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(686) 年齢と血の巡り

 (686) 年 齢 と 血 の 巡 り
 
 歳をとったせいか、このころ「血の巡りが悪くなって . . . 」という言葉をよく聞く。

♣ おっとっと、実は 「その通り」 なのだ。ここで言う 「血の巡り」 の意味は二通りある:――  「物事を理解する力、頭の働き」の意味が第一だ。たとえば 「巡りが悪くて理解が遅い」 などと表現される。あまり良い言葉ではないが、「ウスノロ」の人かも知れず、また 同じ人でも、歳と共に 「巡りが悪くなった」 のかも知れない。

「循環」の元の意味は 「ひとめぐりして、もとへ戻ることを繰り返すこと」、血が心臓から出て一巡りして元に戻ることである。たとえば 「巡りを良くする薬」 なんて聞いたことはないか? の意味なら 「神経活動」 を表すし、の意味なら 「心臓と血管の活動」を問題にしている。病院に行くと ① の神経活動を測定することは困難だが、② なら 簡単に測れる。

♣ ② を知る一番 簡単な方法は 「薬物の静脈内注射」 である。静脈注射されると、ビタミンB1の一種である 「アリナミン」 は、血流に乗って「肺」にたどり着き、すぐに呼気に移って 独特の  “にんにく”  の匂いとして感じられる。ストップ・ ウオッチで 所要時間を測定すれば、これを 「アリナミン時間」 と言う。これは「腕~肺の循環時間」で、約 2 秒 である。これが遅延すると、末梢循環不全が疑われる。

♣ 次に “デコリン” という胆汁製薬の「苦味 (にがみ) 剤」を静脈注射する。デコリンの流れは 腕から右側の心臓~肺~左の心臓~顔(舌)のように 長い距離を通過するから、約 5 秒 掛かる。これが遅延すると、心不全が疑われる。

♣ アリナミン時間やデコリン時間は 「本人の感覚」 に頼る方法であるため、検査法としては感度がにぶい欠点がある。

♣ しかし近年では色素 (ジアグノグリーン) を用いて光 (ひかり) 検出器で循環時間を正確に求める方法が応用されている。この方法によると、「循環時間」 だけでなく、「心拍出量」 1 ~ 2 ) まで調べることが出来る。こんなことをして、何の役に立つのか?

♣ 「循環時間」 ( = 血の巡り) は 年齢と密接な関係があり、血液が心臓から出て体を一回りする平均循環時間は若い 15 歳くらいで一番早く (約17秒)、以後は年齢が進むにつれ直線的に遅くなり 80 歳で 23 秒( 5 割増し)となる。

年齢と血の巡り

♣ 男女では体の長さが大きく異なるので、身長補正すると男女差は消え (図1)、15 歳で 9.6 秒/m、80 歳で 14.5 秒/m…つまり年齢差 65 年間で約 5 割増しの 5 秒遅延する。この数値を印象付けるために、東京の電車 「環状 山の手線」 一周の所要時間(平均 63 分)で表すと、たまたま同じ数字で 若い人( 15 歳)で 63 秒、齢の人( 80 歳)なら 5 割増の 95秒となった。つまり「山の手線」で仕事をするなら、齢をとると 5 割ほど余分な時間が掛かることになる。

♣ 「ワシは血の巡りに関しては どの若者にもヒケを取らぬぞ ! 」 と言う元気なお年寄りがあるが、それは違う。巡り時間は 年々歳々 約 5 割ほど遅くなるのが現実なのだ。

♣ いったい、それは ナゼ? その主な理由は 「心拍出量」 が激減するからだ 。ティーンエイジャーの心臓は毎分 6 ~ 7 リットル程度の血液を送り出すが、80 歳になると半減する(≒ 3.5 リットル)。どうして少なくなるのか?それは「歳をとると体が古び、活性 (基礎代謝量) が低下するから」くらいの答えになる。

