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(728) 転 倒 と 腱 紡 錘

(728) 転 倒 と 腱 (けん) 紡 (ぼう) 錘 (すい)

特養・ パールに限らず、どこのどの施設でも 「転倒」 ほどポピュラーな事故はないだろう。

♣ ヒヤリハット報告のおよそ 8 割近くは 「転倒」 であり、頭を抱えてしまう。私たちは 20 年この方、あれやこれや改善を目指しているが、なかなか転倒報告は減らない。そこで転倒の 原因・ 機序・ 対策 を再検討してみた。

♣ そもそも転倒はナゼ起こるのか?分かり切ったことながら、それは 「立位時のバランス」 が悪いからだ。立位とは 「二足歩行」 のこと、全動物のなかで二足歩行をするのは 「ヒト」 だけであり、猿以下はすべて 「四足歩行」 である。

♣ この習性は およそ 300 万年前、ヒトがサルから別れて進化した時期に獲得されたものである。この習性によって、前肢 つまり 腕 と 手 が自由になり、道具の発明を始め、火や言語の獲得の前触れになった、と言われる。しかし二足歩行には大きな欠点があり、それが 「転倒の危険」 なのである。

♣ そもそも三足以上であれば、立位は安定するのに人間はナゼ二足歩行を選んだのか?これはよく飛行機の 「自由度」 に例 (たと) えられる。目的に応じて飛行機は重いものを抱え上げる 「輸送機」 と運動が敏捷で軽い「戦闘機」 に分けられるが、ヒトはこの場合 敏捷 (びんしょう) な戦闘機のほうを選んだのである。

♣ これは間違いのない判断であったが、なにしろ それは 人生 50 年時代の判断 であり、今のように人生 100 年時代への対応では、重い 輸送機 を 軽い戦闘機 のように使うのでは 結果が裏目に出てしまう。つまり、急な立ち上がりとは、重い荷物を 軽い戦闘機に乗せて活動するようなもの だ ―― うまく行くハズがない。

♣ さて今日のタイトルの 「腱 (けん) 紡錘 (ぼうすい) 」 とは初めて聞く言葉だろう。これは人間が二足歩行をしても転倒しにくくする為のお道具なのであり、筋肉の両端にある 「腱」 の付属物なのである(図 1で示す腱器官)。
転倒と腱紡錘

♣ 「腱」 に触ってみよう――手首に触ると腱は縦に 2 ~ 3 本の筋 (すじ) として触れるし、肘 (ひじ) には太い上腕二頭筋の腱を触れる。人体で一番太い腱は 「アキレス腱」 、足首の脛 (すね) にある。これらの腱の中には 「腱 (けん) 紡錘 (ぼうすい) 」 という組織が埋め込まれてあり、紡錘の形であることからその名の由来がある。紡錘とは 「糸紡 (いとつむ) ぎ」 の糸巻のようなものだ。

♣ その働きは 筋肉収縮の初期を早く検知 することであり、ただちに脊髄に信号が行き、反射して該当筋を適当な強さに収縮させる (図 2 のゴルジ→ 脊髄→ 筋肉のサイクル) 。難しく考えないで医師の診察時を思い出そう。

転倒と間紡錘

♣ 医師はゴムハンマーで膝 (ひざ) の下側を軽く叩く … すると下肢がピョンと跳ね上がる。それは膝下の腱紡錘が刺激され・ その信号が腰に伝えられ・ 元の筋肉に戻り・ 筋肉がピクッと動くのであり、よく見る風景だ (膝 (しつ) (がい) 反射)。また、筋肉にも 「筋 (きん) 紡錘 (ぼうすい) 」 という組織があり、こちらは筋肉が過剰収縮して壊れることがないような指令を出す。

♣ こんな仕組みにより二足立位であっても転倒しないように 「腱 (けん) 紡錘・ 筋 (きん) 紡錘」が賢く働くのである。ところが、老人は膝をハンマーで叩いても反応しなくなる ! ! これぞ自覚の乏しい 「腱紡錘」 老化の表れなのである。

♣ 話を元に戻す。転倒する時の前後事情を思い出してみよう。ベットから起き上がって足を床におろし、やおら立とうとする。高齢になると そのとき 「老いた腱紡錘」 から出るハズの 第一情報 が腰に届くのに もたつき、それが反射して筋肉を収縮させる タイミング を更に遅らせる。結果的に 床に立ったのは良いが、その立位を保つ筋肉がまだ頑張っていないので、ふらつき 尻餅・ 転倒に至る。

