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(661) 帰 宅 願 望 は 動 物 脳 か ら

  (661) 帰 宅 願 望 は 動 物 脳 か ら

 デイ・サービスの認知症クラスのY様( 86 歳女性 アルツハイマー認知症 要介護 1 )は、何かの拍子に不穏・帰宅願望が出る。

♣ 自宅にいても不穏や昼夜逆転、居眠り後には まったく別人になったような挙動の断絶変化があるという。認知症で「帰宅願望や不穏」になるのはナゼなのだろうか?

♣ このような不審な様子は介護保険の対象者のほぼ全てに関係する「重要問題」だと思う。精神科の嘱託医・ O 先生のご意見を伺ってみた。

♣ < O 先生> 認知症のお年寄りでは、帰宅願望はごく普通に見られる周辺症状の一つで、それを制止しても なかなか止むことはない。また逆に、願望を叶えてご自宅に案内しても “ここはワシの家ではない” などの発言もある。ここで私の一経験例を示そう。

♣ その方の帰宅願望は人並み以上であった。よくよく聞き出すと、帰りたい先の家は今の家ではなく、自分が育った昔の家だ、と言う。そこで、昔の家 = 伊豆の大島、波浮港 (はぶのみなと) の丘の上まで同道 してみた。しかし彼女は “ここではない ! ここは違う ! ” とおっしゃる。本人の希望を聞いて遠くの大島まで同道してみたものの、結局 彼女の希望は満たされず、変な経験をしただけに終わった。

♣ 「帰宅願望」 は動物の 「帰巣本能」 の一形態であると説明され、哺乳類や鳥類一般に認められるものである。人間は ふだん大脳の作用によって自分の「帰巣本能」を他人に洩らすことはないが、大脳細胞が脱落する認知症では、「帰巣本能」を抑えきれず 表に出してしまう。また、居眠りの後に 「変な挙動をする」 とのことだが、ご自分は居眠りしたことを “記憶しておらず” 、居眠り前後の「不連続感」に何かの違和感を持ち、それが不穏に繋がるのである。
帰宅願望は動物脳から

♣ ここで 振り返って脳のつくりを復習してみよう ―― この図は 人=動物=爬虫類 の違いを象徴的に良く表している。人の脳は、脳の最上部に大脳新皮質 1) があって、普通 「脳」と言えば、「人間脳」 のこの部分を指す。この新皮質は進化の上で、発生して たかだか 100 万年程度の浅い歴史しかないのだが、人間の 「心・知恵・言語」 などはすべてこの場所に由来する。しかし、残念なことに外力や内部の病気に対して「もろくて壊れやすい ! 」。

♣ その下を包むように大脳辺縁系 (だいのう へんえんけい) と呼ぶ脳があり、ここは 「哺乳類脳」 とも呼ばれ、犬や猫などの哺乳類一般の脳である。この部分はかなり古くから存在し、およそ 5 千万年の歴史があって、頑丈である。

♣ 更に一番下の脳幹には生命維持に欠くべからざる 「呼吸・循環・食事・排泄・恐怖」などの本能を司る爬虫類脳がある(蛙・亀・トカゲなど)。ここの脳は約 2 億年の古い歴史を持ち、古皮質とも呼ばれ、人間の新皮質の新しさと対比される。

♣ 人間の脳は進化によって、一番下の爬虫類脳から出発し、その上に哺乳類脳が付け加えられ、更にその後 最上部に人間脳が発達して出来たものである。それゆえその大脳は脳幹・大脳辺縁系および新皮質を含み、高度に発達した「人類の知恵」をも司る大事な機能を持っている。

♣ アルツハイマー認知症で壊れる脳は、この新皮質に存在する脳細胞だけであり、その下にある哺乳類脳や爬虫類脳は無傷のままだ ! アルツハイマーの病変が進行するにつれ、人間脳の細胞は減少し、人の行動はだんだん人間脳から動物脳が代わって支配するようになる。帰宅願望や不穏が現れるのは、そのせいだと考えられている。

♣ 帰宅願望がナゼおこるのかに関して、当のご本人の心に尋ねても正しい理由を説明できる訳もないから、私たちは解剖学の知識から動物脳の帰巣本能を推測するのみとなる。アルツハイマー認知症は人間脳の細胞が脱落して起こるのだから、治ることは期待できない。

♣ その方の人権を、もし尊重して真面目に付き合えば、波浮港 (はぶのみなと) の丘の上にまで同道することになるのだ。1600字

参考: 1 )  新谷:「ど忘れ」; 福祉における安全管理、# 231、2011. 2 ) 新谷:「夕暮れ症候群」; ibid # 658, 2018. 付図の引用: https://amoeblo-jp/maigono-resistance/entry 1202200

職員の声

声1: 認知症の帰宅願望は 「悪気」 があって発生するものではなく、大脳細胞の脱落に伴う症状だったのか(答: だから、真面目にそれに付き合うと 「波浮の港の丘の上」 まで歩くことになる)。

声2: 帰りたいのに帰り先が分からない人が多いように思うけれど 2 ) 、帰宅願望の大脳皮質には 「地図」 はないのか?(答: 無い ! 地図は仮にあっても、例えば 「幼い子供や猿」 などにはチンプンカンプンの存在である)。

声3: 人間の脳は 「進化」 で発達したものだから、いずれ進化によって認知症は無くならないか?(答: 進化は 「生存に役立つ形質を子孫に残すこと」 である … 認知症は生存にとって不利、その上、老人は子を産まないから、進化の道からも外れている)。

声4: 私は脳の発達の歴史を次のように想像する――まず 脳は ① 爬虫類脳で発生する、続いて ② 哺乳類脳に発達、更に ③ 人間脳で花が咲く …この後 老齢になれば 大脳細胞が減って ④ アルツハイマー脳で最期を結ぶ ―― もし動物のように寿命が早々と更年期で終れば、脳は一生無傷だろう(答: お見事な歴史観 ! しかし人間に飼育されて 超高齢の20 歳になるような犬の最期は やはりアルツハイマー病だよ … つまり 「不当に長生き」すれば アルツハイマー病に繋がるのではないか)。
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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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