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(685) 30 歳 と 100 歳 の 混 乱

(685)  30 歳 と 100 歳 の 混 乱    

特養パールでは来月 100 歳になられる方がお二人ある。彼女に追い付くばかりの 98 歳・ 97 歳・ 96 歳・95歳 の方々が静かに百寿を待っておられる。

♣ 特養では現在 90 歳代の方々が 過半数 を占めているし、ふと江戸時代の あだ名(呼称)を思い出すたびに、自分たちが今どんな時代に住んでいるのか、眩暈(めまい)がしてくる。

♣ 一例を挙げよう:――江戸の御殿に勤務するとき、20 歳(はたち)前の女の子は 「娘」 (むすめ) と呼ばれたが、“はたち” を過ぎれば 「年増」 (としま) と呼ばれた。年増とは 「娘盛りを過ぎた年寄り女」 という意味であり、現在言葉では 中年女性 のことだ。さらに、25 ~ 30 歳を越すと呼び名は 「大年増」(おおどしま) になり、御殿の女役というよりむしろ 「部課長」 のような存在であった。昔は 30 歳で 「年寄り女」 だったのだ。

♣ 現代女性の統計なら平均 30 歳で やっと 初婚年齢 になる。つまり 30 歳は 「うら若き花嫁」 であって、今どき 30 歳の女性に向かって 「大年増」 とでも言おうものなら叩かれてしまう。同じ 30 歳であっても、片や「年寄り」、片や「うら若き花嫁」 … それほど 時代と共に 30 歳の意味が変わってしまった。だから、仮に江戸時代に 「 100 歳の人」 なんて言おうものなら 「どこの仙人?どんな化け物か?」 と驚かれてしまうだろう。今なら、単に 「古参のお年寄り」、に過ぎないのにね。
30歳と100歳の混乱
♣ ここで、30 歳に代わって 100 歳の話に移ろう。図 1 のように、アメリカでは 国民の平均寿命が今から 60 年後の 2080 年には 「100 歳」 に達するだろう、との成績 1 ) が発表された。その計算根拠は次のようである:―― 19 世紀以後 120 年間に平均寿命は 40 歳ほど増えた。 毎年の増加率を計算し、これを現在の 80 歳に加えると 2080 年には平均寿命が 100 歳になる、という勘定だ。この計算の問題点は、過去の成績を未来に投影する操作が果たして正統かどうか、である。
30歳と100歳の混乱

♣ そこで、日本でも同じ考えの計算がなされ、「 NHK スペシャル」 (2015.1) は「日本の平均寿命も 2045 年には 100 歳 に到達するとの予測番組を放送した(図 22 ) 。その計算は:―― 明治~平成にかけて寿命が延長してきたスピード、それを将来に投影して計算すると 2045 年には 100 歳になる勘定だという。つまりアメリカでは 60 年後に、日本では 25 年後に平均寿命が 100 歳に到達するとの推定が発表された。これは凄いことである ! 

♣ 今 日本では 100 歳以上の人口は 6 万 7 千人であり、百寿という現象そのものは珍しくない。だが、 「平均」寿命が 100 歳   といえば、話は別だ。つまり、平均値と言うものは その前後に 偏差値 のプラス・マイナス が付き、この場合は偏差値を ± 15 歳とみれば、対象人口の実年齢は上限が 115 歳となる。今 日本で 115 歳の人は、一人居るか居ないかの稀な存在だ。それが 25 年後に百寿が 400 万人程度に増える結果となり “天地を揺るがす社会問題” が発生してしまう ―― だから、そんな 「平均」寿命 100 歳の時代は たぶん来ないと思われる。

♣ さて、ここで将来予測をするときの注意点を述べる。図 3 は男女の「年齢と身長」の関係をプロットしたもので、ご存知のように、背丈は 「思春期」 に著しく延びるが、それは長続きせず、ある年齢に達すれば成長は止まる。この図の前半は直線的増加を示すが、後半は水平経過となる。
30歳と100歳の混乱

