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(728) 転 倒 と 腱 紡 錘

(728) 転 倒 と 腱 (けん) 紡 (ぼう) 錘 (すい)

特養・ パールに限らず、どこのどの施設でも 「転倒」 ほどポピュラーな事故はないだろう。

♣ ヒヤリハット報告のおよそ 8 割近くは 「転倒」 であり、頭を抱えてしまう。私たちは 20 年この方、あれやこれや改善を目指しているが、なかなか転倒報告は減らない。そこで転倒の 原因・ 機序・ 対策 を再検討してみた。

♣ そもそも転倒はナゼ起こるのか?分かり切ったことながら、それは 「立位時のバランス」 が悪いからだ。立位とは 「二足歩行」 のこと、全動物のなかで二足歩行をするのは 「ヒト」 だけであり、猿以下はすべて 「四足歩行」 である。

♣ この習性は およそ 300 万年前、ヒトがサルから別れて進化した時期に獲得されたものである。この習性によって、前肢 つまり 腕 と 手 が自由になり、道具の発明を始め、火や言語の獲得の前触れになった、と言われる。しかし二足歩行には大きな欠点があり、それが 「転倒の危険」 なのである。

♣ そもそも三足以上であれば、立位は安定するのに人間はナゼ二足歩行を選んだのか?これはよく飛行機の 「自由度」 に例 (たと) えられる。目的に応じて飛行機は重いものを抱え上げる 「輸送機」 と運動が敏捷で軽い「戦闘機」 に分けられるが、ヒトはこの場合 敏捷 (びんしょう) な戦闘機のほうを選んだのである。

♣ これは間違いのない判断であったが、なにしろ それは 人生 50 年時代の判断 であり、今のように人生 100 年時代への対応では、重い 輸送機 を 軽い戦闘機 のように使うのでは 結果が裏目に出てしまう。つまり、急な立ち上がりとは、重い荷物を 軽い戦闘機に乗せて活動するようなもの だ ―― うまく行くハズがない。

♣ さて今日のタイトルの 「腱 (けん) 紡錘 (ぼうすい) 」 とは初めて聞く言葉だろう。これは人間が二足歩行をしても転倒しにくくする為のお道具なのであり、筋肉の両端にある 「腱」 の付属物なのである(図 1で示す腱器官)。
転倒と腱紡錘

♣ 「腱」 に触ってみよう――手首に触ると腱は縦に 2 ~ 3 本の筋 (すじ) として触れるし、肘 (ひじ) には太い上腕二頭筋の腱を触れる。人体で一番太い腱は 「アキレス腱」 、足首の脛 (すね) にある。これらの腱の中には 「腱 (けん) 紡錘 (ぼうすい) 」 という組織が埋め込まれてあり、紡錘の形であることからその名の由来がある。紡錘とは 「糸紡 (いとつむ) ぎ」 の糸巻のようなものだ。

♣ その働きは 筋肉収縮の初期を早く検知 することであり、ただちに脊髄に信号が行き、反射して該当筋を適当な強さに収縮させる (図 2 のゴルジ→ 脊髄→ 筋肉のサイクル) 。難しく考えないで医師の診察時を思い出そう。

転倒と間紡錘

♣ 医師はゴムハンマーで膝 (ひざ) の下側を軽く叩く … すると下肢がピョンと跳ね上がる。それは膝下の腱紡錘が刺激され・ その信号が腰に伝えられ・ 元の筋肉に戻り・ 筋肉がピクッと動くのであり、よく見る風景だ (膝 (しつ) (がい) 反射)。また、筋肉にも 「筋 (きん) 紡錘 (ぼうすい) 」 という組織があり、こちらは筋肉が過剰収縮して壊れることがないような指令を出す。

♣ こんな仕組みにより二足立位であっても転倒しないように 「腱 (けん) 紡錘・ 筋 (きん) 紡錘」が賢く働くのである。ところが、老人は膝をハンマーで叩いても反応しなくなる ! ! これぞ自覚の乏しい 「腱紡錘」 老化の表れなのである。