♣ 椅子やソーファから立ち上がろうとするときでも ほぼ同じ機序で転倒する。どういう訳か、老人に共通する特徴は ご自分の体力に見合った ゆっくりの立ち上がりをなさらない。掛け声を掛けて 「ヨッコラショ」 と立ち上がることをお奨めするのに、不釣り合いに藪から棒に立ち上がる ので、転倒予防の大事な筋肉収縮が間に合わないのだ。

♣ ここで思い出そう ―― ヒトの筋力は 25 歳を基準の 100 % とすると、75 歳で 50 % へ、100 歳で 25 % にまで減る ! これは病気ではなく、生理的な老化によるものだ。例えば、90 歳なら筋力は 若い時の 1/3 以下に落ちているのに、立ち上がりのスピードは若い時と同じくらいに 藪から棒 だ。

♣ この 「せっかちさ」 を うまく調整できれば、転倒は遥かに少なくなるハズ。ところが、いくら説明してもお年寄りは、認知症のせいか、この理屈を聞き入れて下さらない。その結果、同じ人が同じ前後事情で繰り返し転倒されてしまう。

♣ この他に、「立位性の血圧低下」 が関与し (およそ 30 ~ 50 ミリ) 、これが腱紡錘の遅れる効果と重なり合い、意識の低下・眩暈 (めまい) と転倒に繋がって行く。たとえてみれば、重い輸送機に宙返りをさせるようなものだーーうまく行かない。

♣ つまり対応の根幹は体位変換に当たっては その人の分限に応じて 「ゆっくり・ 周りを確かめて立つ」 を守ることが大切なのだ。よって、人が高齢の認知症になれば、常に 「傍 (そば) に付いてあげる」 以外に確実な予防の方法は 期待薄 (うす) なのだろうか? あなたはどんな工夫をしますか? 1987字

要約:  人が立ち上がる時、一番先に腱紡錘が刺激され、脊髄を回り込む 「反射系」 を通して 該当筋肉を収縮させ、正しい立位姿勢を準備する。 加齢に伴い、この反射系は機能低下に陥り、姿勢のコントロールが間に合わず、転倒に至る。対応は 「ゆっくり・ 周りを確かめて立つ」 を守ることが大切であるが、お年寄りは急な立ち上がり・ 急な転倒傾向を避けるのが苦手 (にがて) のようだ。

職員の声

声 1 : 加齢によって 「体力・ 筋力」 が低下するのは知っていたが、「腱反射」まで落ちるとは気付かなかった(答: 人間は更年期の 50 歳までは生理的にあまり齢を取らないが、それ以後の年月は毎年 何事も落ちて来るものです)。

声 2 : 「反射」 が低下したことを自分で知ることができますか?(答: ハンマーで 「 膝の腱とアキレス腱」 を叩いてみればすぐわかる … 実際的には 90 歳を越えていれば、これらの腱反射はゼロ ! )。

声3 : そもそもナゼ反射が起こるのか、この発表のようにキチンとした説明が出来るように学びたい(答: 単に齢を取って 何事も 「下手になる」 と思うだけでなく、「腱紡錘 (けんぼうすい) 」 という新語が理解の鍵だったようだね)。

声 4: 「ときめき」 は良いけれど 「よろめき」 はダメ ! 行動はワルツのような 「3 拍子」 を心掛けるように指導しています(答: さすが、ナースとして天晴れな見識です)。

(726) 依 存 症 と 底 つ き 体 験

(726) 依 存 症 と 底 つ き 体 験     

今日は 精神科医の O 先生のご指導を受けたので、依存症の症例についての検討をする。

♣ 在宅介護をご利用の A 様( 87 歳男性 要介護 1 )は 競馬の馬券を毎週やっておいでだ。昔は給料のほとんどを競馬につぎ込み、奥さんとのトラブルが絶えなかったそうだが、今は少額の掛け金になった —— しかし私は A 様の在宅訪問で、介護の仕事よりも 馬券トラブルの相談のために時間を取られて ほとほと困っている。なぜ老齢になっても 「ギャンブル依存症」 は治らないのだろうか?

