(632) 記 憶 に ご ざ い ま せ ん

(632) 記 憶 に ご ざ い ま せ ん

「記憶 と ボケ」 の話をしよう。

♣ 「記憶」 とは 経験した物事を大脳の中に留め、忘れずに覚えていること。詳しくは、記憶 = 「記銘(きめい) + 保持 + 再生」 の 3 要素 より成る。みんな “受験” の前にしっかり勉強したことを覚えているだろう … つまり、まず記憶のためには 「覚え込む」 必要があり(記銘)、これなしで記憶は成り立たない。

♣ 次に その記憶をある期間 保持せねばならず、これはなかなか困難を伴い、受験勉強の記憶でさえ一ヶ月程度で記銘したものをあらかた保持できなくなるだろう。

♣ 記銘が “保持されたこと” を証明するのが 再生のプロセスであり、キチンと再生できなければ、受験の場合なら「知っていても 知らなかった(無知) 」と同等であり、悔しくも 「記憶にございません」 となる。そこで、あなたの記憶がどのように “頼りになるか” 、それを 「気体・液体・個体」 という観点で眺めて見よう。

まず「気体の記憶」。私たちが「針の穴」に糸を通す時、「めくら滅法」ではなく、糸先を穴の横や上に当てているうちに、糸は通るだろう。このような糸通しは「試行錯誤」と呼ばれ、糸先の記憶は 1 ~ 2 秒 くらい有効 だ。これを「瞬時記憶」と呼び、生涯を通じて役立つ記憶の役目である。ただし、この記憶は「秒」の経過で跡形もなく消えて行く。その理由: 神経細胞の中を通過する瞬時記憶は「形」として残らないから。だから「気体の記憶」とも呼ぶのが適当で、気体のように フット消え去る。

記憶にございません

次に「液体の記憶」。私たちは 今日のお昼の「おかず」は覚えているが、一週前の「おかず」は思い出せないのが普通だ。その記憶の守備範囲は「数時間~数日」程度で、これを「短期記憶」と呼ぶ。記憶は まず脳の中の「海馬」 (かいば)と言う」組織(図 1)で「酵素」が働き、その情報の痕跡が残るからだ、とされる。

♣ この短期記憶は私たちが一晩寝ているあいだに、かなりの分量が消し去られる。その理由: 海馬の記憶容量は小さいので、その分量のメモリーを消しておかないと、次の日の情報操作に差し支えるから。だから、「液体の記憶」とも言われる:液体だから濡れて残ったけれど、やがて蒸発して消え去る。人間はこの「短期記憶」を文字化することにより「お金をいくら借りた、いや借りていない」などのトラブルを回避し、他の動物にはできない「文化・文明」の成功を収めることが出来た。

最後に「固体の記憶」。もし、ある情報や事件が非常に強力であったり、繰り返されたりすれば、その記憶は海馬から大脳へ移ってその中で 遺伝子を動員し、「記憶蛋白」を形成する。これは、蒸発する気体や流れ去る液体と違って そこに留まる物質であり、脳の中にガッチリ保存され、記憶の礎となる。その理由: 記憶蛋白がそこにあるなら、いつでも需要に応じて 記憶を再生することができる … つまり、記憶蛋白は「個体の記憶」と表現することができ、同時に「長期記憶」でもある。人間の 脳の働きはその「長期記憶の正確さ」にある。

ボケとは何? 「ボケ」とは頭の回転が遅くなることであるが、いろんなボケがある―― 寝ボケ・時差ボケ・正月ボケ・平和ボケ・訊問ボケ・年寄りボケなど。つまり、年寄りボケ以外は “健全な人” にも起こり得ることが分かり、「年寄りボケ」だけは “真正のボケ” なのである。

♣ 人の脳には約 150 億個 の記憶細胞があり、神経細胞は 成人後 毎日 10 万個 ほど減る と言われ 1, 2 ) 、歳とともに、新規の記憶が苦手となるのは、このためである。毎日 10 万個 の減少と聞けば、心細い限りであるが、記憶の細胞数は 150 億個 だから 比べれば 余裕がある !

♣ ところが、認知症では 脳細胞の減少度が激しくて毎日普通の何倍もの数が減り、「時・所・人」の認識がこの順に薄れ(= 中核症状)、加えて「周辺症状」も現れる … この状態が「認知症のボケ」と言われるものである。神経細胞は齢とともに失われて行くが、減少するものは体細胞数、歯の数・毛髪・皮膚・視力・聴力などの全身の何処にでも起こっている。ただ認知症のボケは精神の進行性ボケであるから受け入れ辛いところがあるのだろう 3 )

♣ ボケの他に 「トボケ」 というのがある。訊問などで報じられる「記憶にございません」は (ア) 本当に知らない(記銘・保持・再生、いずれもない)のと (イ) 再生だけを保身のため意識的に操作する、の二つがあり、(ア)と(イ)両方をあわせて「トボケる」のであろう。

♣ まったく人間の記憶の表明とは複雑・怪奇なものと言える。1865字  

要約   記憶は 3 成分 = 「記銘・保持・再生」 から成り、再生できない場合には記憶そのものが怪しくなる。 記憶の保持時間を 3っ に分けると 気体(秒)・液体(数時間~数日)・個体(終生)の成分があり、それぞれ担当の脳細胞が異なる。 「トボケル」とは、心理的な抑制が働き、記憶の成分のうち「再生」を人為的に操作している状態ではないだろうか。

参考:  1) 新谷:「脳細胞のひみつ」、福祉における安全管理 # 88 :2010.  2) 新谷: 「鍛(きた)えるって?」、ibid # 334, 2012. 3)  新谷: 「ボケ勝ち?」; ibid # 334 , 2012. 4 ) 新谷:「痴呆以前」; ibid # 2, 2010.

職員の声

声1: 記憶は 気体→ 液体→ 固体として脳に刻み込まれる … 大事な記憶をこの順番で貯蔵して行くように心掛けたい(答: 心理的に “前向き” であれば この流れは確実となるだろう)。

声2: 国会でトボける輩が多いが、本人の過去の事情からして答弁する内容を “記銘・保持しているに違いない、再生のプロセスでインチキしている”と 国民は思っている(答: そうかも知れないが、上手なトボケは法律で罰せられないそうだ)。

声3: 認知症の方、近日の事はまるで覚えていないのに、昔の歌を良く覚えて歌えるのはナゼ?(答: 正気だった昔に覚えたこと、すなわち 「固体の長期記憶」 だから再生される記憶は鮮明なのだ)。

声4: 最近 私自身の 液体・固体記憶 が定かでなくなった気がする … 脳の疲労と記憶とは関係あるか?(答: ストレスから来る記憶力の低下は明らかだ … 姿勢が “後ろ向き” になるから覚え込む気力(記銘力)に乏しく、保持するスタミナに欠け、再生する気迫もなくなる … 若年性認知症と間違えられることもあると言う)。

プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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