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(708) 認 知 症 に サ ン タ は な し

(708) 認 知 症 に は サ ン タ は 無 し  

先日に入所された 96 歳の女性、歩き回ると息切れがして、診断は 「陳旧性心筋梗塞・ 認知症」 で(要介護 4 )だとのこと。

♣ しかし前の病院に甘えて長逗留 (とうりゅう) はできないし、一人暮らしの自宅にもいられないのでパール入所を選んだ、とおっしゃる。会話は極めてクリアで、ご持参の薬は 「16 種類」 あった。さてここで問題 ―― 96 歳のこのご婦人の現状を維持するために この 16 種類の薬がすべて必要なのだろうか?

♣ 一般に 薬に関しては面白い観察がある ―― ドクター・ ショッピングの多い人は概して多薬 (ポリファーマシー)、つまり処方される薬の種類が多いのだ。一つの訴えに付き一つの薬が追加されれば、訴えの数ほど薬が増えてしまう。また、本人が薬は効いていないと思えば 別のドクターに行き、そこでまた薬が増える。

♣ 十の薬には十の効果があるが、十の 毒作用 もある。一般に高齢者は 四つ目の薬が始まると、それらの積る毒作用が重なって耐えられなくなり、状態が悪くなる。つまり多薬剤の患者さんに出合うと次の三つの場合を考えねばならない : ―― かなりのドクター・ ショッピング、 かなりのしつこい多愁訴、 受け持ちドクターは相当に薬好き のドクターか?

♣ さて 「サンタ」 については時々お話をして来たが、この問題には 新しい症例に出合すごとに悩まされるものだ。復習するが、「サンタ」 とは 「使っ、良かっ、効い」の「 3タ 」 である。例えば 「便秘薬、 睡眠薬、 痛み止めなど」 の 3 種類だけなら患者自身の自己判断のサンタだけで問題はなかろう。しかし、時には 「使った、 良くなかった、 効かなかった」 もあり、悩ましくなる。

認知症にはサンタなし

♣ 薬が効かない、と言う人があれば その原因は次の 三つ の内のどれだろう? ―― 効能書き以外の使い方をした、 効能があるのか ないのか分からない( 図 1 )、 そもそも効能を疑ってかかっている。

♣ 人間は感情の動物だから、「薬は効く」 と思い込んでいれば 「ジンタン」 でも効く。だが、そもそも 「効く」 とは何か? 正しくは裁判所の判決の基本と同様に考える。裁判官は頭の中で、 「被告は無罪」 を前提とする ; これを(帰無仮説 (きむかせつ)  と呼ぶ)。つまり審議の中で 被告は「白」ではあるが、 もし被告の「黒」( = 罪) が次々と解明され、無罪とは言い切れなくなると、そこで初めて 「有罪かな?」 を検討する。要するに 「人は潔白である」 として出発する訳だ。

♣ 薬についても 問題の薬は 「効かない」 、という帰無仮説で出発する。中立を保った服用試験を重ねて、その帰無仮説を否定できる時、つまり 「利かないとは言えない」 から、ここに初めて、薬は 「利く」 と判定できる。

♣ 製薬会社にとって、「効く」 と 「効かない」 の判定は 営業上 天地を分ける重大な相違であるから、ここで ちょっとした トリック も有り得る。同じ 「効く」 であっても 「効く= 90 %」 の場合と 「効く = 50 %」などの場合は、最終判断で 「効く」 に分類されるけれども、実地での評判は 「天と地」 の差が出てくる。

♣ 有効 90 % の例として よく 抗生物質やステロイド・ホルモン が挙げられる。だが、認知症薬の場合は 判定が分かれ、効く場合と利かない場合の両方が ある という訳だ。

♣ ところが、認知症と診断されれば、機械的に認知症薬がよく処方される。もし 「サンタ」 で判定するとすれば、「使った・ 良くなかった・ 効かなかった」 も存在していいはずだが、そんなことは ほぼ無視され、薬は全世界で用いられている。

♣ 例外の一つは フランス政府 であって、昨年 8 月 1 日 以後、認知症薬 4 種類のすべては無効であるとして、医療保険適応を外してしまった。認知症の原因はまだ十分理解されていないが、その最大の原因は対象が すべて 「高齢老人」 であることだ。「アルツハイマー」 (AD) が薬で治った人は、なるほど 一人も いない実態なのだ。

認知症にサンタなし

♣ 似て非なる薬剤の典型は 「鳥と蝙蝠 (こうもり) 」 にたとえられる。本当の 「鳥」 は すいすい空を飛ぶが、飛ぶだけなら 「蝙蝠」 だって出来る … 鳥と蝙蝠の違いは、ここに書くまでもなく、はっきりと違うのである (図 2)。「鳥無き里の蝙蝠」 という比喩だって、みなさん 実感する事があるだろう?

♣ 私たちは 「薬は効く」 と思い込んでいる。その結果、冒頭に述べたように、高齢でありながら 16 種類の薬を飲み、毒作用 に悩む人が現実にいるのだ。

♣ 内服薬は一般に 「3 種類を越えれば」 「毒作用」 に注意しよう。「闇に鉄砲、数(かず)撃(う)ちゃ当たる」 という金言があるが、16 種類の弾を撃てば、どれかは当たるだろう、だが、他のどれかは 「毒」 なのだ。

♣ 私は皆さんがたにお伝えしたい … もし ある高齢者が 3 種類を越え 6 種類以上の薬を内服している場合には、まず薬は効いていないと 「帰無仮説」 を立て、「使った、良かった、効いた」 の金言が真実かどうかを確かめて欲しい。認知症薬の場合には この サンタの現実 は明らかに 「 効かず ! 」 ;フランス政府 の判定も 「効かず ! なのである。1923字

要約:  96 歳で 16 種類の薬を内服して、副作用に悩んでいた例を紹介した。 薬は 「効く」 と思うだけでは不十分だ … 必ず 「使った・ 良かった・ 効いた」 の帰無仮説を確認してみよう。 普通の人に有効な薬であっても、超高齢の認知症の人に多種類を用いると、「毒作用」 の点で悩む人が少なくないことを知っておこう。

職員の声

声 1: 大きな病院に行って 「薬を減らして下さい」 とは言いにくい(答: 欧米では薬は 原則 1 種類、場合によって 2 種類 ―― それほど我が国は 医師・ 業者・ 患者 三者 ともに多薬を望む特異性がある)。

声 2: 患者の メンタル に効くのも薬の効果だろう、薬を貰って 「楽」 になる人は少なくない(答: 仏教やカソリック のように 「飾り」 で酔って貰うのも一法ではある、ただし限度がある)。

声 3: この 96 歳の女性、16 種類の薬とは驚く … 医者と薬品会社の陰謀か?(答: これらに本人を加えて 三者の合作 なのである …この 三者 のうち、薬の倫理を一番 軽視しているのは たぶん本人だろう ―― 本人の訴えには抗しきれない場合があるのだ)。

声4 : 病気を治さないまでも、症状を遅らせることが薬の役目か?(答: 薬は がんらい 治しません、本人の回復力を 援助する のみ ―― 従って 回復力の薄い老人には 「猫に小判」 )。

声 5: フランス政府は認知症薬を無効としたが、だったらどうする?(答: 中核症状は大脳細胞の脱落によるものであって、年齢と同じく 治る性質 を持たない … だから 「生活療法」 で対応する ... 薬で治らない脱落を 元に戻そうとすれば 「多薬」の危険を冒すことになるかも知れない)。

  
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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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