♣ もうちょっとマシな答えを出すとすれば、「それはヒトの遺伝子がそのように定めているから」にだろう。遺伝子って、そんなに不親切なものなのか?いや、決して不親切ではない。ちょっと難しい言葉で言い替えれば、「体のエネルギー需要が節約され 寿命が長くなっているのだ」と考えれば良い。

老人と血の巡り

♣ 以前に語ったことがあるが、人の一生は 「蝋燭」 (ろうそく) にたとえられる。つまり ろうそくの芯(しん)を掻き立てると、炎の光は強くなるが、ろうそくの寿命は早く終わる(図2) 。人の体の細胞も同じことである。

♣ 例えば、入浴の時、皮膚をゴシゴシ擦って垢を剥き取り、新しい皮膚を表面に出すことを考えよう。人の皮膚細胞は一生に 55 回 程度しか新品に取り換えられない 3) 。若いうちに健康を目指して皮膚を剥きすぎると、歳をとって 新しい皮膚細胞の補給が不利になる。したがって皮膚はテカテカ光るドライスキンになり、わずかなムリで 皮膚はすり切れ出血してしまう。 つまり、代謝需要を節約することで、お年寄りはもっと幸せな長生きが出来るわけだ。

♣ しかも驚くことに、老人は遅い血の巡りにも拘わらず、決して 思考・精神活動 までもが遅い訳ではなく、国会や社会の至るところで「年寄り、少しは 引っこめ ! 」という罵声が聞かれるほど元気である。ただし、パールの特養にお入りの 90 歳代の方となると、循環時間はきっと遅延しているだろうし、認知症の併発と共に油断はならない。

♣ 血の巡りが遅くなっても、ヒトは さしずめ へこたれていないことを頭に置いておこう。それは心臓が悪いからではなく、単に基礎代謝の年齢性低下によるものである。2078字

要約:  人の血液が心臓から打ちだされて心臓に戻る時間を(平均)循環時間と云い、15 歳で 17 秒、年齢と共に増し 80 歳で 23 秒となり、これを東京の「山手線」一循環に例えると、平均 63 分で回れる電車時間が 95 分に、つまり5 割ほどの遅延となる。 にも拘わらず、政治家・ノーベル賞の活躍でも 分かるように、高齢者の 思考・精神活動 までも遅い訳ではない。 つまり、この遅延は健康な高齢者の「徴( しるし」 なのであって、心臓の病気に原因があるものではない。

参考: 1) 心拍出量 (しん はくしゅつりょう) : 心臓が毎分送り出す血液の量; 正常な大人で 毎分 4 ~ 6 リットル。 2) 図説 色素希釈法 ― 心機能のみかた、新谷冨士雄 ISBN 4-525-24451-8、1986、南山堂  3 ) 新谷: 「入浴時の洗い方」; 福祉における安全管理 # 11, 2010.  

職員の声

声1: ローソクの芯と同じで、片や 細々と抑揚のない人生、片や 太くて激しい人生 … どっちが幸せか悩むところだ(答: テレビや本のストーリーなら激し人生が好まれるが、自分の事なら「長い人生」が文句なしに最高だ)。

声2 :  長生きすれば必ず認知症になる … では長生きして良いことがあるのか?(答: 「元気で長生き」が万人の望み … しかし現実は 皆 「病気で長生き・認知症」 … だから「介護保険」でお世話を受けられる良い制度が工夫された)。

声3 : 循環時間からスタートして、心拍出量や男女差・年齢差などが判明し、ケアが少しずつ良くなって行く(答: 山手線の一回りは 1 時間 掛かる … 齢をとると、それに 1 時間半 掛かる… そんな比喩で老人の血の巡りを想像すると、いろいろ 合点することが多い)。

声4: 記憶力は齢と共に苦手となるが、発表力となると年寄りに敵う (かなう) ものはない(答: 高齢も「超」が付くと認知症によりトンチンカンとなるが、それ以前なら老人の頭は尊敬すべく優れている)。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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