い」 があった――まず真っ先に 「ご心配でございましょう」 から報告を始めるべきだった。ところがご家族は鼻血の母親を見て気が転倒しており、職員を叱責する強い言葉しかなかった。この職員は ここで 「釦の掛け違い」 をしていた訳であり、自分の迂闊(うかつ)さに気が付くべきだった。相手の気持ちを先に汲み取る余裕が望まれていたのである。

③ A.B.様、88歳女性、アルツハイマー、要介護3。デイサービスで午後を過ごされた後、帰宅の時間がやってきた。足元が不自由なので職員が彼女の腕を支え廊下を案内していたが、本人がその腕を払いのけて自立歩行に移った直後 ドスンと転倒。現場に居なかったデイの上司がすっ飛んでやってきて状況を観察。ところが、上司はご家族に違った報告をした:―― 独り歩きをしていて、ドスンと音がしたので駆けつけてみると、転倒していた、と。

♣ 上司は自分で見ていなかったことを報告したのだった。その後、病院受診で大腿骨頭骨折と診断。責任問題が浮上した時、ご家族は 「足が悪い母を独り歩きさせた施設側の責任だ」 と主張して 200 万円 の賠償金を取得した。上司は後になって説明のし直しをしたけれど、後からの訂正を家族は聞き入れなかった … 相手のある釦を掛け間違えると、後々まで身動きができなかった例である。

♣ 苦情やクレームのほとんどは家族から寄せられるが、私たちは 即断せず、感情的にならず、賢明に対処する必要がある 。苦情には迅速に対応し、相手の気持ちを受け止めることが一番大切だ。揉め事が起こったら、自分サイドについては次の 三つの基本姿勢 をしっかり確認しよう … 。

♣ それは 「 正確な事態の把握 苦情の要因を理解、 相手の気持ちを思いやる」である。そうすれば、間違った釦を掛けることもなくなるだろう。今日述べた 3 症例 は 皆 正確な事態の進行が把握されていなかったし、事件というものは多かれ少なかれ そういうものなのだ。相手も自分も「身贔屓」 (みびいき)の情報だけで対応すれば、「釦の掛け違い」のトラブルに発展するだけである。

♣ 声高に責任を追及する家族もあるが、もし相手の立場に立てば それが正しいのかもしれない。でも、すぐに 「ごめんなさい ! 」 と謝るのは良くない … 自分の「非」を認めてしまうと、上記の 「3 例目」 のように、後に引けなくなるからだ。まずまずは 「大変ですね、困りました」 などの声を掛け、相手方の気持ちをねぎらう言葉を掛ける 心の余裕を持ちたいものである。

要約: 人へのサービスは善意のもとで行われているハズであるが、時に 「釦の掛け違い」 が発生する。 そのような 3 例 を提示し、どこで釦の掛け違いがあったか、対応はどうすべきか、を考えた。 “黄金の三つの心得” は「事態の把握要因を理解相手の気持ち」 であろう。

参考:  新谷」「六つのべからず」; 福祉における安全管理 # 50, 2010.

職員の声

声1 : 強い口調で怒鳴りこまれると カッ となって言い返すことがあるが、やはり “一呼吸おいて” 相手の気持ちを理解すべきだなあ (答: “仏の顔も三度” と言われているから、せめて一度目から火花を散らさない方がいいだろう)。

声2 : ケアにはミスが付きまとう事もあるが、釦の掛け間違いだけはしないように心掛けたい (答: 親の体の事となると つい過敏になって キツイ言葉 になる人もあるが、人ってそういうもんだよ … ならぬ 堪忍 (かんにん)、するが堪忍。)。

声3: 相手の気持ちになれと言われても、慌てている時にはそれが出来ず、その上 すぐ謝ってはいけないとなると、もうどうしたら良いのか迷ってしまう(答: みんな迷うよ … だから 「黄金の心得」 があるんだ―― 事態の把握、 苦情の要因、相手 の気持ち)。

声4: たとえ釦を掛け違えても、初動を間違えしないように 「誠実な対応」 が大事(答: 善意の誤解はお互いに有り得ること … しかし 嘘やゴマカシ さえなければ、必ず和解の道は開かれる)。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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