(670) 利 (き) き 脳

(670) 利 (き) き 脳    

脳の活性を保つ秘密、などと謳う「本」は街の店頭に沢山 出ているが、その道の「専門家」が書いた本を見かけることは まず無い。

♣ 人気のある本は、「ボケてたまるか ! 」 とか、「物忘れから回復する本」 などのタイトルで人目を引き、右 (う) 脳を鍛えれば 多くの認知症を予防できる、などと唱えている。具体的な内容としては、「お手玉や知恵の輪を使った遊びをするのが良い」 などと書かれているが、 当たり障りの無い内容ばかりに思える。

♣ パールではデイ・サービスで 「右 (う) 脳訓練」を行っているが、齢をとっても脳の鍛え甲斐があるのだろうか? せめて、認知症予防に有効なのかどうかを考えてみたいと思う。右 (う) 脳や左 (さ) 脳の訓練が本当に役立つものなのだろうか?

♣ 日本では 人の 「右」 脳は 「情緒・空間・音楽」などを司り、「左」 脳は 「知能・理論・運動」 などを司る と言われる。右脳派の人は 「両手の指を組んだ時、右親指が上に来る人;または両腕を組んだ時、右前腕が上に来る人」 と言われる …。左脳派はその逆だ。あなたはどちらか?

♣ 世間ではさらに誇張され、芸術家の ミケランジェロ は右の脳が、科学者の ガリレオ は左の脳が著しく発達していた、などの風聞があるけれど、残念ながらそれには何の具体的な証拠がある訳ではない。世間の風聞とはそんなもので、誰かが突飛なことを言っても証拠と実績がない主張は頼りにならない。

♣ 事実を述べよう:―― 脳は、頭の右側にあるものが右脳・左側にあるものが左脳と呼ばれるけれど、両者は 左右を交差する神経 でガッチリ連絡されて 一つの 「利(き)き脳」になっており、左右のどの部位が何の脳活動を司るのかは、ほとんど分かっていない。言語中枢がしばしば片側 にあるくらいの違いはあるけれど、「利き」に対応するような 片側の 「利 (き)」というものはない。

利(き)脳

♣ にも拘わらず、「左脳派」とか「右脳派」というレッテルで人の性格を分類する習慣が世間には流行している。図 1 を見よう――この女の子は 熊人形 から逃げようとしているのか(左脳派)、それとも「立ち向かおうとしているのか(右脳派)。

♣ これは日本だけの 「お遊び」 かも知れないが、左脳派は 「論理的で計算力が優れている」 人の脳を代表し、右脳派は 「直感的で芸術性に富む」 と主張、上記のように ガリレオ(左脳派) と ミケランジェロ(右脳派) が元祖に据えられている。これは人の性格や心理を分類して遊ぶようなもので、ちょうど 「血液型」 で人の気質を判定するのに似ている。

図 2 の 「回転するダンサー」 をご覧あれ … この女性はクルクル回っているが、その方向は右回り?それとも左回り? お手元のパソコンで 「右脳 左脳 YouTube」 と入力すれば このダンサーが回って踊る様子が見られるが、見ていると、あるときは右回り・次には左まわりを し、どっちが本当なのか見ている自分でも分からなくなる。
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利(き)き脳

♣ 似たような 回転動作 を自分でやってみよう:――自分の胸のレベルで右手を水平にぐるぐる時計回りで回してみよう。その輪をだんだん上に挙げて行くと、それを見ている人は、輪の回転方向が時計方向から反・時時計向に変わって見えることに気付く――不思議な事だ。

♣ 誰でも知っているように、ピアノは両手で弾き、バイオリンも右手で弓を、左手で音階を決め、完全に左右の合作だ。あなたは たぶん右手で字を書く、しかし左利 (き) きの人なら左手で書く。中には黒板に書くときは右利 (き) き、字を書くのは左利 (き) き、という人もある(両利 (き) き)。さらに、文字を簡単に “左右 逆に” (線対称で)書くことが出来る人もある。私たちは誰でも 椅子に座って机の裏に文字を書く所作をすれば、何の努力もなく 線対称で 文字を書くことが出来る。

