(650) 物 忘 れ の 心 配

 (650) 「物 忘 れ」 の 心 配   

 中年を過ぎても 過ぎなくても、「物忘れ」は人の大きな悩みである。でも、もし人類に物忘れ現象が無かったら、若い時の受験勉強に苦労 はなかったハズだ。

♣ しかし、程よい歳になると 自分の物忘れが 只の物忘れによるものか 認知症の初期なのか、この判別がつきにくく、気になるひと時がある。家族や仲間に笑われたりすると すっかり自信を失い、自己嫌悪 に陥る人もあるだろう。そんな方への何か 注意点や対応方法があるかを考えてみた。

♣ 年齢に伴う記憶力の変化は 大変緩やかなので、誰にも気付かれない時期が長い。しかし、よんどころなくなって病院に相談しようと思っても、まだ精神科は「敷居が高い ! 」と思う方は次の事を参考にされるのが良い。認知症のおよそ過半数は 「アルツハイマー病」で、残りは「脳血管性」その他である。

物忘れの心配

①アルツハイマー型 の認知症の最大の特徴は記憶障害であるが、それは「極めてゆっくり」となめらかに進行する。脳血管型の認知症とは異なり、階段状の進行は見られない。若年性のアルツハイマーは 45 歳ころから現れるが 日本ではまだ数が少なく、多くは 65 歳を過ぎてからである(図1)。その基礎病変は老人性の「大脳細胞の減少」だ。

♣ 脳細胞は大人になると、正常な人でも毎日 10 万個 ずつ失われる。これはまともな老化現象であり、何も脳に限らず「毛髪・視力・聴力・残歯数など」に共通に認められている。しかし認知症では、この脳細胞の喪失スピードが正常の 3~5 倍も速く、これによりいろいろな精神症状がもたらされる。

♣ なぜこうなるのかの原因はいろいろ検討されているが、間違いのない臨床的事実は、それが 「年齢と直線的に相関する」 という所見である(図1) ... つまり 65 歳までの「度忘れ」はほぼ認知症に非ず ! アミロイド・ベータ説は根強い主張だが、右肩上がりの この図の所見は説明困難である。

♣ アメリカのレーガン元大統領は任期 4 年後にアルツハイマーと診断され、転倒・外傷を重ねて誤嚥性肺炎のあと、12 年後に亡くなった。イギリスの元首相・鉄の女サッチャーも退職後 認知症に陥り、転倒を重ね、11 年間に及んだ華麗な経歴をすっかり忘れてしまった。どんなに偉かった人でも、ごく普通の認知症で逝ってしまう。

♣ 認知症の最大の特徴は 「近過去の記憶喪失」 であるが、当の本人はそのことを悩むことが皆無で、もちろん「自己嫌悪感」もない。つまり、中年ないし初老の人々が悩む 「物忘れの自己嫌悪」 とはご縁が無いのである ! もし 「ど忘れの自分」に “悩みを感じること” があるのなら、「自己嫌悪の有り」 だけで 「認知症の無し」 が自動的に決まる。

♣ これに対し② 脳血管性認知症は、脳出血・脳梗塞・クモ膜下血腫などの脳の病気後に現れる認知症である。つまり前病歴があって、麻痺などの神経症状が伴えば疑うことになる。この場合、物忘れの経過にも特徴がある。それは 「階段状」 ともいわれ、降りする階段のように、症状が 月日によって “急に悪くなったり” また “安定したりする”—— これが何回も繰り返される—— そのたびに 小さな脳梗塞が広がって行くことを表す 。

♣ 問題を感じている あなたはどんなに悩んでもまだ若くて、脳血管性の認知症でないことは確かだろう。

③ その他の認知症:――「妄想型・窃盗型など」 があるが、あまり全世界的にはポピュラーな名称ではない(図2)。ここでお伝えしたいことは、認知症という名称の由来である。この病気はすでに 600 年前に記載さており 1 ) 、以後もれっきとして存在していた。その名前は 「老人ボケ」 であり、やっと 100 年ほど前にアルツハイマー病とされた 2 ) 。近年の日本では「老人性痴呆」と呼ばれていたが、2004 年に 「認知症」 と改名された。だが諸外国ではまだ「痴呆・dementia」のままである。
物忘れの心配

対応の仕方: ―― 認知症の症状には A = 中核症状 と B = 周辺症状 がある 3, 4 ) A は脳細胞の減少に基づく症状であって、記憶減退・見当識の障害などがあり、これは時間経過とともに必ず進行して行く――現在、治療の方法はない。B の周囲症状は医療・福祉の出番であり、これによって症状の回復~安定の道が期待される。

♣ 認知症は 脳細胞数の減少によるが、「老化現象の進行」と同様に、根本療法はない 5 ) ... つまり、上記のレーガン元大統領やサッチャー元首相時代の療法と大きな違いはなく、対症療法で終始する。すなわち、中核症状は賢く受け入れ、周辺症状は薬物と介護で平穏へと導く。

♣ 病気の発症を予防する方法は、若年時代からの「生活習慣病」のコントロールが主力であるが、今のところ若返り法はない —— あるのは近代の 「優れた福祉の対応」 だけではないだろうか。1787字  

結論:  我々は時に自分の「ど忘れ」を気にして、自分が認知症の初期か?と思うことがある。 認知症には約 14 種類の分類があるけれど 5 ) 、実質的には アルツハイマー型と脳血管型の 2 種類であり、いずれも主に 65 歳を出発点とする。 認知症には中核症状と周辺症状があるが、「忘れた」ことを自覚できる あなたの「物忘れ」なら、それは認知症ではない。

参考: 1) 新谷:「痴呆以前」; 福祉における安全管理 # 2, 2010. 2 ) 新谷:「アルツハイマーの扉」; ibid # 601, 2016. 3) 新谷:「中核症状って蛙の脳に近づく?」、ibid # 640, 2017. 4 ) 新谷:「周辺症状の怪?」、ibid # 641, 2017. 5 ) 新谷:「認知症は 治るか?」; ibid # 603, 2017.

職員の声

声 1: 忘れたことを自覚できる「物忘れ」は決して認知症ではない ! (答: このことこそを 職員がしっかりと記銘しておこう … 自分自身が曖昧では他人の指導は困難だ)。

声2: 100 歳で認知症になる確率は 90 % ですか?ならば残る 10 % はナゼ認知症にならないのか? 遺伝も関係するのか?(答: 残る 10 % も 110 歳 までに いずれ全員認知症になる … 若年性の認知症は遺伝素因が原因のことが稀にあるが、 “認知症にならない遺伝子”というもの はまだ報告されていない)。

声3: 私は「物忘れ」が多く、脳トレも苦手だ … 認知症のリスクは高いだろうか?(答: あなたはまだ認知症年齢からほど遠い… だが 「スマホぼけ」 の可能性がある … 次回の “安全管理” (スマホぼけ) を参照のこと)。

声4: 私の母は「夕暮れ症候群」で家族を困らせ、父はそれを受け付けず叩いていた … 病院で MRI検査 を受け、正しい説明をされたあと、父は親切になった (答: キチンとした家族教育が大事であることを物語る ! )。 

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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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