♣ < O 先生 > 依存症とは、ある種の快感や高揚感を伴う特定の行為を繰り返し行った結果に、または 精神に作用する化学物質の摂取や、その刺激を求める抑えがたい欲求が生じ、その刺激がないと時が過ごせない状態のことである。依存は 二種類 あって、「物質」 への依存 (酒・煙草・薬物など) と 「過程」 への依存 (ギャンブル・パチンコ・インターネット・スマホなど) がある。

♣ これらの依存元は脳に作用し、「ドーパミン」 と言う興奮物質が放出され、それが喜びや快楽をもたらす原因なのだ。この機序はサイクルになって 無限に続き、更なる次の刺激を求めるようになって、とどまることはない(図 1)。さて、次に具体例で検討してみよう。

依存症と底つき体験

♣ 上に述べた A 様のように、ギャンブル依存症は このサイクルが止めどもなく回り始めている。これは 「病気」 とは言えないが、サイクルが止まらないのは本人の 「性格」 が大きく関与している。

♣ 一般に、あることに のめり込み、“自己の存在感” が希薄になる依存症は 「性格が主原因」 であり、性格を精神科的に治すことは 非常に困難である。カウンセリングも成功しにくい —— ご存知かどうか、「性格」 とはその人固有に備わっている性質であって、それ自身は 「病気ではない」 ので、基本的に治すことには馴染まない !

♣ 依存症は治療のために入院する方法もあるが、入院中に治っても 退院すると元の木阿彌 (もくあみ) が少なくない。それに打ち克つためには、本人が 自分の依存症をこれ以上 続けたら 「人生はダメになる」 という死に物狂いの自覚( = 底つき体験) がないかぎり、回復は うまくいかないようだ。

♣ タバコの例で底つき体験を示すと、私の尊敬する親戚がタバコを どうしても止められなく、怖れた通りに進んだ 「肺ガン」 を見つけられたので、禁煙した … これが 「底つき体験」 であるが、時 遅し、結局亡くなり、ご家族は大きなショックを受けられた。

♣ また、パールでは先月、95 歳の女性症例が 慢性閉塞性肺疾患 で痩せ細り、何ヶ月も続く呼吸困難の中で亡くなられた ――入所される前の寝床の周りを見聞すると、タバコ の焼け焦げだらけであった。いずれの例も 「底つき体験」 があっても、自分で喫煙の害を軽視した道筋なのであった。

♣ お酒で失敗し、仲間から煙たがれる人は全世界で山とあり、可哀相だけれど、薬では治らない。結局 「底つき体験」 が訪れるまで待つより良い方法がないようだが、稀にはそこから脱却される人もある(図 2)。
依存症と底つき体験

♣ 酒依存の場合 「アノニムス」 (断酒 友の会) で命を繋ぐ人が多いので有名だが、一般に 「性格」 が根底にある病気は治りにくい。このような家族や友人が 「依存症」 で困っている人がいたなら、助けるのではなく 「底つき体験」 をしてもらうために 「突き放す勇気を持つこと」 が 本人のためには大切だと言われる。

♣ 人は 85 歳で人口の約半数が 「認知症」 にかかると報告される。認知症になると 「酒・ 煙草・ 薬物・ギャンブル など」 とご縁が切れるのが普通だ。少なくとも パールの施設介護では依存症の方は お一人もいらっしゃらない —— だから高齢者の依存症は 若い頃の依存症の名残りなのだと言われている。

♣ 病院で 酒・ タバコ の相談外来は古くからあるが、最近では 「ギャンブル外来」 も出来、新しいものでは 「スマホ外来」 さえお目見えしてきた * 。しかし、残念と言うべきか、老人とスマホはご縁が遠い。その理由の第一は 「文字が小さ過ぎて読めない ! 」 、第二はオプション (自由な選択肢) が多すぎて古い頭にはなじまない」 ことである。ただし 「歩きスマホ」 とか 「自転車スマホ」 は中年の男女にまで中毒者が増え、毎日の社会問題になってきた。

♣ 底つき体験は英語で “Hit the bottom” と言い、まさに 「どん底を経験する」 ことを示す。酒の場合は 「たとえ底が見えていても、やめられない」、タバコやスマホの場合は 「大事件が起こって、初めて目が醒める」 。傍から見ていたら、せめて 酒量・ 本数を少し減らしたらどうか、と助言するけれど、図 1 のように 「ドーパミン」 というホルモンからの束縛は巨大なようだ… やっぱり「底をつく」までどうにもならないのか?

♣ いわゆる 高血圧・ 糖尿病 などの 「生活習慣病」 はすべてこの悩みから出発する。近年はそれが更に広く解釈され、ガンや認知症もここから派生すると言われる。気を付けるべき現在である ! ! 1998字

要約: 依存症は何事にも限らず、手ごわい習性であり、その根っこがその人の 「性格」 にあるのだから、とても治りにくい。 現在のところ、本人が 「底つき体験」 をするまで待つほかに良い解決法はなさそうだ。 酒・ タバコ や薬物 に限らず、近年は ガン・ 認知症 に至るまで依存症が原因であるとの嫌疑がかけられている。自分をよく振り返ってみよう。

参考: * 新谷:「スマホ呆けとシナップス」; 福祉における安全管理 # 637, 2017.

