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(703) 聞 こ え て ま す か ?

(703) 聞 こ え て ま す か ?

  口元を引き締め、パッチリと目を開いて前を向いていらっしゃる 107 歳の K さん … ご挨拶をしても返事を下さらない。これに対して、いつも笑みを浮かべて周りを見回しておられる 100 歳になられたOさん … 語り掛けると明るい顔で見返して下さるけれど一言もお喋りをなさらない。 私のご挨拶は聞こえてますか?

♣ 現在、わが国は世界一の長寿国である。そして年をとれば耳が遠くなるのは人の常。老人施設では若い職員たちが大声でお話をしている … そうしないとお年寄りには伝わらないことをよく知っているからだ。他人事ではない . . . 私たちは 30 歳を過ぎると聴力は滑らかに落ちて行く。その特徴を頭に入れておこう(図1)。

聞こえてますか?

♣ 聞こえのレベルはデシベル (dB) で表される(図の縦軸)。音の高低は周波数 (Hz) で示される(図の横軸)。若いときは何でもよく聞こえるが、齢と共に聞こえは悪くなる(聞こえのデシベルが落ち、高音聴取も苦手となる)。

♣ 音は高い音 (周波数 Hz が大きい)から低い音(Hz が小さい)までいろいろだ。ピアノの鍵盤で言うと、ちょうど中央あたりの 「ラの音(A)」 が女性の会話音に近く、一秒に 440 回ほど振動する音である。男性の声はそれより 1 オクターブ低い。

♣ NHK 放送の 「時報」 の「ピッピッピッツーン」が 440 → 880 サイクル、音楽会で 「ぴーぴーぴー」 と弦楽器が音合わせをしている、あれは 440 サイクルをお互いに確認しているのだ。 逆に割れたガラスをキコキコ擦る音は 2 万サイクルと高い音であり、人間の聞く音の最高限度である。音楽の CD 音盤は 2 万サイクル以上をカットしてある。

図1 を見直そう … 20 歳の場合(赤線)、低い音から高い音まで一様に良く聞こえる。ところが 30 歳を越えると、2 千サイクルあたり(甲高い音)から聞こえにくくなる。80 歳に至っては 500 サイクル(女性の普通の声)でさえ聞こえ辛くなり、若い時とは違って驚くべく耳が遠くなる。

♣ 学校では よく 「6 千ディップ (dip) 」 という言葉を習うが、ディップ とは 「落ち込み」 という意味で、6 千サイクルの音 (かなり高音) から上が聞こえにくくなる。これが 「老人性難聴」 の特徴なのだ。しかも、老人は概して自分が難聴に陥ったことを認めたがらない。そこで 「音を聞く」 仕組みについて復習することにしよう。

聞こえてますか?
♣ 「耳」 は 「外耳・中耳・内耳」 に分けられる(図2)。外耳については お掃除の行き届かない耳垢 (みみあか)は難聴の原因になる。中耳は鼓膜 (こまく)が受けた音の振動を内耳に伝える装置であり、小さな三つの骨がその役割を担う。中耳は鼻の奥に繋がっており、ここに感染症が起れば中耳炎となる。外耳と中耳の故障を合わせて 「伝音性難聴」 と言う (図2)。要するに 「音が機械的に内部へ伝わりにくい」 という意味だ。ここまでの故障は年齢にあまり関係はない。

♣ 問題は老人性難聴の主原因の内耳にある。内耳は 「耳」 であることには違いないが、そのほとんどは 「神経」 と呼んでもいいほどだ。音の振動はまず 「蝸牛 (かぎゅう)」(カタツムリ) に入る。そこで音は 「有毛細胞」 を振動させ、その刺激は脳に伝えられ、音として認知される。一般に、脳の機能は更年期を過ぎれば年々低下するのが常であり、内耳の働きも同様である。老人性難聴とは、つまり加齢によって耳( 内耳) と脳 (聴覚中枢) の機能が低下して聴こえにくくなっている状態であり、感音性難聴 と呼ぶ(図2)。

