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(761) 命短し は悔しきことか?

 (761) 命短し は悔しきことか?  

 天才作家・ 林芙美子(はやし ふみこ )の小説 (放浪記・ 浮雲) を読まなかった人でも、このタイトルの一節を聞く人は 少なくない。

♣ 彼女は貧しい環境の中で才能を発揮し、心臓弁膜症 の持病を持ちながらも 驚異的な 豊作の作家生活をし、昭和 26 年、47 歳の短い生涯を閉じた。「花の命は短くて 苦しきことのみ多かりき」 という句は 林芙美子が色紙などに好んで書いた短詩である。女性を花にたとえ、楽しい時期は短くて、苦しい日々が 多かった自らの半生を謳った。

♣ 平均寿命が 50 歳の あの時代、女性が どんなに華やかであっても、運命の力には勝てなかった。日本の過去、幼児が感染する リウマチ性心臓弁膜症 は頻度が高く、女性では 妊娠・ 出産で体力を使う 30 歳代で倒れ亡くなるというパターンが頻繁だった。

♣ 林芙美子も この流れの犠牲者だったのかもしれない。でも、弁膜症は昭和 50 年頃に 医学の成果で ほぼ根絶されたのだ。彼女も あと 25 年遅く生まれていたのならなー、と悔やまれる。

♣ でも心配ご無用 ! やがて経済バブルが訪れ、栄養と生活条件の整った昭和 60 年(1985年)頃には、日本女性の平均寿命は 世界一にのし上がった。バブルの頃には テレビや雑誌で 次のようなフレーズが はやった:- 「花の命は 長くして、楽しきことも増えにけり」。この短歌は 頭記のタイトルをもじったものであり、華やかな日本女性の進出ぶりが伺える。

♣ その上 長寿の鼻息が荒い 2000 年の真っ只中に 介護保険 が導入された。ご存知か、パールの特養の入所者の 90 % は女性であるが、長生きの権化(ごんげ)である女性たちが さらなる長寿を目指して施設で介護を受けておられ、平均寿命は林芙美子の 2 倍に達する。生きておられたら、林芙美子もブッタマゲの時代となった。

♣ ところが、ここ数年、長い花の命の揺れ戻しが来たようである。近年、パールのご利用者の家族に インフォームド・ コンセント (説明と同意の書)をする時、新しい覚悟が必要になったのである。

♣ なにせ、ご高齢に重ねてのご高齢 ! その高齢の 「身体的特徴」 として どなたにも「 廃用萎縮」 が訪れる——― 体は小さくなり 体格指数(B.M.I.)は 12 に近づき 1) 、天寿も終わりを見せ、ご自分の過去を忘れてしまうのだ。

♣ ご家族に説明すると、多くのご家族は ご本人と共に闘って来た 数々の病魔・ 不幸な過去を語られる。それを聞くと、私は “ご本人の長寿も タダで達成された享楽だけではなかったのだなー” としみじみ感じる。

♣ そうなのだ; ほんの十年前までは 「元気で長生き」 が合言葉の日々だったが、今は 「長生き」 を求めつつも, 「長生きに疲れた」 人々に接する場合が増えて来た。私は思わず 林芙美子の短歌を思い出し、こんなふうに もじってしまう:—— 「花の命は 長すぎて、楽しき事も忘れけり 」~~ 得たものは 「忘却と廃用委縮」。

♣ 高齢者の健康は 今は効率よく守られる時代であるが、やはり 「寄る年波」 には 身体が保たれても 心が叶わない。私は、先回の安全管理でも述べたように 今、天寿 600 歳 が噂される中 2) 、身体の長命だけを追う時代ではない、「人の道」 をも 思い巡らさねばならないと思っている。

♣ 考えてみれば、天然の身体遺伝子は 私たちを 「50 歳の更年期」 まで 無事に守ってくれた。だから、更年期以後は 余裕をもってゆっくり過ごしたい;不相応な延寿を追い求めるだけが人生ではない。

♣ 私たちは 今日まで 元気に生きて来られたのだ、という 社会に対するお礼を念じて生きるべきではないだろうか。つまり 私の新しい合言葉は: 五十路(いそじ) 越え、感謝の言葉は幾重にも ! 1526字

参考: 新谷 :「体格指数(BMI)≒ 12 は 「天寿の指標」、 福祉における安全管理 # 489, 2015. 2): 新谷:「ついに 600 歳1) か?」、ibid # 401, 2013.

職員の声

声1: 女性を 「花」 にたとえ、その命の感性が 時代と共に 著しく変わったこと、つまり {命は短くて辛い → 命は長くなって楽しい → 命は長すぎて昔を忘れるほど} ——― はて?最後が一番幸せと言えるのだろうか?(答:一番 最後の認知症が一番幸せなハズである)。

声2: 現代は「高齢の上に高齢を重ねた時代」だ; そうして得たモノは 「忘却」 と 「廃用萎縮」 ! ;これは何たる皮肉だろう?(答:栄養不足 と 栄養過剰 の中間に 「腹八分」 という賢さ がある; 林芙美子は 「命の不足」 を歌ったが、もし 彼女が 「命過剰」 の今の時代に住むことが出来たら きっと意見が変わるよ)。

声3: 私は思う:今は 介護をするも されるも 疲れ果てている、 「スーパー延寿時代」 をどう生きるべきだろうか?(答:ひところ 「胃瘻や点滴」 など 日本独特の延命が大流行だったが 最近、明治維新の 「五箇条のご誓文(せいもん) 」 : 「旧来の陋習(ろうしゅう)を破り、天地 (あめつち) の公道に基づくべし」 が見直され 3, 4) 、日本人も目が醒める思いである)。

声4: 私の年齢も 江戸時代の平均寿命 35 歳を大幅に越え、感謝 感謝で介護業務に従事している(答: まさに、“五十路(いそじ)越え、感謝の言葉は幾重にも ! ” だよね;これからの介護分野のモットーは 「人への要求」 ではなく 「人への有難う」 になるような気がする)。

参考: 3) 新谷 : 「胃瘻: 20の私見を紹介、そのII」、ibid #378, 2012. 4)新谷: 「格安延寿 L.C.L.とは?」、ibid #395, 2013.


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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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