(642) 手 を 焼 く お 年 寄 り の 不 眠 症

  (642) 手 を 焼 く お 年 寄 り の 不 眠 症

  不眠症に悩む人は少なくなく、その出現率は一般人口の約 20 % と言われている。

♣ そのタイプは 大きく 三つ に分けられる: 寝つきの悪い入眠障害眠りの浅い熟眠障害朝早く目が覚めて しまう早朝覚醒である。今日は お年寄りの一症例を話題にして、精神科・ O先生 に解説をお願いした。

♣ {質問}:在宅の症例 K様(75 歳 女性 多発性脳梗塞 認知症 不眠症 要介護 1)は、夕方になると精神的に不安定となり、「襲われる」 とつぶやき、襖(ふすま)にガムテープを貼りつけ、眠剤を使って寝ます。このような「せん妄」はナゼ 夕方~夜 になると出るのでしょうか?

♣ {} O 先生: 高齢者の不眠は、いろんな問題を起こす。まず、背景に何もない「神経性不眠」を考える。たとえば、ある家電会社の有名な創業者 M.K. 氏は、若い頃から 94 歳 で亡くなる前日まで睡眠剤を使っていた、という有名な逸話がある。

♣ これは、昼間の覚醒レベルが高く、過覚醒(かかくせい)になっていたからの可能性が高い。普通の人なら深夜近くになると、覚醒レベルは自然に低下するが、過覚醒の人は レベルが なかなか睡眠レベルまで下がらないから、睡眠導入剤を用いて、覚醒レベルを下げてあげる。

手を焼く年寄りの不眠症

♣ 若者でも寝られない時には「羊が 5 匹 … 羊が 6 匹 … 」と唱えれば寝られると思うが、羊が 200 匹 くらいではなかなか効果が出ない(、睡眠= sleep、羊= sheepの語呂合わせ)。

♣ お年寄りの場合、昼間 居眠りをし、夜の睡眠が浅い方が多く、言ってみれば 睡眠は足りているけれど、悩みだけは人並みの場合もある。その上、午後 7 時、8 時 に寝床についてしまえば、明け方には目が覚めるのは やむを得ないだろう。こんな例なら、時間配分のお世話をすればよい。たとえ不眠症で悩む人であっても、電車やバスの中・ お話会で照明が暗くなるとスヤスヤ寝る人も少なくなく、脳の病気とは言えない。

♣ 「うつ病や統合失調」であれば、睡眠障害は「脳の病気の一つの症状」でもある。一般内科疾患で「痛みや苦しみ」があれば、不眠の原因になり得るだろう。

♣ ご紹介の症例は脳血管性の認知症の初期と見られる。「せん妄」とは 「ありもしない状況を ‘ある’ と認識し、それに固執して驚き悩む状態であり、しかも、あとになって ‘覚えていない’ 」 と言うのだ。健康な人でも手術後などで一過性に見られることもあるが、ほとんどは、認知症 ・ 脳卒中後・ 代謝障害・ アルコール依存症である。

♣ 老人で これが見られたら、まず ‘認知症が始まったか?’ と疑う。脳機能の衰えた老人は、子供と同じで、夕方になると早く疲れて短気になり、夜になると孤独になる。「せん妄」が夕~夜に多い理由はここにある。認知症の周辺症状 1 ) とは 「何でも有り ! 」だから、「襖にガムテープを貼る …」について 個別の説明をつけても何の意味はない—— その人の性格~環境によるものであり、 「そうですか」と聞き置くだけでよい。

♣ 原因は何であれ、最近は副作用の少ない睡眠剤が利用できるので、精神科医に相談して睡眠薬を用いるのが良い。これが本人と家族にとって 一番負担が少ない方法である。

要約:  不眠症には三つのタイプがあることを述べた。 昼間 コトンと居眠りするが、夜の不眠症がある人は「過覚醒」 (本文)の可能性があるから、睡眠導入剤を用いて覚醒レベルを下げてあげる。 お年よりでせん妄(本文)のある方なら、「認知症・ 脳卒中後・ 代謝障害・ア ルコール依存症」を疑う。 相談は、経験症例が豊富なので、精神科のドクターが最適である。

職員の声 

声1: 不眠症が人口の 2 割 にもみられるとは驚いた(答: 時計・電燈やテレビのなかった昔には、不眠症もなかったーーだって夜には夜の仕事 (= 睡眠) しかなかったし、夕暮れからあくる朝まで半日もの間、ローソクをつけて「眠れない」 と嘆くことは大変に贅沢なことであった。

声2: 当のお年寄りは 不眠症で悩んでいないのに、家族の都合で睡眠薬を用いるのはいけないことではないか?(答:QOL (生活の質)は、当のお年寄りと周辺の人と、両方にとって大事だ。寝ないで問題を起こす老人の “不寝番” の役を 家族が勤め続けて良い訳はないだろう)2 )

声3: 内科医よりも 精神科医のほうが相談に適しているとは初耳だった(答: 不眠症は “長丁場の状態” である; いろんな症例・ さまざまな薬の副作用 を知っている精神科医ほど適当な相談相手はない)。

声4: 「過覚醒(かかくせい) 」って何だろう?(答: 覚醒は ‘目覚めている’ 状態であって、私たちの普通の昼間の状態だ。過覚醒 は、精神的緊張(覚醒水準)が異常に亢進した状態であり、ストレスに直面した時と同じ心身状態をもたらす。この結果、ストレスが去ったハズの後の夜でさえ、不安・ 不眠 が残る。 国の主相・ 軍事独裁者・ 大会社社長・ 人気アイドル などは 夜でもなかなか気が抜けるものではない)。

参考: 1 ) 新谷:「認知症は治るか?」; 福祉における安全管理 #603, 2017. 2 )  新谷:「誰のQOLか?」; ibid # 643, 2017.
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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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