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(671) 救 急 車 を 20 回 呼 ぶ

(671) 救 急 車 を 20 回 呼 ぶ
    
  皆さん方 は、高齢者の突飛 (とっぴ)で実力行使的な行動を目前に、唖然(あぜん)として手をこまぬいた経験はないだろうか?

♣ 手を こまぬいた理由として 「この方にも私と同じように人間としての尊厳があり、彼の行為は自分で十分考えた上で、理由があっての行動であ り、それはそれなりに尊重すべきである」 という 人間尊重の姿勢 である。パールの「三つの基本理念」を思い出せば 「尊厳・個性・相互の愛」であり、相手が誰であれ、この三理念は守るべきであろう。今日は そのような症例を二つ ご紹介する。

♣ 症例 S.氏 ( 91 歳男性、要介護 1) は独居。妻は 30 年前に他界、子供はなく同居の姉は半年前に他界。その頃から急に情緒不安定となる。主な症状は、便秘が進みトイレとベットの間を往復、不安気分で睡眠障害があり、抑えきれず夜になると自分で救急車を呼び病院を受診。

♣ 診察・検査で、どこを受診しても異常がないと言われるが、更に都心のもっと大きい病院を救急受診し、やはり入院治療は適応とならない。これを半年の間に 20 回 繰り返した。たまたま、パールのショート・ステイの話が進み入所した。

♣ 診ると、ナース・コールを押しっぱなしだ。トイレの誘導を頼む、その後すぐにまた誘導の重なるコール。浣腸を希望、自分の傍から離れないで欲しい、腰を押して欲しい . . . その状況を観察すれば、この人の問題点が見えて来た。

♣ 施設は夜間 職員一人で 20 床の対応であり、このままではトラブルが倍化してくる。そこで、ご親戚に連絡、先方様のご希望により専門の老人ホームに移られた。

♣ この状況は 精神科嘱託医K 先生にお伺いし、ご意見を伺った:―― 年齢を聞かないで症状だけを聞けば 「強迫神経症」 かも知れない。 救急車は一回 ¥45,000 経費が掛かる。これをタクシー代わりに 20 回 利用すると、莫大な経費の乱用になるが、それを遠慮して救急車をさし控えるような配慮はない。 強迫神経症は若年者の脳の病(やまい)である()。しかし、この方の年齢が 91 歳であることを知ればこの病名は消える。つまり 91 歳の脳は 91 年間の人生を経験した 「一丁前の人間の脳」のハズだ。

救急車を20回呼ぶ

♣ その脳が(ことわり) ある説明や助言を無視し、救急車を呼び、これを繰り返し、学習することを知らない ―― この状態は 脳の理解力レベルの低下、つまり 「進行した認知症」 と見るのが適当である。  治療は精神科医の下で 抗不安薬のスタートの適応だろう。

♣ 皆さん方の経験の中にも、お年寄りの 実力行使的な 「困ったちゃん」 に出会うことがあるだろう。この例に似た例を もう一つ挙げよう:―― デイ・サービスで 95 歳のご婦人、トイレに行って 2 ~ 3 分後にまたトイレを願望 ! 排尿はほとんどなく、それが午前中 続く。その間、職員はトイレに付き添い、他の仕事はできない . . . ご婦人の「聞く耳を持たない不安」 を取り除くのは困難至極であった。

♣ 多くの高齢の認知症では「 感謝・迷惑・思いやり 」 . . . そういう人間に特有な抽象観念は一切消失しているから、注意して対応を考えよう。認知症で大脳が壊れると他人のことを慮る(おもんばかる)知恵が出てこない。つまり 「人格の崩壊」 であり、大脳がない状態、すなわち 「蛙のような状態」 に近づく 1 ),、2 ) 。蛙に説法しても通じるハズは無い。

♣ 認知症は言葉の響きから、 もっと高級な病気だと思う人があるが、正常脳の人と対等・平等な尊厳ある扱いをするのは「間違い」である。たとえ「ワシを気違い扱いにするのか ! 」とわめかれても、おびえてはならない。きちんと精神科医に相談する姿勢が正しい。認知症の人に親切心を期待してもムリだ ! また、その逆も真である。つまり、親切のできない高齢者を見たら 認知症を疑うことを忘れてはならない

♣ 同じ「病気の脳」であっても、「そこに実在する脳組織」なら治療法の開発余地があるが、そこに存在しない脳 (つまり、脳細胞の脱落 = 認知症)を治療することはなかなか困難である。

♣ 教科書で学ぶ認知症の症状は たいてい 「他人迷惑」 について詳しい説明がない。そこで、今日は皆さん方の感想を述べて頂きたいと思う。1691字  

要約:  救急車を 20 回呼んで、21 回目にパールショートステイに入所した 91 歳の男性の事例を述べた。 症状としては 「強迫神経症」 が疑われたたが、91 歳の社会経験をした人が脳の理解力と他人への 「思いやり」 の完全欠如がみられ、進行した認知症であった。 認知症は高級な病気などではなく、「ワシを気違い扱いにするのか ! 」とわめかれても、おびえてはならない。きちんと精神科医に相談する姿勢が正しい。

参考: 1 ) 新谷:「蛙の認知症」;福祉における安全管理 # 150、2011 2 ) 新谷:「親切な蛙」; ibid # 145. 2011..

職員の声

声1: 「またこの人か?」 と救急隊でも困っていた人でしょう? … 「おおかみ少年」みたいに思えるけれど、認知症であれば学習なんて出来ないしね(答: 狼少年の物語は “認知症” なんて無かった昔の物語だ … 老人社会は複雑になった)。

声2: この方が、もし精神科入院にならなかったら、次々と病院巡りをしただろうか?(答: もちろん、そうだろうが、むしろ、ここまで巡った過去 20 の病院が彼を怪しまずに放免したことの方が不自然だ … どこかで 「認知症 ! 」 と判定されるべきだった)。

声3: 高齢者の問題行動の場合、まず認知症を考え、受診を勧めるのが良いのか?(答: 昔は ガンコ爺 と言う言葉が使われていたが、今なら 2 ~ 3 の質問で、たいてい 「認知症」 と判る)。

声4: 認知症の対応は難しいが、いずれ我が身の将来と思うと、感慨深い(答: 一般論で、 85 歳人口の 4 割、100 歳で 8 割、110 歳なら 全員 が認知症になる運命だ … ワシは違うだろう、は 浅はかな希望に過ぎない)。




プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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