職員の声

声1: 歩きスマホの 「底つき」 とは何だろう?(答: 歩きスマホなら たぶん 自動車に跳ねられることか、また自転車スマホならお婆さんへの衝突致死事件だろうか)。

声2: 競馬依存 と言っても、馬の血統や性質の根本を調べ分析するだけなのに、こと勝負とお金が絡むとギャンブルに化ける… 口惜しいことだ(答: 花札や麻雀でも同じこと、悪いのは システム ではな く 「お金」 です。

声3: 依存症は認知症になっても続くのか?(答: 認知症の中核症状の中で、 「判断力・ 失認・ 失行」 などは一見間違えられるかも知れないけれど、本人の様子や日替わりの態度ですぐに 区別できる)。

声4: どこまでの体験が 「底つき」 だったのかが分からないと 一生 依存症と言われるのか?(答: 底つき とは 「自分の命が懸っていること」 であり、ガン になってしまった、とか 飲んで運転して電柱にぶっつかり、半身不随 になった 等である … それより 軽い経験なら無視されてしまう)。  

(725) 納 得 で き る 順 番

(725) 納 得 で き る 順 番   

今からおよそ百年前 (1012 年)、巨大豪華客船 ‘タイタニック号’ がイギリス → アメリカへの処女航海の途中、大西洋の真ん中で氷山との衝突で沈没した。さすがの 4 万 6 千トン・ 世界一の巨船も わずか 2 時間半で海の藻屑となってしまった。死者が多かったのは救命のあり方に問題があった。

♣ 係り員は 救助を一等船客の 「女と子供」 に絞り、その順番を ピストル で構えて守ったが、ボートの数は足らず、1500 名あまりの客は マイナス 2 ℃ の海水の中に投げ出され水死した(図 1)。

♣ 乗客の救助率は 女 74 %・ 子供 52 %・ 男 20 %と 伝えられる。ピストルでおどして選別しても、女は 100 % 助けられず、男は 20 %ほど紛れて助かった。緊急事態であるから 「女・ 子供 第一」 は徹底しなかったのだろう。また、ボートに乗るこの順番を納得できた人たちは どれほどいただろうか?

納得できる順番

♣ この順番について 20 年後英国首相を務めた ウインストン・チャーチル はこんな逸話を残している ―― 彼は仕事で船旅をするとき、その予約を 七つの海を支配したイギリスの船でなく、イタリアの客船に求めた。

♣ 不思議に思った下士官は当然 ナゼ ?と質問する。その時のチャーチルの答え がふるっていた: 「万一事故に見舞われたとき、「女・ 子供 を優先して避難させる習慣のイギリス船は 僕の趣味に合わないナ」。つまりチャーチルはタイタニック号の避難方法なら、80 % の男子は水藻に消えたことを知っていたのである。彼は 女・ 子供 第一 を批判することなく、自分の場合は 「君子危うきに近寄らず」 を実行したのだった。

♣ 次の例は 客船・ コンコルディア号 がイタリアの海岸近くで沈没した件だ(2 012 年)。乗客 4 千人余の中で死者はわずか 29 人; タイタニック号に比べ 桁違いに少ない被害であったが、あろうことか この船の船長は船を見捨てて、早々と安全な陸地に逃げてしまった。

♣ また 2014 年、韓国の 貨客船 セヲル号 が近海で沈没 したが、またもや船長は、制服を脱ぎ捨て下着姿で早々と救助群に紛れ込んだ。指揮者の船長がいなくなって、300 名を越す高校 2 年生が客室に閉じ込められたまま水死した ―― これがイタリアと韓国の現実だったのだ。

♣ ここで ローマ法王の コメント が発せられた ――“この事件により人々が倫理的に生まれ変わることを望む”と。日本には ‘武士道’ があるが、「女・ 子供 第一」 はあるだろうか?… 君ならどうする?

♣ 緊急救助の順番決めで有名なのが赤十字の 「トリアージュ」 だが (図 2)、これは戦場の傷病者手当の心得を分かりやすくするために 「タッグ」 を付ける。黒色の タッグ は死亡例; 赤色は最優先で治療が必要なもの; 黄色は自分の足で移動して救助されるもの、緑色は対象外。これは健康だった被害者の場合によく適応され、列車事故などにも利用される。

納得できる順番

♣ 意外なのは 「川溺れの親子」 の場合、先に親を助けよ、と言うもの。親を助ければ その後 「親は子助けの戦力になる」、とのこと。洪水の場合の 「ヘリコプター救助」 は パイロットの指示に従えば良い。基本的には全員が助けて貰えるのだから、海難災害と異なり、厳しい順序は必要ない。

