(75) 愛が深ければ

  (75) 愛が深ければ   

 今日は 二つのレポートから、愛の深さを考えたいと思います。

♣ ① 近日、ある著者が認知症の治療法について書いていました:「欧米では 認知症に対していろいろな薬物の治験が行われ、有意な改善が認められることが報告されている。海外の報告は多数あるのに対し、本邦では脳血管性認知症に対して厚生省承認を受けた薬物はない。本邦でもこの分野の臨床試験が望まれる」。これを読むと、認知症に対する愛は、欧米で深く日本で浅いのだな、と理解されます。だって、日本はお金なら持っているし、薬好き志向ならどの国にもヒケをとらないからです。欧米で本当に効く薬なら日本でも効くでしょう。なぜ 国はグズグズしているのでしょうか?

♣ ② 高齢者の整形外科治療の問題点について。日本では、整形外科 手術件数を40歳代で1.0とすると、50歳代で×1.6、60歳代で×2.1、70歳代で×2.4倍と、女性を中心に高齢になるほど手術件数が増えているそうです(80歳代以上の統計はありませんが、さらに×3、×5と増えるでしょう)。日本整形外科医3,892人のアンケートで、週平均の勤務時間は63時間、1/3は残業80時間でした。日本人は献身的な努力が好きだけれど、いずれ近いうちに破綻して、手術をこなすことが困難になるだろうと推測されています。参考までにイギリスでは、手術の待ち時間は 統計を取れないほど延長、2006年 緊急に設立された21か所の私立治療センターでの成績は、専門医に比べて再手術率が5~10倍も高い(粗製乱造ぶり)医療であるとのこと**。これはどうしたことでしょう? イギリスは高齢者の骨折治療に対する愛が少ないのでしょうか?

♣ 一般に 医療・看護・介護の世界は「愛の世界」と言われています。今から160年まえ(1854年)、ロシアの黒海近くでクリミア戦争が起こったとき、イギリスのナイチンゲールは現場に赴いて、戦傷者の死亡率が従来50%であったものを5%にまで引き下げる「看護」を繰り広げ、世界の目をビックリさせました。その実効力のある「愛」が万国赤十字創設の発端になったのです。だからイギリス人に愛が少ないとは言えません。

♣ 日本でも同じでしょう。国内で「新薬」を開発するのは コストの面でとても息切れする(一品100億円以上かかる)、そのうえ販売価格は健康保険の枠で縛られている。海外から購入するのも、徳川末期の「黒船事件」(1853年)とおんなしで、アメリカは売りたいけれど、売値でそれを買ったら日本は国がつぶれるから「堪忍!」と買い控える。これって「愛」の問題でしょうか? 仮に薬を豊富に使えば、寿命が延び、高齢者の心は豊かで幸せになるでしょうか? コスト・パフォーマンスはどうなのでしょうか(= 掛けたお金の量と 得られた得のバランス)。

♣ 33年まえ(1977年)、日本はバブルのまっ盛り、インドで日本赤軍が暴れて人質の賠償金が16億円要求されたとき、時の日本総理は名セリフを吐きました:「人一人の命は地球より重い、よし、日本政府は支払い条件を飲む」。人一人の命と地球の重さ を比べるべくもありません ! だから これを聞いた世界の反応は「金満日本 ! という失笑」でした。つまり、物事には道理があるわけで、それを無視して「竹槍一本でB29爆撃機を叩き落とせ」というような精神論では世の支持が得られないでしょう。

♣ 私の結論:愛は深いほど崇高です、しかし物事には道理がある ことをわきまえたうえで、自分の意見を持ちましょう。「うわべの感傷」で愛を語るのは 優れた意見と言えません。

北川泰久:脳血管認知症 日内会誌139:1083 2010.  **林泰史:高齢者の増加と比例する整形外科手術の増加における課題 日内会誌 139:1086 2010.

職員の声

声1: 健康な生命を長くする努力は全人類の使命であり、金銭的な問題は二次的にすべきです(係り: 日本では医療・介護費が毎年一兆円ずつ増えています;日本は やがて、私たちのすべての労働を医療・介護費のために用いるという時代になりかねません——他方、野生動物は自分の努力を100%食事と繁栄のために使います;ヒトと動物ではどっちが優れているでしょうか?)。

声2: インドで日本赤軍が暴れた時、日本総理が“人質の命は地球より重い ! よって16億円の要求額を飲む”と言ったことの、どこがおかしいのですか?(係り: “人一人の尊さは地球より重い”と言うセリフ、地球には60億以上の人間が住んでいるのですよ、ロジックがへんでしょう?)。

声3: 日本では薬の認可が遅れ、助かる命が失われる;良い薬を安く早く提供して頂きたい(係り:従来、その通りにしてきたからこそ、日本は世界一の長寿国になりました;欧米で薬が早く出るのは「愛が深い」からか、「商魂たくましい」からか?どちらかと言えば、後者の要素が大きいようですよ)。 *** Reckless Medicine By Jeanne Lenzer in Discover 11:64~76, 2010.

声4:
認知症の薬は今後ますます求められます、愛をより深めて欲しい(係り:どんなに愛を深めても、110歳ほどが ただ今の「限度」ではありませんか?)。

声5: 人は「うわべの感傷」で延命措置をしがちです;愛の迷走は避けるべきです係り:福祉にも合理性・継続性の観点が必要ですね)。
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Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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