(638) 筋 ト レ と ル ー の 法 則

(638) 筋 ト レ と ル ー の 法 則

  今日は老人介護で花形の「筋トレ」を勉強しよう。

努力は成功の鍵である …この標語は主に青少年に向かって告げられるものであって、何の間違いもない。だが努力とは誰がするものなのか? 成功を成し遂げた人にも、更に努力することが奨められるのか?具体的に語れば、15 歳 と 80 歳 に 果たして同じ標語が通用するだろうか? 近年ではその点を強く反省する風潮が強まった。

♣ トレーニングと言えばすぐ思いつくのが「脳と筋肉」であり、特に高齢者の「脳トレ・筋トレ」は花盛りだ。でも、思えば不思議なこと … トレーニングが健康維持の役立つのなら、「肺トレ・心トレ・肝トレ・腎トレ… 」、全身にいくらでもあるではないか? ナゼ脳と筋肉だけが選ばれるのか?

♣ それは 「気持ちの片寄り」 にある。だって肝臓や腎臓はトレーニングの仕様がないではないか。他方、「脳」と「筋」は子供のころから努力を集中してきた経緯がある ! 脳と筋は自己責任で鍛錬すべし、という教育が住み着いているのである。

♣ 筋肉には 「随意筋」 と 「不随意筋」 がある。「筋トレ」の「筋」は、もちろん 大脳が支配する「随意筋のトレーニング」のことだ。「随意」とは 自分の意思で「随意に」動かすことができる、という意味である。

♣ 「不随意筋」 は血管・胃腸・胆嚢・膀胱などにくっついている筋肉であり、これらは “自律神経” が管理している。だから、随意筋の「筋トレ」は意志の力によって可能であるが、不随意筋の「筋トレ」は出来ない。

♣ さて、随意筋の筋肉は運動訓練により、肥大してくる。すると外見はプロ選手のように「筋肉マン」の姿を呈する。ここで混乱してはいけない … 「肥大」と「成長」は はっきり違う。たとえば、10 歳 の子供が 20 歳 の大人になるのは「成長」であって「肥大」ではない。「成長」は細胞数の増加を伴うが、「肥大」は細胞の数は不変で 一個一個の細胞が太くなった状態である。

脳トレとルーの法則

筋肉の肥大の場合、筋細胞は太くなるが、筋細胞数は増えず、それに栄養を与える血管も増えない、 筋細胞の一本一本には 収縮命令を伝える “随意神経” がくっついているが、それも増えない( -- 左上は神経細胞、神経を通じて右下の筋繊維につながっている)。 肥大した筋肉も、鍛錬を怠ると、やがて元の状態に戻る。「筋トレ」と聞けば、「筋肉」しか連想しないだろうが、筋肉は自分では動けない。実は、筋肉を動かすのは「神経」である。解剖学的には、一つの神経(前角細胞)がいくつかの筋線維とペアになって構成されている()。

♣ たとえでいえば、神経は「司令官」、筋肉は「兵隊」である; 訓練によって兵隊が強くなっても、司令官がお休みすれば、良い「いくさ」はできない。つまり「筋トレ」とは、司令官(神経)と兵隊(筋線維)の両方の機能を向上させることが必要なのである。

♣ ところが、人間の神経細胞は年齢に伴って減ってくる(成人後 誰でも脳細胞は毎日10 万個 ずつ減る)。すると筋線維は「司令官」を失った兵隊のように、不活性または線維化して、役立たずになる。これが老人の「筋肉と神経の関係」である。つまり、訓練は「司令官と兵隊」の両方に行うべきであり、「受身で」または他人の希望によって行う場合の「筋トレ」は期待通りの結果が出にくくなる。

♣ このことはピアニストを念頭 におくと理解できるだろう。プロなら「毎日数時間」の練習を、本人の意思で続けなければ「神経と筋肉の技」は、その維持はおろか、進歩などはとてもおぼつかない。一回休めば 一回分だけ後戻りする。だから運動家は (音楽家も) 試合の直前まで 本気で訓練を続けて、神経と筋肉の最高機能を保つ。

♣ また、一般にトレーニングを行う場合、ルー(Roux)の三法則 を忘れてはならない。それは 過剰な運動は筋繊維を損傷する、 運動をしないと筋は衰える、 ほどほどの運動が筋収縮にとって一番有効。まかり間違っても、「運動すれば筋肉が成長する」と勘違いしてはいけない。使い過ぎた筋肉の治療は「安静」であって、薬ではない。

♣ 同じ筋肉でも「自律神経の支配を受ける不随意筋(胃腸・血管など) 」は「筋トレ」することができない。その他 トレーニングになじまない臓器として 腎臓・脾臓・リンパ腺 など多数がある。体の大部分は「健康を維持するだけ」の注意がベストなのであって、過剰に訓練すれば「ルーの ①」に陥るのが関の山である。

♣ 私たちは有限の可能性を持って生まれている。激しく使うと 早く寿命が尽きてしまう。「精神主義」は若い人の訓練には役立つが、大人になってからは、「ルーの法則」こそが条理にかなった「筋トレと神経の関係」なのである。

♣ 老人の筋トレを行うに当たって、この知識を役立てて欲しい。1817字

要約 :  筋トレによって筋肉は「肥大」するが、それは「成長」ではない。 筋肉の収縮は「脳神経と筋繊維」が一体となって行われるから、脳トレも必須である。 人は歳とともに神経細胞を失っていくから、筋細胞も共に失われる――よって「ルーの法則」に従った訓練が望まれる。 (参考 : 25 歳 の筋肉は 70 歳 で半分に、100 歳 で 1/4 に減っていく ... これは健康な老化であって、病気ではない ! )。

参考: * 新谷:「ルー(Roux)と智恵」; 福祉における安全管理 # 45, 2010.

職員の声

声1: 脳細胞が毎日 10 万個 ずつ減って行くのは悔しいが、脳トレをすればもっと減るのか?(答: ルーの法則で、筋肉の場合は “やり過ぎ” で明らかに細胞は破壊されるが、脳の場合にそのような観察は報告されていない)。

声2: 筋トレと同時に脳トレも行えば効果的か?(答: ピアノの例 … お母さんが娘の傍に付いて無理やりピアノの練習をさせるのでは ピアノは上達しない、あくまで本人が筋トレに参加する気迫が大事なのである)。

声3: 中年男の腹が出っ張るのは食べ過ぎが原因か?ルーの法則の何番目?(答: アメリカ男は日本よりはるかに腹出っ張りだ … 自然の動物には決して見られない“食べ過ぎ”であり、ルーの 2 番(運動不足)。

声4: 「筋トレ」という言葉は 「鍛錬する」 と言う匂いがする(答: 鍛錬とは “鉄は熱いうちに打て” に通じ、若者をしごくことである … 年寄りは叩いても熱くはならず、ヘたるのみ)。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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