♣ 「火事の場合」 もこれに準ずるが 「炎と一酸化炭素中毒」 の危険があるので、助かりそうな者から順に助ける。火の中に飛び込んで助けようとすると、ガス中毒で両者ともに倒れてしまう。また 「寝たきり」 の場合 ―― 少なくとも移動に 4 人の職員が必要だから、援助人員の余裕を見つけることが先決となる。

♣ 緊急救助の場合、「建前」 と 「本音」 の問題も考えておこう。例えば、「建前で病人・老 人を優先」 するのは当たり前だが、「本音」 としては、事件終了後の復旧に必要な社会力をも勘案したい。ある 「本音の案」 では ―― 赤ちゃん・ 子供・ その保護者・ 青年層の男女の順だ――老人よりも次の世代を担う人々を優先する、と発言する。

♣ 緊急救助の事態は、その規模によっても大幅に対応が異なる。事故が 数人・ 数十人・ 数百人などでは、一般的な解答はない …状況によって順番は変わるが、あまり 建前・ 本音 にこだわるのは差し控えたい。ふだんから頭の中で復習しておこう。

♣ 最期に老人ホーム・ パール での心得をお伝えする。消防署の提案は 「まず、やりやすい順に各部屋からお年寄りをベランダへ運んで下さい …. その後は我ら消防隊に任せて欲しい」 とのことである。1810字

要約:   緊急救助の場合、誰をどの順番で助けるかは常に厳しく問われ、タイタニック号 沈没の場合は 「女・ 子供 第一」 であった。 ふだんなら 老人・ 病人・ 子供を先に救助すると答えられるが、救助の規模や 「建前と本音」 によって順番はいろいろ変わり得る。 場合はさまざまであるから、頭の中で訓練をしっかりやっておこう。

職員の声

声 1: 女・子供が助かっても、お父さんがいなかったら、どうして生きればいいの?(答: そもそも 「沈没」 って残酷だよね … 水は零下 2 ℃、浸かったら 10 分で凍死してしまうよ)。

声2: 救助する人材が確保されなければ 救助は実現しない … 救助者は 「自分の身の安全を」 確保せよ ! (答: イタリアと韓国の場合は “船長が身の安全確保” をしたけれど、救助の指揮を行わなかったのが残念だ)。

声3: 「建前」 の行動は美学上の雅 (みやび) さがあるが、 「本音」 の判断は社会貢献の点で重要・必須ではないか?(答: 「行動の美学と社会貢献」 の引っ張り合いを 緊急時 に行う … 誰でも迷っただろう)。

声4: もし日頃から訓練をしていなかったら 「我 先に」 とパニックになったのではないか?タイタニック号の判断は立派だったと思う(答: 8 割の男性は止むを得ず 美学 (水死) に殉じたのだろうか?もしそうなら、タイタニック号の沈没は美学の塊だった訳で、すごいことだ ! )。

(724) あ な た の 輪 廻 と ガ ン

(724) あ な た の 輪 (りん) (ね) と ガ ン

  高齢者は、ご先祖から貰った命を青年時代で次の世代に継ぎ伝え (子を産む)、自分自身は百年ほど命を維持したあと 逝ってしまう。

♣ このように、私たちはご先祖から伝わった命を次々と後の世代に受け継ぐ。この流れのことを 輪廻 (りんね) と言う。 図 1 に示す」ように、人は死後 「天」 に昇れるとは限らず、その行いによって再び 「人」 に生まれ替われるのか、それとも 「畜生」その他 になるのかが決まる、と考える宗教思想である。

♣ お釈迦様は 2 千 4 百年も前の方であったが、人類の誕生は 遥かに古代の 約 300 万年前だったことをご存知にならなかった。だからこそ 「輪廻」 という考えは、科学の思考ではなく、「哲学の霊感」 によって閃いた(ひらめいた)ものなのだろう。重力を発見した あの アイザック・ニュートン でさえ地球の始まりは 4 千年くらい前だと信じていた時代だったのだ。

あなたの輪廻とガン

♣ 科学的な証拠で調べれば、「無限」 という事態はあり得ない。地球自身の誕生は約 46 億年前の古さ、その基となる宇宙の誕生だってもっと古い 138 億年前のこと、これは 20 世紀の 同位元素 3 ) が発見されて確認された事実である。

♣ だから、輪廻 (りんね) 転生 (てんせい) とは、この世で あなたの “悪行 (あくぎょう) ” 次第で次に生れ変るときには “ 蛙や虫になる ” という輪廻も、一つの教えだったのだろう。