♣ 話を元に戻す。転倒する時の前後事情を思い出してみよう。ベットから起き上がって足を床におろし、やおら立とうとする。高齢になると そのとき 「老いた腱紡錘」 から出るハズの 第一情報 が腰に届くのに もたつき、それが反射して筋肉を収縮させる タイミング を更に遅らせる。結果的に 床に立ったのは良いが、その立位を保つ筋肉がまだ頑張っていないので、ふらつき 尻餅・ 転倒に至る。

♣ 椅子やソーファから立ち上がろうとするときでも ほぼ同じ機序で転倒する。どういう訳か、老人に共通する特徴は ご自分の体力に見合った ゆっくりの立ち上がりをなさらない。掛け声を掛けて 「ヨッコラショ」 と立ち上がることをお奨めするのに、不釣り合いに藪から棒に立ち上がる ので、転倒予防の大事な筋肉収縮が間に合わないのだ。

♣ ここで思い出そう ―― ヒトの筋力は 25 歳を基準の 100 % とすると、75 歳で 50 % へ、100 歳で 25 % にまで減る ! これは病気ではなく、生理的な老化によるものだ。例えば、90 歳なら筋力は 若い時の 1/3 以下に落ちているのに、立ち上がりのスピードは若い時と同じくらいに 藪から棒 だ。

♣ この 「せっかちさ」 を うまく調整できれば、転倒は遥かに少なくなるハズ。ところが、いくら説明してもお年寄りは、認知症のせいか、この理屈を聞き入れて下さらない。その結果、同じ人が同じ前後事情で繰り返し転倒されてしまう。

♣ この他に、「立位性の血圧低下」 が関与し (およそ 30 ~ 50 ミリ) 、これが腱紡錘の遅れる効果と重なり合い、意識の低下・眩暈 (めまい) と転倒に繋がって行く。たとえてみれば、重い輸送機に宙返りをさせるようなものだーーうまく行かない。

♣ つまり対応の根幹は体位変換に当たっては その人の分限に応じて 「ゆっくり・ 周りを確かめて立つ」 を守ることが大切なのだ。よって、人が高齢の認知症になれば、常に 「傍 (そば) に付いてあげる」 以外に確実な予防の方法は 期待薄 (うす) なのだろうか? あなたはどんな工夫をしますか? 1987字

要約:  人が立ち上がる時、一番先に腱紡錘が刺激され、脊髄を回り込む 「反射系」 を通して 該当筋肉を収縮させ、正しい立位姿勢を準備する。 加齢に伴い、この反射系は機能低下に陥り、姿勢のコントロールが間に合わず、転倒に至る。対応は 「ゆっくり・ 周りを確かめて立つ」 を守ることが大切であるが、お年寄りは急な立ち上がり・ 急な転倒傾向を避けるのが苦手 (にがて) のようだ。

職員の声

声 1 : 加齢によって 「体力・ 筋力」 が低下するのは知っていたが、「腱反射」まで落ちるとは気付かなかった(答: 人間は更年期の 50 歳までは生理的にあまり齢を取らないが、それ以後の年月は毎年 何事も落ちて来るものです)。

声 2 : 「反射」 が低下したことを自分で知ることができますか?(答: ハンマーで 「 膝の腱とアキレス腱」 を叩いてみればすぐわかる … 実際的には 90 歳を越えていれば、これらの腱反射はゼロ ! )。

声3 : そもそもナゼ反射が起こるのか、この発表のようにキチンとした説明が出来るように学びたい(答: 単に齢を取って 何事も 「下手になる」 と思うだけでなく、「腱紡錘 (けんぼうすい) 」 という新語が理解の鍵だったようだね)。

声 4: 「ときめき」 は良いけれど 「よろめき」 はダメ ! 行動はワルツのような 「3 拍子」 を心掛けるように指導しています(答: さすが、ナースとして天晴れな見識です)。
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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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