( 641) 周 辺 症 状 の 怪 ?

(641) 周 辺 症 状 の 怪 ?

 ケアの現場では 日々ご利用者の「周辺症状」に悩まされる。前回には 「中核症状」 について学んだが、今回は 「周辺症状」 を理解しよう。ところで「周辺」て何の事だ?

♣ 認知症の症状を理解する上で、人の脳を三つの部分に分けて考える (図 1)。第一の部分は、人間の人間たる理由の 「大脳」 であり、では 「大脳新皮質」 と呼ぶ。大脳には約 150 億個 の神経細胞があり、「知恵」の活動を司っている。

周辺症状の怪?

♣ 人の神経細胞は毎日 10 万個 ずつ減って行くと言われるが、100 年 生きていてもその減り分はせいぜい 36 億個 … この程度であれば大脳の機能はまだ保たれている。しかし認知症の場合、その細胞の減り分が 2 倍・ 3 倍 と膨らむので、当然のことながら大脳の機能、つまり 「知恵」 が欠乏し、蛙の脳に似てくるのだ。

♣ その症状が「中核症状」であり、それは キケソハジ であった(つまり記憶・ 見当識・ 喪失・ 判断・ 実行の障害)。脳細胞の数は、いったん失われれば “補充・ 再生” はされない … よって中核症状は進行あるのみ、治る見込みは薄い。

♣ 脳の第二の重要な部分は「大脳辺縁系(へんえんけい)であり、では脳の中央部分を示す。ここは「本能」を司り、人が生きていく上で重要な「野性」活動の源である。つまり、食欲・ 性欲・ 意欲などの本能、喜怒哀楽・ 睡眠・ 夢などの情緒を支配する。「周辺症状」とは 辺縁系が持つ症状のことである。

♣ 人間の行動は知恵だけでは割り切れず、大脳新皮質の下に、野生的で本能世界の大脳辺縁系がうごめいており、まともな人でも、その本能は「隙(すき)あらば」表に出ようとする。その本能の振る舞いを調節するのが「大脳新皮質」の役目なのだ。認知症では大脳新皮質の細胞が減少しているので本能の交通整理がうまくできず、これが「周辺症状」として表れてくる。短く言えば、認知症は「本能的生命」に近寄って行く。

♣ 本能は、動物個体が、学習や経験によらず生まれつきに持つ能力であり(帰巣本能・生殖本能・防御本能など)、当然 動物のように「攻撃と守備」に傾く。大脳皮質細胞の欠落は認知症の初期には軽度、進行すれば高度となり、したがって周辺症状もそれに連れて重くなる。また周辺症状は本人の「性格や環境」によって影響を受け、「奇々怪々」 (ききかいかい)の様相を帯びてくる。

♣ 認知症で介護者が一番理解しなければならないのは、 目の前で観察されるご利用者の周辺症状をどう解釈するか? それへ適切に対応する方法は何か?を直感することである。もし「直感」できなければ、単に「困る」だけであり、対応方法が分からなければ 「事態が悪化」するだけだろう。

♣ 今日の勉強は「周辺系症状」を理解することであり、図 2 に従って逐一 学んで行く―― 頂点から反時計方向へ読む。

―― 周辺症状の怪 ――

1. 抑うつ: 意欲低下、興味・ 関心の低下
2. 妄想: 嫁に物盗られ妄想、浮気され妄想......被害妄想(統合失調)や罪業妄想(うつ)ではない
3. 幻覚: 幻視・ 幻聴、せん妄
4. 攻撃: 暴力、暴言、介護拒否
5. 徘徊: 帰宅願望、帰巣本能、見当識妄想
6. 不穏: 多弁、多動、転倒、夕暮れ症候群
7. 焦燥: (しょうそう)、感情失禁、興奮
8. 脱抑制: 頻回コール、多愁訴、性的脱抑制
9. 拒食: 食むら、異食、隣食、過食、手づかみ食
10. 喚声: (かんせい)、叫ぶ、大声を出す
11. 常同: 同じ話・ 行為の繰り返し
12. 無気力: 多幸、無言、孤立、笑わない
13. 罵倒: (ばとう)、ののしり わめく
14. 啼泣 : (ていきゅう)、 泣き声で叫ぶ
15. 追跡:人の後をつけて歩く
16. 不潔: 弄便(ろうべん)、失禁
17. 不安: 自信喪失、対象のない怖れ
18. 不眠: 入眠障害、中途覚醒、昼夜逆転

―― 注意 ! 知恵症状本能症状 は相互に影響し合っている ! ――

周辺症状の怪?

♣ 1973 年(昭和 48 年)に「恍惚(こうこつ)の人」を出版した有吉佐和子、その主人公・ 立花繁造の「 奇々怪々」 の症状はもっぱら上記の 1 ~ 18 であった。今でこそ「周辺症状」と呼んで社会的に許容されているが、40 年前 には まだ「認知症」というハイカラな言葉はなく、当時 「年寄りボケ」 と呼んで怖れおののいた気持ちが分かるだろう。

♣ ここで注意 ! 「周辺症状」は認知症すべての人に存在するものではない。また一度あっても、治療・ 介護になじんで寛解に導かれる … つまりあなたの介護力が良く示される 試金石 なのである。ご自分のケースが上記の「周辺症状の怪: 1 ~ 18」のどれに該当するかを確認してみて下さい。

要約:   認知症の症状は、脳の構造から「大脳新皮質」( = “知恵”の障害: 中核症状)と「大脳辺縁系」( = “本能”の障害: 周辺症状)に分けられる。 周辺症状の 代表 18 種類 について説明・ 検討した。 介護の実務において、“知恵の障害” は治らないが、“本能の障害” は良き介護によって寛解して行く性質がある。

参考:  新谷: 「中核症状は蛙に似る?」; 福祉における安全管理 # 640, 2017.

職員の声

声1: 認知症の症状は人ごとに皆異なると感じる(答: 中核症状{知恵}は脳細胞の減少を反映するのであまり違わないが、周辺症状{本能}はそもそも人ごとに違う上に、本人の「性格・環境」に強く影響されるので、著しくバライエティに富む)。

声2: 認知症で食事トラブルが起こるのは中核症状ではないのか?(答: 食事は生命の基礎だから その障害は “中核” のように思えるが、実は “生命の終焉" (しゅうえん)を予告するものだ … よって欧米では尊厳を保つために「食事介助」をしない)。

声3: 今でこそ上記の 18 の諸症状は「周辺症状」(本能)として説明されるけれど、40 年まえまでは「鬼の症状」として怖れられていた (答: だから家族は認知症の人を家の中に閉じ込め隠していたのだ)。

声4: 僕もいずれ認知症になり、知恵が減って本能が表に出る事態になるのか? … 僕は腹をくくって逝きたい(答: 認知症は 85 歳人口の約半数に及ぶが、なにも腹をくくらなくても 親切な神様は老人をボケさせてしまい、「死」の恐怖から救って下さる)。
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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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