♣ 人間の体は 約 60 兆個の細胞より成り立っている。しかし その細胞のうち、死ぬまでの百年間、変わらず不変なもの は 「神経細胞と 筋肉細胞」 だけ、あとの組織は入れ替わる。不変と言われる神経と筋肉でさえ、日々減って行き、脳神経細胞は毎日 10 万個ずつ減る。筋肉の場合は 25 歳を 100 % とすると、75 歳で 1/2、100 歳で 1/4 に減ってしまう。

♣ さて 身体の事情を個別に見ると、輪廻の一番速いもの は、細菌感染を防ぐ 「免疫リンパ球」 で、たった一日で一生の仕事を終え、後輩に役目をバトンタッチする (輪廻は 「一日」 のみ)。

♣ 他の細胞の輪廻も 案外に短く、小腸の細胞は 2 ~ 3 日 ごとの輪廻、赤血球は 4 ヶ月 ごと、骨の細胞さえ 7 年ごとに 全部入れ替わる有様だ。ちょうど 日本政府は一つだけれど、公務員は何年かごとに入れ替わるようなものである。だから、ヒトの一生のうちには 各種細胞はたっぷりと 「輪廻」 する。

♣ 病気の発生でさえ、またもや 「輪廻」 がある。人間の体の細胞 60 兆個は 毎日 0.1 % ずつ入れ替わる 1) 。つまり、毎日 六百億個 の細胞が死んで、その分だけ 新しい細胞が 細胞分裂によって輪廻する。そんな輪廻があっても、私たちの 自己の唯我独尊 (ゆいがどくそん) 性に翳り (かげり)はない。

♣ 問題は ガン だ。上記のように、身体は毎日 六百億個 の細胞の入れ替わりがあるのだから、百万個 に付き 一個 程度の ミスコピー( 間違った輪廻転生) は避けられない。つまり、誰でも一日に 六千個 のガン細胞が発生している訳だ。

♣ 「免疫リンパ球」 の役目は これら 初期のガン細胞を見つけ、その発生ごとに 全部を退治する。万一、リンパ球が疲れていて、 たった一個でも 間違って悪いガン細胞を見逃してしまうと、そのガン細胞は 20 年後には 1 cm の大きさに育ち、30 年後には その人の人生を奪ってしまう。

♣ ガン退治役のリンパ球は 頑張り屋 であるが、それが疲れる主な原因は 「タバコが 3 割、不適な生活習慣が 3 割 2) 残る 4 割が “その他の運” 」 だと言われる (図 2)。

あなたの輪廻とガン

♣ お釈迦さまのおっしゃる宗教の輪廻とは中身がずいぶん異なるが、このように あなたは 細胞の輪廻転生に包まれて生きていることを知っておこう。しかし、その輪廻といえども無限ではなく、人生 百年 程度で終結してしまう。永久 (とこしえ)ではないけれど、あなたの寿命をキチンと保証する 「細胞の輪廻転生」 …. そのために働き続ける 「免疫リンパ球」 に感謝だ。

♣ ガンの発生原因は 「タバコと不適当な生活習慣」 が 6 割、残りの 4 割は 「運」 と言われるが、その 「運」 でさえ 近年は自分で切り拓くものだとされる。その意味で、最近は 「すべてのガンは自己責任病である」 と豪語する向きもある。

♣ ご存知のように、認知症のお年寄りにはガンは滅多に発生しない。それはガンのピーク年齢の 70 歳代を、その人がうまく乗り越えられたからである。でもこうして、見事な高齢に達してしまえば、ガンの心配は細くなるが、どっこい、次の役者である「認知症」が そこに待っている。こうなると、病気のサイクルに関しては、佛さまの 「輪廻」 もあながち無視できない、と判る。

♣ 佛さまは、ご自身が 80 歳でお亡くなりになったので 「認知症」 をご存知 なかったが、あなたの輪廻はどこまでもあなたにくっ付いてくる。だが それこそが生命の証 (あかし) なのではなかろうか?  1914字

要約:  お釈迦 (しゃか) さまは、人の身には 「輪廻(りんね)」 があると考えられた。 ところが、輪廻は身体を構成する各臓器にも存在し、たとえば、免疫リンパ球は 「一日」 の、神経・ 筋肉は 「終生の輪廻」 を持つ。  ガン は誰の体にも発生し得るが、その初期は自己責任現象として起こる、と言う。ガンの輪廻は人によって かなり異なるから、佛さまのおっしゃる 「輪廻」 はあながち軽視できず、心して考えるべき事柄であろう。