♣ 一般に 「生命データ」 を分析する場合、その分布が直線分布になることは多くない。もし背丈が延びている最中のデータだけで将来を予測すれば、背丈はどんどん延びて、30 歳の時点で 3 メートルを越すだろうし、予測とは言え、それは明らかに間違いだ。

♣ 振り返って 図 1 をもう一回見直して見よう … 前半の曲線は湾曲しているが、後半は無理やりに直線で推定している。図 2 はどうか? … 昇るこの勢いの曲線で将来を占えば、先行きが停止するなんて考え及ばない。ところが、この操作を、もし 図 3 で行えば、左半分だけの測定値で後半を推定することになり、身長は何歳になっても延びる、という とんでもない予測となる。

♣ つまり 図 1・ 図 2 は、前半は事実であるものの、後半は間違った 「勇み足」 の判定である。人間や動物の寿命は「体格」によって制約され 3 ) 、人間が 150 歳や 200 歳になることは不可能である。つまり、「生命データは生命の特質」を熟知した上で将来予想に当たるべきものなのだ。

♣ 結論的にいえば、図 1・ 2 の寿命予想法は 「勇み足」 であって、大衆の耳目を喜ばすもの かも知れないが、高齢者福祉の仕事に従事する者にとっては非科学的な見解に過ぎない。

♣ 今日のお話の前半は 「同じ 30 歳でも時代と共に 「年寄り」だったり 「若い花嫁」だったり」する。お話しの後半では、「単なる 100 歳」 と 「 平均寿命の “ 100 歳” 」 では 同じ数字の 「100 」 を扱うが その意味は天と地ほど違う ことを無視していた。

♣ 100 寿の話題は興味津々(しんしん)であるが、もう少し根拠の深い話をしたいものだ、と思う次第である。1986 字  

要約: 同じ年齢の 30 歳は「年寄り」であると共に 「うら若き花嫁」 でもあり得る。 アメリカおよび日本の NHK は、平均寿命が 100 歳になる時期を、それぞれ 60 年後・ 25 年後と推定した。 日本では「単純年齢」が 100 歳を越える人は 今 6 万人余 いるが、「平均寿命 100 歳」の時代が来ることは 決してないだろう。

参考: 1 ) 「平均寿命 100 歳の世界で人はかってないほど充実した人生を送れる」: Gigazine 2014.9.22 2) 中村一郎: 「平均寿命 100 歳の時代を考える」; コンサルタントコラム 660 NHK スペシャル Next World 3 ) 新谷: 「ライオンの 3 倍も生きる」; 福祉における安全管理 # 616, 2017.

職員の声

声 1: 30 歳という齢は、2 世紀前なら 「大年増 (おおどしま) 」、今は「若き花嫁」… 感慨深い変わりようです(答: 100 歳についても大変に変わった … 昔は 「化け物」、今は 「普通の年寄り」 )。

声 2: 平均年齢が 100 歳ということは、0 歳の赤ちゃんお一人に付き 200 歳の老人がお一人居なければ釣り合わない…そんな時代が来るのかしら?(答: なんて賢い比喩なのだろう ! )。

声 3: 平均年齢が増えれば寝たきり老人が増えるだけであり、日本は衰微して行くか?(答: 100 歳の老人が自立・健康 であることは稀であり、「人の命は地球より重い」 なんて のんきな綺麗ごとは言ってはいられないよね)。

声 4: 人生が健康寿命だけになる日は来るか?(答: 来ない ! なぜって、もしそうなれば、病院や福祉・介護制度が不必要な古代に戻るからだ)。

声 5: 100 歳で 自立・自尊 の人はまずいない … 長生きもほどほどにしましょうよ(答: 人間の長寿に関しては 「建前」 のみが幅を利かし、「本音」 が語られると大抵 ひどく叩かれる … もし自立・自尊が可能であるのなら、何百歳 であっても全く構わないのに ーー あなたも きっと、お元気な 900 歳の「清少納言」 にお逢いして、枕草子・「春はあけぼの」を聞きたいと思うだろう)。

プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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