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(760) 山 鳥 の し だ り 尾

(760) 山 鳥 の し だ り 尾      

今日は 皆さん方が書かれる文書についての注文をする。

..........足曳きの 山鳥の尾の しだり尾の
..........長々し夜を 独りかも寝む

♣ これは 小倉百人一首に出て来る 柿本人麻呂 (かきのもとの ひとまろ) の歌である。

♣ ちょっと解説すれば: 「足曳き」 は 「山」 にかかる枕詞; 「山鳥」 は 「雉(きじ) 」。雉の雌雄は 昼間は一緒にいるが、夜は谷を隔てて別々に寝る習性があるとされ、隔てられた男女の悲しみを、歌う言葉として用いられた。(さらに、人麻呂には、ひそか思いを寄せる人がいた)。全体の意味 = 「あれは山鳥の雄の声; あの山鳥も妻を慕って鳴いているのか; 私は長い夜を一人寝で過ごさねばならぬ、辛いことだなあ。」

山鳥のしだり尾

♣ まるで 五七五 七七の、五つ折りの屏風を、一折りずつ、そっと見せ、見る人の気分を盛り上がらせながら、最期の 「独りかも寝む」 で風流は極まった ! 状況を叙述するために 前置き = 「枕言葉」 が長々と続く。和歌には 「みそひと文字」 (三十一字) という制約があり、その制約の中で風流を競うわけである。古代には、他にする仕事がほとんどなく、電気もなかったので、このような風流が喜ばれた()。私流に翻訳すれば、こうなる: 「長い 長い もっと 長い 長い夜を寂しいことだなあ 、 独りで寝るなんて ! 」。

♣ しかし、ビジネスの世界で こんな枕言葉は通用しない。皆さん方が出される 「ヒヤリハット」 の一例をお見せしよう:――

♣ ある職員の ヒヤリハット 報告 = 私はこのところ エアロビック 体操に凝っていて / 睡眠不足でした / 朝ご飯を食べないで仕事に出かけ / 自転車で訪問先に向かう途中 / お祭りの人ごみに出会い / その中の一人に自転車で / 接触ケガ を負わせてしまった。

♣ 一番大事な報告用件が 6っ の枕詞の後に書かれ、それ以前の文章は 「状況描写」 である。このような 文学的な報告書を 「山鳥のしだり尾」 文章と呼び、ビジネスに文学を持ち込んだ 不適切な表現である。

♣ 次に 「文末へ “否定” を持ってきた」 苦しい報告の例: 今日の訪問介護の予定者は 田中さん・ 山下さん、それに 佐藤さんと近藤さん . . ではありませんでした —— これは 聞いていてガクンと来る。

♣ 日本語は 文末が大事である —— 現在形と過去形は 最後の一息で一変する (. . . です、 . . . でした);肯定と否定も 最後の一息で逆転する( . . . ご飯を食べる、. . . 食べない)。 語尾がはっきりしない人の言葉は 聞いていて とても疲れる。このような日本語を ほっておくと、伝えたいことが最後で曲げられ、読む人は 読みながら “いつドンテン返し” が来るのかと ハラハラする ―― 業務文章として失格である。ビジネスでは 「山鳥のしだり尾」 文章は禁止なのだ !

♣ 業務では、「枕言葉」 を使うと、焦点がボケてしまう。このことを踏まえ、文章では まず 「主語の頭出し」 をする; その後に 「手足をくっつければ」 よい。英語にすれば、 “I think 何々 . . . , because 何々 . . . ” と言うような流れをつくる。そうすれば、文章が現在か過去か、肯定か否定かが あらかじめ分かり、聞いて美しく、簡潔で、また間違いも防げる。これぞ 「簡単・ 明瞭・ 美しい」の極みなのである 。1360字

職員の声

声1: ふだんの会話を そのまま文章にすると文章が膨らみ過ぎる(答: 会話には 「相手」 がいて、相手は “ウンウン” と相槌を打つので 前置き を長くしても 不自然ではない : でも一旦 文章にするときには 「山鳥のしだり尾」 文 にならないよう 語順を考える。

声2: 私は選挙の発表をテレビで見ていて、時々感じる():神奈川県の山本候補、滋賀県の田中候補、山口県の吉田候補、熊本県の佐藤候補、( この後 5 ~ 6 人にお名前を読み上げた後 . . .) は “落選でした”— — これは誤りだ、正しくは次の候補者は “落選でした”、と言った後 名前をアナウンスするのが親切(答:Yes, yes ! )。

声3: 語順の問題: 彼は みんなに親切だったから 正しいと思う —— でも、日本語なら語順を逆にするほうが分かり易く、こうする: ―― 彼は正しかったよ、だってみんなに親切だったもの)。

声4: 以前の安全管理で 「カン・ メイ・ ビ」 (簡単・ 明瞭・ 美) というお話があったのを思いだした。(答::アブラハム・ リンカン は一番少ない単語数で要領を得た文章ができれば、それが一番 「美しい」 と知った)。


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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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