♣  そこで再確認しよう: 音を聞くのは 「耳」 であるが、音を理解するのは 「脳」 なのである。

♣ ヒトの基本的な感覚は 「五感」 と呼ばれるが、それは 「眼・耳・鼻・舌・皮膚感覚」 である。これらすべては、身体の表面にある 「感覚器」 と、それに繋がる 「神経~ 脳」 より成る。耳の場合は 「感覚器」 が(外耳と中耳)、「神経~脳」 が(内耳)に相当する。そして、この神経の部分はどの五感も 皆 加齢によって機能低下に陥いる。それは先回お話した 「ヘイフリックの限界」 1 ) に基づくものであって、残念ながら 「生き物の運命」 として逆らうことは出来ない。

♣ 問題は 「老人性難聴」 にどのように対処するか?であろう。あなたの経験で、難聴の高齢者に対してどう対応すれば良いと思うか?

♣ 感音性難聴は 「脳の機能低下」 によるものだから 薬で治ることは期待薄である。とくに進行した老衰と認知症に伴う難聴は いかんともし難い(全失音) 。多くの場合は 「言葉の聞き取り能力」 が落ちるので、ゆっくり区切った会話をすれば日常会話は だいたい可能となる。

♣ 補聴器の使用で難聴が進行することはないから、難聴の早期から利用すべし、とも言われるが 老衰と認知症があれば、道具の使用は困難 なゆえ、問題も起こるだろう。あとの対応は 「老化現象を和らげる」 という一般生活療法を頭に描こう ―― たとえば、健康な食事・運動・睡眠・禁煙など。

♣ そして言葉だけに頼らず、ボディ・ランゲッジ (身振り言語) を活用しよう。これについては すでにお話したことを思い出して欲しい 2 ) 2004字

要約: 老人性の難聴は主に年齢性の脳機能低下に原因が求められる(感音性難聴)。 老人性の難聴は高い音の聞こえが悪くなる特徴があり、特に 「言葉の聞き取り能力」 が落ちるので、ゆっくり区切った会話で対応するのが大事である。 言葉だけに頼らず、積極的にボディ・ランゲッジを活用して、意志疎通を図ろう。

参考: 1) 新谷:「不老長寿の達成?」; 福祉における安全管理 # 700, 2018. 2 ) 新谷:「ボディ・ランゲッジ」; ibid # 678, 2018.

図の出典
http://www.saneidrug.jp/category/1432159.html 図1 加齢による聴力の傾向
http://www.jibika.or.jp/owned/hwel/hearingloss/ 図2 聞こえの仕組み Hearwell EnjoyLife

職員の声

声 1: 補聴器 で良く聞こえない方も少なくない(答: 補聴器はふつう片耳だけの利用であるし、さらに難聴は 耳だけでなく 脳の感度低下の結果 でもあって、音量だけを大きくする道具では解決できない問題が残る)。

声2: 世を去る臨死まで耳は聞こえる と聞くが、本当に聞こえているかどうか疑問に思う(答: 確かに返事をして頷いているように思えるが、脳が働いていないのに 聴力だけが残っているなんて アンバランス だよね)。

声3: 難聴 は スマホ でテストできる ~~ いい齢の私は 4,000 ~ 8,000 ヘルツの音が聞こえなかったが、若者はそれを聞き取るのでタマゲた ―― オーケストラ も老人は 高音抜き で鑑賞するのか(答: バイオリンの高音なら大丈夫、でも トライアングル と ピッコロ の音はたぶん聞こえていないだろう)。

声4: ある高齢者に聞くと 「語尾が聞き取れない」 と言っていたので、私は 「ゆっくり・はっきり」 伝えるように心掛けている(答: 低い声で ゆっくり・はっきり、さらに ボディ・ランゲッジ も加えて . . . と言うのが正解なのだね)。
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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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