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(696) 認 知 症 の 半 側 空 間 無 視

(696) 認 知 症 の 半 側 空 間 無 視

デイ・サービスでは しばしば ご利用者が手工芸の時間を楽しむ。私は従来から気付いていたのだが、認知症クラスのご利用者は、全般的に作品の稚拙(ちせつ)があるのは当然だが、86 歳女性の T 様は 「ある特徴」 をお持ちであった。

♣ たとえば、マグカップに色づけする作業をするとき、机の上で描く画用紙上での平面作業では、カップの全体像を捉え、色を塗ることができる。しかし実物の 「三次元立体」 のマグカップを手にし、色付けをしようとすると、左側半分の色を塗ることができず、途方に暮れておられる。カップの全体像が見えなくなるのかどうかをご本人に尋ねると、カップに描かれている絵柄を全部 しっかりと答えられる。なのに、ナゼ色を塗れないのか不思議でならない。嘱託医の精神科 O 先生にお尋ねした。

♣ < O先生 > この現象は認知症で有名な 「半側空間無視」 である(図1)。たとえば、この図の男性は食卓の料理がキチンと全部見えているのに、なぜか左側だけを認知できない(= 見えているのに分からない)。したがって、左側のお皿のご馳走を食べることが出来ず、今日のおかずは鮭だけ、と思っている。
認知症の半側空間無視

♣ 他の例として、目の焦点固定の障害、距離感の喪失、立体空間の喪失、ロクロ操作の困難など いろいろある。これらの機能は人間の持つ三次元の 「見当識機能」 であり、幼児 にはできない芸当である。また人が老いて認知症になれば 中核症状としてこれらが徐々にできなくなってしまう。

♣ 認知症のお年寄りはしばしば部屋の 「段差」 を認識できず転んだりする。このことを注意しても、おそるおそる足を持ち上げるだけ … これは視力低下からではなく、立体空感の喪失によるものだ。つまり、失認・失行 としての 「中核症状」 そのものなのである。小言(こごと)を言ったり、注意を促すだけでは解決せず、これからもずっと助けてあげなければならない。

♣ そもそも私らの周辺(まわり)は「三次元」であり、立体的である。これを二次元の 「絵」 に描こうとすれば 「三次元を二次元に降ろす」 ことになり、かなりの知能が必要である。この作業に必要な 「遠近法」 (パースペクティブ、Perspective) は 500 年ほど前、画家の ミケランジェロ派 が発見したと言われる。ミケランジェロ 以前の絵画と以後の絵画を比べると、その差がよく分かるはず。

♣ 人類の絵画の歴史は何万年とも言われるが、三次元を二次元に置き換える技は、やっと 500 年ほど前に発見されたものである —— 古代の絵画には 「遠近法」 の知恵がない !

♣ 現在の人間でも、幼稚園や小学一年生あたりの幼い子供は、近くにいる人と遠くにいる人を同じ大きさに描く(図2)。ところが小学生も 4 ~ 6 年生 になれば、誰でも遠近法で画けるようになる。つまり遠近法は、現代では一人の人間であっても、年齢が 10 歳の頃 自然に獲得されるものであり、逆に誰であっても年老いて認知症になれば、再び失われてゆく。

認知症の半側空間無視

♣ 冒頭に紹介された T 様の場合、二次元のお絵描きはできたけれど、三次元の理解は不可能となり、立体のマグカップの塗り絵は出来なくなった訳だ。このように、認知症では 脳細胞数が減じていくにつれ 次元がだんだん減って行く(遠近感の喪失) 。ただし、お絵描きテストをしたゆえに その実態が初めて他人に知られた訳であり、ご本人は、幼い子供と同じで、生活上 何の支障も感じておられない。

♣ 冒頭の 「左空間無視」 や上記の 「幼児のお絵かき」 で理解できるように、私たちは発達した左右の大脳と二つの眼を持っているゆえに立体空間を容易に認識できる。目が不自由な方、あるいは目が良くても景色を判定する 「脳」 に問題のある方は この三次元感覚が苦手となるのだ。このことをよく理解してお年寄りの認知症ケアに役立てたいものである。1569字  

要約:  実物のマグカップの左側に色塗りをすることが出来ない症例を提示した。 これは認知症の中核症状の一つである 「半側空間無視」 の現われである。 認知症に限らず、脳に問題のある方のケアに 「半側空間無視」 という現象があることを学んで対応することにしよう。

出典
食事:http://www.takasago-hp.jp/t_sinryou/reha_gengo_03_
網:http://camera-beginner.sakura.ne.jp/wp/?p=19856

職員の声

声1: 遠近感喪失なんて知らなかった…幼児 → 老年 へ成長の流れなのですね(答: 我々が片手で一方の眼を覆って景色を見ると 「遠近感」 は全部失われる… 同じことが老人になると両目でありながら それが起こる訳だ)。

声2: 目の前の物に気が付かない人がいる… 空間無視だろうか?(答: もう一歩よく観察して、見えない方向が右側か左側かを確かめよう ―― 右側のお皿からだけ食べる、とか、片側のおかずには全く手をつけないとか?)。

声3: 老人が転倒する場合、私は筋麻痺か視力障害が原因と思っていたが、空間認識の欠如による可能性もあるのか?(答: おお有りだ ―― 我々でも隣の人と会話しながら歩いていると、つい物につまづいたり、段差に気付かないことを経験する … 知っているハズなのに、抜けるのだ)。

声4: 目玉が二つ付いているのに、このスバラシイ脳が 齢を重ねると、有る物が無いと言い出す … 哀れでアリマス(答: 「人生 100 年時代」 という言葉がテレビから流れてくる… その100歳の中身は というと、難視・難聴・歯無しで空間無視 ! )。 
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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

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