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(639) ゴ ミ 御 殿 と 認 知 症

(639) ゴ ミ 御 殿 と 認 知 症

  在宅介護で、切っても切り離せない問題が「ゴミ御殿」である。

♣ ここで言う「ゴミ御殿」は、主に独り暮らしの高齢者が 自室の生活空間に処理しきれない物品を貯め込み、ご自身と介護者の 衛生上の問題が発生している状況を指す。ゴミ御殿のトラブルは、2000 年に介護保険が施行される前から よく知られていた。しかし介護保険が機能し始め 2000 年以後、この問題は深刻の度合いを深めた。

♣ なぜって、善意による強権で「ゴミ片付け」をすることは可能ではあるが 一方でご利用者からの反発が根深いし、他方ご利用者の希望(人権)を優先すると 衛生問題が深刻化し、いずれにせよ 問題は解決しないからだ。

♣ 一つの例をあげる: -デイ・サービス ご利用の A 氏(85 歳男性、老人性認知症 要支援 1)は独居の方で、家の中は 足の踏み場もないほどゴミだらけだ(= いわゆるゴミ御殿) 。認知症の方でも、ゴミをゴミと認知させ、捨てて頂く方法はあるだろうか?今回も 精神科の O先生 のご意見を頂いた。

ゴミ御殿と認知症

♣ <O 先生 > それは理論的に「不可能だ」… なぜなら彼は「短期記憶」を喪失しているからである。前にも お話ししたように、「情報」は感覚器(目や耳など)から人の脳に入り、その ど真ん中にある「海馬」 (かいば))という場所に接触する。

♣ 記憶は海馬の中に保存されるが、そこは “一時預かり所” に過ぎず、預かり時間は 数分から せいぜい一日程度。このあと、正常な人では 海馬の中に保存されている記憶を「前頭葉」 (ぜんとうよう) が操作して、 脳の「側頭葉」 (そくとうよう)等へ移し、そこで長く保存される —— 記憶保存の正体は これほど簡単ではなく、まだ不明な点も多い。

♣ 認知症では、記憶の第一関門である「海馬」の機能が衰える。つまり、記憶が脳に入っても、海馬で跳ね返されてしまう。このため、短期記憶が成り立たない。したがって、記憶は脳に定着できない。それゆえ、自宅での整理・整頓のような高度の作業は不可能、もしできたとすれば 「奇跡」 と言うべきだ。

♣ 私自身のことで言うならば、漫画 「鉄腕アトム」 は絶対に捨てられない。女性ならば、たいてい「古いけれど捨てられない服」が溜まってで困っている。ご利用者で見れば 「鼻をかんだテイッシユ一枚」 でさえ大事にとって置く ~~ こんな心理背景があるので「良い習慣づけ」は なかなか困難である。

♣ また、ある程度、モノを溜め込む習慣は普通の人でも見られる——あなたの机の引き出しの中はどうだろう? もし「この本、捨ててもいいですか?」と尋ねられれば、大抵の人はムッとするだろう。

♣ 本人が自発的に処分するのが「波風立たず」一番よいけれど、これが認知症ぎみになると、人はモノを捨てられなくなり、周りの人が ホトホト 困ってしまう。衛生とか秩序とかの「理性」を説いても根本解決にはならない。だが、認知症も進行して “要介護 5 ” のように 体も心も衰えれば、ゴミ御殿トラブルはなくなって行く。病気のうち、「統合失調」の場合は「了解不能」 (すること、なすことの意味が他人には全く分からない) の状態であるから、ゴミを捨てることはできない。

♣ また「強迫性人格障害」では、モノへの執着が強く「こだわり」も強くなる —— ガス栓を締めたかどうか 何回も確認する ~~ また自分はエイズではないか? と何回も検査を求める。だから 彼の目の前でモノを整頓する(捨てる)と、怒り興奮する。精神科では 30 歳女性 であっても ゴミ御殿を経験する。

♣ ゴミ御殿に出くわした職員は経験していると思うが、ご利用者が「捨てないで ! 」と声を荒げて反発しても、大抵すぐ忘れてしまう。 「整理・整頓は大事」ということは普通の人でも分かりきっているが、“こまめに整頓するのが 追いつかない” というのが実情のようだ1) 。これは小児に場合でも見られ、ひどければ「注意欠陥障害(ADS)と呼ばれ、「オッチョコチョイ」の子に多いが、大人になると たいてい治る。

対策 は 「人権を侵さない範囲」でゴミを整理して、ゴキブリ発生などの不衛生を防ぐことであろう。どうしても困難な時は、パールに事例をお持ち帰りください。清掃を強行するとトラブルが拡大してしまう。1697字  

要約:   ゴミ御殿は中等度の認知症の大事な症状であり、精神科の O先生 にその様子を伺った。 記憶の第一関門である「海馬」とゴミ御殿の関係を再確認した。  認知症に限らず、人間一般が如何に「モノを捨てられない習癖があるか」を述べ、統合失調症・人格障害・注意欠陥障害との関連を検討した。

参考: 1 ) 新谷:「ど忘れ」;福祉における安全管理、 # 231, 2011. 2 ) 新谷:「中核症状」は蛙に似る?」; ibid # 640, 2017. 3 ) 新谷:「周辺症状の怪?」; ibid # 641, 2017.

職員の声

声1: ゴミ御殿が認知症と関係あることを始めて知って驚いた(答: 認知症の「中核症状」には キケソハジ がある 2 ) ... つまり障害は、キ:記憶、ケ:見当識、ソ:喪失(失認・失語・失行)、ハ:判断、ジ:実行。認知症では「海馬」の機能不全が始まりで、キケソハジ 全部がアウト ! ゴミが宝に見えるのだ)。

声2: 物置・納戸に山のような雑物が収納されている … 普通の人でもありふれた現象 … 大事なものばかりかな?(答: 机の引き出しの中を見られたような気がする … 人に見せたくない ! )。

声3: 普通の人が蓄える筆頭ゴミは手提げの「紙袋」… いつかは使えると思うから … そのほか期限切れの缶詰、冷蔵庫の腐った野菜など(答:――判断力の低下を観察して “介入” のタイミングを考える)。

声4: 認知症になるとモノへの執着心が強くなるのか?(答: 脳細胞数が減る認知症ではすべての脳機能は低下し、“強くなるもの” は何もナイ ! … 若い頃から存在する性格が認知症の “周辺症状3 ) によって「尖鋭化」しただけだ)。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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