( 645 ) や さ し く 無 視 す る

 (645) や さ し く 無 視 す る

在宅ケアの例をお示ししよう。

♣ それまで優雅さと気品に満ちた女性(N さん、77 歳 女性)が、昨年の暮れ、尻餅・転倒を機に、金銭と健康の不安が急速に進み、希死願望(きしがんぼう)が強まった。衣服やお化粧に無頓着、生活全般でワーカーへ依存しきるようになった。

♣ この例は ワーカーのケア対応限度を越えていると思われるので、精神科医のご意見を頂いた。そのお話はとても教訓的だった … 日本人は 一生のあいだ、ウツにかかる人の割合が3割くらいあるそうだ。だから このお話はあなたの勤務周辺または在宅ケアの中できっと応用できると思う。

O先生のお話:  この 77 歳のN さんはウツ(鬱)を発症されたのだろう。ウツは中学 1 年生のころから全年齢にわたり発生する。一見、元気そうに見えるが、本人は山の上、テッペンで独りぼっちなのである ()。そこで、ウツに良く見られる 「二つのタイプ」 とその特徴を説明しよう。

優しく無視する

♣ (1) 治りにくいタイプ: (A) 原因が 「環境」 にある場合: たとえば、性格的に自分と合わなくて “耐えられない” と思う仕事や上司がある場合の治療は、その「原因の除去」をしないと “治らない” 。また、自分の能力を越えている仕事の従事なども その原因を取り除かないかぎり “治らない” 。

♣ (B)原因が「」にある場合: 単に 悩みを聞いてあげるだけではダメ ! 正しい資格のある精神科医のカウセリングが必須である —— そして「出口」(=治療目標)の設定が大切だ。

♣ もし相談相手が内科医であれば、彼は親切に診て下るだろうが、大抵は 「安定剤」 で様子を見る ―― それでは症状はますます悪化する。ここで必要なことは、正しい 「抗うつ薬」 でキチンと治療することのだ。内科医は一般にそれが出来ない !

(2) 治るタイプ: 初診の初期で、治るタイプか治らぬタイプかが すぐには判然としない場合もある … そんな場合であっても、初期薬効の成績によって、治るタイプであることが判明する。仮に「治るタイプだ」と判明しても、患者さんは全力を挙げてウツと戦っているのであり、決して 「頑張ってね」 と 「叱咤激励」 (しったげきれい) してはならない。

♣ その理由は、マラソンでゴールインした時に、もう一度走り直せ ! と激励するようなもので、患者さんはそれを聞くとへたって絶望してしまう。同情したり、気分転換(温泉など)を勧めても患者さんは疲れるだけだ ! 薬を 3 ヶ月、キチンと使いながら 「やさしく 無視」 するのが最大のコツであり、こうすれば、基本的には 3 ヶ月で治る。あとの 3 ヶ月は経過観察、計 6 ヶ月で終了する。

♣ O先生のお話をきいていて私は思った:―― ウツを医師に紹介する場合の大事なコツは、ドクターなら誰でも良い、と安易に考えては 良い結果が得られないのだ。人気のある精神科医であっても、ベルトコンベアの診療はダメらしい ! O先生は、初診時に 50 分掛けて、上記の「治る・治らないタイプ」の鑑別をしっかりしながら裏にある事情を訊き出す、とおっしゃっていた。ウツの背景は 通常たいへん深く複雑だから、それを一般外来の 3 分診療で見つけ出すのはとても困難なようである。

♣ キチンと予約時間の取れる初期診療システムを探すのが最大の問題解決に繋がるようだ。介護の場で「ウツっぽい仲間や関係者」に出会う事もあるが、不断の会話や相談で 「優しく見守って知らん顔をする」 ことは気をつけなければならない大事な心得であることだと思った。1445字

 要約:  ウツは中学 1 年生の頃から以後 全年齢に亙って発生する。 治りにくいタイプのウツは「環境」と「心」の不安定さを是正する必要があり、“安定剤” でごまかしては悪化するのみである。 適格な “抗うつ薬” を 3 ヶ月几帳面に用い、対応は「優しく無視」することが必要で、決して「頑張ってね ! 」と激励してはならない。

参考: 新谷:「了解不能の臨床」;福祉における安全管理 # 617, 2017.

職員の声

声1: ウツってどんな病気なのか?(答: 精神の不調原因は不明なものが多いが、「了解不能」という言葉を分母(ぶんぼ)として臨床を数式で表せば大まかに次のようになる:―― 認知症 = 了解不能 / 了解不能、統合失調 = 妄想 / 了解不能、ウツ = 極小気分 / 了解不能

声2: だから無関心な無視ではなく「やさしく無視」が有効なのか、良いことを聞いた(答: ドクターにとってみれば、ご自分の家族の一員という扱いになる; 干渉しすぎず、しかし離れず見守る)。

声3: 病気の人には、ふつう 「頑張ってね」 と励ます; なのに、ウツの場合には励ましては逆効果なんて、初めて聞く(答: 励ました結果 自殺、という例は沢山ある; 頑張ってね は “禁句” だ !! )。

声4: ウツかどうかの判断は難しいので、ドクターにバトンタッチ;特に「死にたい ! 」と言う人なら、なおさら(答:日本で死亡原因の 5 位はウツによる自殺、年間 3 万人に及ぶ;その目でみつめ、助けてあげよう)。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

最新記事
全ての記事一覧
月別アーカイブ
カテゴリ
リンク
QRコード
QR