参考 1)  中川恵一: 「がんのひみつ」; 学士会会報 No880: 106~118, 2010. 2) 不適当な生活 = 大煙・ 大酒・ 大食・ 夜遊び・ 接待宴会・ 夜討ち朝駆け・ 過労 など。 3 )  同位元素 = アイソトープ:元素のうち、中性子だけが余分に多い元素、これを調べることにより、その元素が創られて何億年経過したか、が分かる。

職員の声

声 1: 日々 自分の細胞が入れ替わっているなんて、実感がない(答: 入浴で 「アカ」 を取る、または 「髪の毛」 が抜ける・ 鼻水が出る … など皆 「輪廻」 ですね … ウンチの 1/3 は腸細胞の死骸なんですぞ。

声 2 : 脳神経細胞が毎日 10 万個ずつ減っている、とは驚いた(答: もし 100 歳まで生きていたとすれば、その減少個数は約 30 億個、脳細胞全体は約 150 億個あるから、それの 1/5 だけが減った高齢者脳になる … こんな輪廻だから 誰しもが その程度はボケる)。

声3 : 悪い生活を何もしないのに、ガン で世を去るのは皮肉なものです(答: 総死亡数の 1/3 はガン死亡による… 人間はいつかは輪廻の終点で逝く、特に高齢者は必ず … 医療はどんなに頑張ってもその終点に逆らうことはできない)。

声4: 幸いガンにならなければ、結局 認知症になって逝く?それって辛いな(答:  同感 ! … しかし、ガンのピーク年齢は 70 歳代、認知症にはピーク年齢がなく、齢が進むほど増え、110 歳で実質全員だ。今の時代、ガンで終るか、または 老衰(= 認知症)の輪廻で逝くか ... 認知症のほうが ガンより長生きできて 良くありませんか?)。

(708) 認 知 症 に サ ン タ は な し

(708) 認 知 症 に は サ ン タ は 無 し  

先日に入所された 96 歳の女性、歩き回ると息切れがして、診断は 「陳旧性心筋梗塞・ 認知症」 で(要介護 4 )だとのこと。

♣ しかし前の病院に甘えて長逗留 (とうりゅう) はできないし、一人暮らしの自宅にもいられないのでパール入所を選んだ、とおっしゃる。会話は極めてクリアで、ご持参の薬は 「16 種類」 あった。さてここで問題 ―― 96 歳のこのご婦人の現状を維持するために この 16 種類の薬がすべて必要なのだろうか?

♣ 一般に 薬に関しては面白い観察がある ―― ドクター・ ショッピングの多い人は概して多薬 (ポリファーマシー)、つまり処方される薬の種類が多いのだ。一つの訴えに付き一つの薬が追加されれば、訴えの数ほど薬が増えてしまう。また、本人が薬は効いていないと思えば 別のドクターに行き、そこでまた薬が増える。

♣ 十の薬には十の効果があるが、十の 毒作用 もある。一般に高齢者は 四つ目の薬が始まると、それらの積る毒作用が重なって耐えられなくなり、状態が悪くなる。つまり多薬剤の患者さんに出合うと次の三つの場合を考えねばならない : ―― かなりのドクター・ ショッピング、 かなりのしつこい多愁訴、 受け持ちドクターは相当に薬好き のドクターか?

♣ さて 「サンタ」 については時々お話をして来たが、この問題には 新しい症例に出合すごとに悩まされるものだ。復習するが、「サンタ」 とは 「使っ、良かっ、効い」の「 3タ 」 である。例えば 「便秘薬、 睡眠薬、 痛み止めなど」 の 3 種類だけなら患者自身の自己判断のサンタだけで問題はなかろう。しかし、時には 「使った、 良くなかった、 効かなかった」 もあり、悩ましくなる。

認知症にはサンタなし

♣ 薬が効かない、と言う人があれば その原因は次の 三つ の内のどれだろう? ―― 効能書き以外の使い方をした、 効能があるのか ないのか分からない( 図 1 )、 そもそも効能を疑ってかかっている。

♣ 人間は感情の動物だから、「薬は効く」 と思い込んでいれば 「ジンタン」 でも効く。だが、そもそも 「効く」 とは何か? 正しくは裁判所の判決の基本と同様に考える。裁判官は頭の中で、 「被告は無罪」 を前提とする ; これを(帰無仮説 (きむかせつ)  と呼ぶ)。つまり審議の中で 被告は「白」ではあるが、 もし被告の「黒」( = 罪) が次々と解明され、無罪とは言い切れなくなると、そこで初めて 「有罪かな?」 を検討する。要するに 「人は潔白である」 として出発する訳だ。

