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(656) 暴 力 も 平 穏 も あ り

 (656) 暴 力 も 平 穏 も あ り  

 「暴力」の話題は世の年中行事であるが、介護の世界でも例外ではない。

♣ 若いパールの職員たちが 初めて介護の仕事に就いたとき、あたかも 「癌」 を宣告された人のショックのような心理学を学ぶ。それは 静かなハズのお年寄りが案外暴力に訴えることがあるからである。例えば、ある若い職員、訪問介護で S 様(90 歳女性 要介護 3)のお宅に伺ったら ケンもホロロに追い出され、それでも家に入ると 「来てくれて有難う」 とおっしゃる … まったく認知症のお年寄りに翻弄(ほんろう)されてしまう。

♣ N様 (79 歳女性 要介護2)はデイサービスをご利用だ。時に不穏か?と見られることもあるが、午前の全体遊戯には協調性があり、食事の会話もごく普通の方だ。しかし、最近、自宅に帰ると、息子様に手を挙げて引っ掻く、叩く、蹴るなどの暴力で ご自分の意思を通そうとされ、手が付けられないほど興奮されるようになった()。怪我をされると困るので、興奮が収まれるまで、狭いスペースに押し込めて静かになるのを待つ。
暴力も平穏もあり
♣ 職員たちは、初めはビックリ、ついで平静になり、やがて 考えるひと時を持って肝が据わり、最期には余裕のほほ笑みを浮かべて仕事をこなすように育って行く。 この心の流れが福祉との出会いの一つ、学生のインターン時代には経験できなかった情景である。

♣ 認知症の進行とともに暴力行為がエスカレートすることがある、と時々聞くが、こんな場合の対応法、とくに「拘束することの意義」について、精神科の O先生 にご指導頂いた。

♣ <O先生>:―― 推測するに、この方々は自宅で暴れても、他人の目がある施設では “よそ行き行動” が出来ているのだから、息子や職員と他人との弁別(べんべつ)する社会性が保たれているようだ。一般に、認知症が進行すると、この弁別能力が弱まって行き、体力も衰弱し始める。もし 周りの人の「優しい心・配慮」が通じる状態であるのなら、精神病患者と同じように、暴力を振るう力も弱くなることが期待される。

♣ しかし、現実に暴力行為が進行して行くようなら、薬を使うか 拘束せざるを得ない。福祉の世界では、身体の物理的な拘束は厳禁とされる 1) が、20 年前まで、驚くべきことに認知症は精神科の病院で扱っていたのだ。なお「認知症という言葉」は、介護保険が始まった 2000 年よりも 4 年遅れて作られたもので(2004 年)、それまでは 「老人性痴呆」 (ちほう)と呼ばれ、福祉の病気ではなく 精神科の病気とみなされていた。

♣ だからその頃は、治療計画に沿って椅子に縛りつけることもよくあった。だが、近年では認知症の人が激増 したため、医療の目がある精神科病棟に長期入院することもできず、福祉がそういう方々のお世話をする流れになった。だが暴力行為に及ぶ認知症は福祉の重荷になっていることは確かである。

♣ 精神科の目でみれば 「拘束」 は治療選択の一つなのである。ちなみに 精神保健指定医は、「自傷・他害の恐れ」がある場合に限って、「隔離」 (一日のみ有効)または「拘束」 (1 週間ほど有効)を行う権限を持っている。

♣ 丁度、警察官が 手錠 などで犯罪者を拘束する権限があるのと同じである。精神科の拘束は「差別」ではなく、病気による「区別・治療」であることを理解して欲しい。拘束の延長が必要な場合は、必要に応じ、その都度、延長の回数を重ねる。

♣ ただし、これは 指定医 が常駐しない福祉施設では行えない。だから、目に余る暴力行為が続く場合には、やはり精神科病棟に入院して「自傷・他害」が収まるような治療 を受けたあと、福祉施設に戻って、介護を受けるのが妥当な線だと思う。

♣ O 先生 の」お話を聞くと、時の流れがしみじみと伝わってくる。なにせ、認知症の統計によると、日本での認知症の患者数はいま 500 万人を越え、やがて 800 万人に届くだろう、と推計されている。死亡数のトップである癌患者数が今 100 万人であることを併せ考えると、その 5 倍も多い認知症への対応は日本の主要な大仕事となることは明らかだ。私たちもしっかりと頑張って行きたいと思う。 1673字 

要約:  初心者の職員がタマゲルような暴力の 2 事例を提示した。  福祉ではそのような人を「拘束」することは出来ないが、精神科なら 「拘束を治療として行う」ことが出来る事情を述べた。  今、ガン患者数 100 万、認知症患者数 500 万越え――このことを踏まえ、「暴力」の問題を収めるためには医療と介護の協調した努力が更に必要となるだろう。

参考: 1) 新谷:「身体拘束の問題」;福祉における安全管理 # 166, 2011. 2) 新谷:「痴呆以前」、 ibid # 2, 2010.

職員の声

声1: 訪問介護で、玄関のチャイムを鳴らすと(介護なんて) 「頼んでいないから、帰ってください」とケンもホロロ; それでも家に入ると 「来てくれて有難う」 とおっしゃる; 認知症の不穏とは 本当に不思議でならない。

声2: 自宅で暴れても、デイサービスでおとなしいのなら、「社会性」 が残存している証拠だと思う; でも 20 年前まで「認知症」は精神科で扱っていたなんて初めて聞く (答: 介護保険の開始は 2000 年だから、それ以前は 精神科の領域だったのだ。なお、認知症という言葉は 2004 年に作られた言葉で、それ以前は「痴呆」 ( ちほう)だった)

声3: 暴力とは 結局 「大脳」 の制御能力不足の問題なのか?(答: 暴力とは “藪から棒” に発現するものではない。ふだん ケチ であった人が さらに ケチ になる … 要するに 「性格の尖鋭化」 の現象なのである)。

声4: 介護の現場では、おしも に手を入れて便をこね回すのを防ぐために 「つなぎ服」 を着せたり、椅子からずり落ちるのを避けるために 「紐で椅子に縛る」 というのもあると聞いた(答: 昔には 色々の拘束があったが、今の介護施設では 拘束は一切 禁止であり、工夫によって 十分良い介護がでるようになった)。

2012-02-06



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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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