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(702) パ ー ル の D N R 

 今日は 「DNRのミニ歴史」 をお伝えしよう。DNR とは、英語の “Do not resuscitate” (リサシテイト)の頭文字をとった言葉で、「蘇生 (そせい) を禁止」 という意味である(図1) 。

♣ 皆さん方は 「復活」 という言葉をご存知だろう。イエス・キリスト は十字架で処刑されたあと、よみがえった。それを 「復活」 (The Resurrection、リサレクション)と言い、「死からよみがえること」 つまり神の愛による人類の救いの完成という、宗教上の象徴となった。しかし宗教以外で 死者が現実に復活することはなかった。
パールのDNR

♣ それから後 二千年、人類は 麻酔術を 開発し、人の口から気管の中に カニューレ という管を 「挿管」 (そうかん) することを試みた。それは 外科手術では必須な方法であるが、半世紀前、手術のためではなく 呼吸停止 に至った 急性患者さん に対して、その術を応用し 命を 「蘇生」 ( そせい)することを試みてみた。

♣ ナゼ半世紀前かって? そのころ、ベットの傍で簡便に使用できる 小型の 「電気式呼吸器」 が開発されたからだ。これ以前に蘇生を望んだとすれば、小児麻痺の場合に使う 「鉄の肺」 という大型の装置しか利用できなかったのである。

♣ 蘇生とは、呼吸を助けるだけでなく、胸を圧迫して心臓の働きをも助ける。この行為は 「もうじき死ぬはずの人を生き返らせる」 わけだから、「蘇生」 と呼ばれ、宗教的な 「復活」 とは区別される。蘇生行為を知った人々は、やがてその適応対象を広げるようになった。つまり、超高齢、癌・老衰 の終末期や 認知症の臨死状態 などにまで広く応用され始めたのである 1)

♣ 蘇生の適応を間違えると、生死をせめぎ合う大混乱 となる ! ご家族の気持ちとしては 「もしかして奇跡がおこるかも . . . 一分でも一秒でも長く生きていて欲しい」 と念ずる。ご家族の その気持ちを察すると、DNR の実行は大決断となる。日本には ご家族の希望に応ずる 「お金も技術も」 あった。しかし、消えゆく命には 呼吸器の利用だけでは救いきれない限度がある。

♣ 餅 を喉に詰まらせた 100 歳のお爺さん、家族が救急車を呼んだ話はよく引用される。蘇生は成功し、病院で人工呼吸器につながれ、中心静脈栄養、次には胃瘻 (いろう) をつくられた。生前にご本人が望まれていた希望 = 「自然にポックリ逝きたい、自宅で家族に看取られて死にたい」 という希望とはほど遠い植物状態の様相に移行した。こんな哀れな例は頻繁にあるようだ。

♣ しかし、「もし救急車を呼んだら病院は最大の救急措置をせざるを得ません」 と何度 聞かされても、目の前で、息ができずに苦悶する身内を前に、とっさの救急車呼び出すのは自然な行為かも知れない。むしろ問題は、いったん延命治療を始めたら、それを中止することは 「犯罪だ」 とみなされる日本の社会制度にあるとも言われる。

♣ 介護保険以前には、私もこの最大の救急医療を実行する生活だった。でも その頃は 「患者さんの年齢」 は還暦前後が多く、若かった。対象が若ければ もちろん成績もよく、無事に社会復帰されたものである。
パールのDNR
 
♣ しかし、日本でも近年、同じ高齢者であっても、年齢は昔の 30 歳以上の超高齢になり、諸外国と同調 して正しい対応が再認識されるようになった . . . それが 「D.N.R.」 である。ご家族と医療者・介護者の間で 正しい 「インフォームド・コンセント」 (説明と同意) 2 ) を行い、 あらかじめ ご家族と DNR の理解が話合われる。

♣ 強調したいことは、「救命」 と 「延命」 は 「月とスッポン」 、全然レベルが違うものだ、という認識である。「救命」 とは 「生き続けるべき命を困難から救うこと」 であり、「延命」 とは 「死ぬべき状況の命を延長すること」 である。

♣ 「蘇生」 は 従来通り「 救命」 の適応のある場合に限って行われるが、適応のない場合には、枕元に “DNR” (蘇生しないで ! )というカードをベットサイドに貼っておき、関係者の了解を暗示しておく。

♣ もしこれを 「日本語で」 示しておくと、一般の面会者の気持ちが不安定になるから 暗示の言葉として DNR とする。臨死の最期のケアを行うのは 「機械ではなく人間」 だからである ! 近年では、DNR が厳かに実行される時、静かで温かい人の心のお看取りができるようになった。ご家族もこのことを静かに 理解・納得 して、お別れをなさっている。

♣ 皆さん、今日は ひとつ、物識りになったね。1830字

参考:> 1) 新谷:「エホバ ペグ あなた」;福祉における安全管理 # 42, 2010, 2) 新谷:「説明と同意の書」、ibid # 102, 2011.

職員の声

声1: DNR という言葉 (延命しない) を初めて知った(答: 救急の現場ではきっと混乱するので、入所時に I.C. (インフォームド・コンセント・説明と同意の書) を取っておき、「救命と延命の違い」、およびご家族の方針をあらかじめ良く話し合っておく)。

声2: 101 歳の老衰の女性、在宅の家庭医はキチンと急変について DNR の説明がしてあったが夜中に急変、慌てた家族は救急車を呼び病院へ、すでに死亡だったので警察に回され、すんでのことに 「病理解剖」 になるところだった(答: 急変を予期していても慌てて騒ぐのは家族の常… 病院 も 警察 も 解剖施設 も皆 困ってしまう ... 家庭医の出番を求めること)。

声3: 老衰の臨死では助からないと分かっているから、昔通り、延命操作をしない――この考えは日本の社会でどれほど根付いているのだろう?(答: 先進国の延命は、保険なしの 「有料」 だから家族は慎重に振る舞うが …)。

声4: 「延命操作」 は いったん始めた後 中止すれば医療者が 「殺人罪」 を問われる(答: 延命操作をしなかったらご家族の欲求不満が、したら結果的に 「寝たきり」 が起こる … 関係者の優柔不断はダメ ! )。
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Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

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