♣ 薬についても 問題の薬は 「効かない」 、という帰無仮説で出発する。中立を保った服用試験を重ねて、その帰無仮説を否定できる時、つまり 「利かないとは言えない」 から、ここに初めて、薬は 「利く」 と判定できる。

♣ 製薬会社にとって、「効く」 と 「効かない」 の判定は 営業上 天地を分ける重大な相違であるから、ここで ちょっとした トリック も有り得る。同じ 「効く」 であっても 「効く= 90 %」 の場合と 「効く = 50 %」などの場合は、最終判断で 「効く」 に分類されるけれども、実地での評判は 「天と地」 の差が出てくる。

♣ 有効 90 % の例として よく 抗生物質やステロイド・ホルモン が挙げられる。だが、認知症薬の場合は 判定が分かれ、効く場合と利かない場合の両方が ある という訳だ。

♣ ところが、認知症と診断されれば、機械的に認知症薬がよく処方される。もし 「サンタ」 で判定するとすれば、「使った・ 良くなかった・ 効かなかった」 も存在していいはずだが、そんなことは ほぼ無視され、薬は全世界で用いられている。

♣ 例外の一つは フランス政府 であって、昨年 8 月 1 日 以後、認知症薬 4 種類のすべては無効であるとして、医療保険適応を外してしまった。認知症の原因はまだ十分理解されていないが、その最大の原因は対象が すべて 「高齢老人」 であることだ。「アルツハイマー」 (AD) が薬で治った人は、なるほど 一人も いない実態なのだ。

認知症にサンタなし

♣ 似て非なる薬剤の典型は 「鳥と蝙蝠 (こうもり) 」 にたとえられる。本当の 「鳥」 は すいすい空を飛ぶが、飛ぶだけなら 「蝙蝠」 だって出来る … 鳥と蝙蝠の違いは、ここに書くまでもなく、はっきりと違うのである (図 2)。「鳥無き里の蝙蝠」 という比喩だって、みなさん 実感する事があるだろう?

♣ 私たちは 「薬は効く」 と思い込んでいる。その結果、冒頭に述べたように、高齢でありながら 16 種類の薬を飲み、毒作用 に悩む人が現実にいるのだ。

♣ 内服薬は一般に 「3 種類を越えれば」 「毒作用」 に注意しよう。「闇に鉄砲、数(かず)撃(う)ちゃ当たる」 という金言があるが、16 種類の弾を撃てば、どれかは当たるだろう、だが、他のどれかは 「毒」 なのだ。

♣ 私は皆さんがたにお伝えしたい … もし ある高齢者が 3 種類を越え 6 種類以上の薬を内服している場合には、まず薬は効いていないと 「帰無仮説」 を立て、「使った、良かった、効いた」 の金言が真実かどうかを確かめて欲しい。認知症薬の場合には この サンタの現実 は明らかに 「 効かず ! 」 ;フランス政府 の判定も 「効かず ! なのである。1923字

要約:  96 歳で 16 種類の薬を内服して、副作用に悩んでいた例を紹介した。 薬は 「効く」 と思うだけでは不十分だ … 必ず 「使った・ 良かった・ 効いた」 の帰無仮説を確認してみよう。 普通の人に有効な薬であっても、超高齢の認知症の人に多種類を用いると、「毒作用」 の点で悩む人が少なくないことを知っておこう。

職員の声

声 1: 大きな病院に行って 「薬を減らして下さい」 とは言いにくい(答: 欧米では薬は 原則 1 種類、場合によって 2 種類 ―― それほど我が国は 医師・ 業者・ 患者 三者 ともに多薬を望む特異性がある)。

声 2: 患者の メンタル に効くのも薬の効果だろう、薬を貰って 「楽」 になる人は少なくない(答: 仏教やカソリック のように 「飾り」 で酔って貰うのも一法ではある、ただし限度がある)。

声 3: この 96 歳の女性、16 種類の薬とは驚く … 医者と薬品会社の陰謀か?(答: これらに本人を加えて 三者の合作 なのである …この 三者 のうち、薬の倫理を一番 軽視しているのは たぶん本人だろう ―― 本人の訴えには抗しきれない場合があるのだ)。

声4 : 病気を治さないまでも、症状を遅らせることが薬の役目か?(答: 薬は がんらい 治しません、本人の回復力を 援助する のみ ―― 従って 回復力の薄い老人には 「猫に小判」 )。

声 5: フランス政府は認知症薬を無効としたが、だったらどうする?(答: 中核症状は大脳細胞の脱落によるものであって、年齢と同じく 治る性質 を持たない … だから 「生活療法」 で対応する ... 薬で治らない脱落を 元に戻そうとすれば 「多薬」の危険を冒すことになるかも知れない)。

  
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Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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