♣ つまり、「利 (き)」は生後 教育・習慣で得られるもの、しかし 「利 (き)」 については特別の教育の機会はなく、つまり自然の脳は左右が協力して問題をこなすものだと理解できる。別の例を述べれば、サッカーで眼の前に来たボールは、利き足 を選ぶ暇はなく、その時に一番適切と思われる足で蹴る…つまり、右脳も左脳も対等に選ばれる訳だ。

♣ 脳 トレは 「右 (う) 脳訓練・左 (さ) 脳訓練」に分けられるが、訓練するからには 右だけ・左だけ という訳にはいかず、左右 同時に訓練されてしまう。 子供は左右を理解するのに時間が掛かるし、大人でも 自動車を運転していて 「右折します」 と言いながら左に曲がる人もある。「左右の判別」 は、齢をとるごとに混乱するが (認知症の中核症状による)、なぜか「上下方向」 の区別には問題が起こらない。それくらいに左右の判別 は頭脳的・心理的に不安定であり、間違えやすい。

♣ ここまで考えると 本文の頭に記した質問の答 はもう分かる―― 脳は鍛え甲斐があるか? ➔ Yes ! 脳 トレは認知症の予防に役立つか? ➔ No ! 認知症は脳 トレに関係なく、脳細胞数の減少程度で決まってしまう。

♣ 上記の 「回転するダンサー」 のように、左回りでありながら右回りでもあり得るように、脳に関しても 「右脳と左脳」 はガッチリと協力し、利き脳の左右を判別できない臓器であることをしみじみと思い知るのである 4 ) 2151字  

要約:  人間の性格は「右脳派」と「左脳派」に別れる、という面白い説がある。 観察事実をいくつか眺めて見ると、人間行動の場合、どちらの説でも説明が可能である。 脳の場合には「利 (き) き脳はなく」、左右の脳がガッチリ組んで一つの行動を実行しているとみられる。つまり 右 (う) 脳訓練 = 左 (さ) 脳訓練である。

参考: パールの安全管理 1) 新谷:「筋 トレと神経」; 福祉における安全管理 # 199, 2011.  2) 新谷:「垂れ下がりを 防ぐ」; ibid # 159, 2010. 3) 新谷: 「サンタ」; ibid # 29. 2010. 4 ) Gemma Tarlach, " Was Science Wrong About Being Right ?", Discover. July pp. 64, 2018.

職員の声

声1: 認知症の予防に 脳トレが無効と聞きビックリだ(答: 今、認知症予防学会という学会さえある ご時勢だ … だが、認知症の本質は、糖尿病のような病気と違って 純粋な「加齢現象」 に近いものであり、加齢を予防する方法が本当にあると あなたは思うか?例えば、白髪・視聴力低下・顔の皺(しわ)を予防?)。

声2: 事故で右脳を怪我し、左脳のカバーで回復したという話を聞く… 認知症も人力で治れば有難いが(答: 脳の損傷は一部の局所だけ、これに対して認知症は 脳細胞 が大脳全体から広く抜け落ちる …つまり事情が全く異なる。

声3: 認知症予防の本は沢山あり、中には 「絶対に認知症にならぬ秘訣」 という本もある … 左脳派・右脳派も含めて皆 怪しい(答: 何が真実なのかの判断は その理論と実地を見て あなたが決める)。

声4: 楽器を奏でる人は 「全脳派」 と言える … 左脳作品と言われる 新幹線やジェット旅客機の気品ある美しさ … 右脳派の芸術デザインの機械産業界への寄与、これらを併せ考えると、右脳・左脳の違いは限りなく少ない(答: 確かに左右の脳は交差する神経でガッチリと 一つの 「利き脳」 に固められているよね)。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

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